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金正恩「肝いり政策」に乗じて広がる北朝鮮の薬物汚染

デイリーNKジャパン / 2024年12月2日 9時10分

故金日成氏が描かれた紙幣でパイプをつくって覚醒剤を吸引する様子/撮影:デイリーNK

北朝鮮の「薬物との戦争」は、一向に出口が見えない。

北朝鮮は2021年7月、麻薬犯罪防止法を制定した。次いで2022年5月には刑法を改訂し、薬物密売の最高刑を死刑にするなど、対策に乗り出したが、麻薬問題は依然として深刻だ。その現状を江原道(カンウォンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:北朝鮮で最高人民会議全員会議…麻薬犯罪防止法を制定

現地では朝鮮労働党委員会、安全部(警察署)、保衛部(秘密警察)などの幹部が覚せい剤やアヘンなどを密売する事例が増えている。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

売人たちも幹部に近寄れば、取り締まりを避けることができるため、積極的に組織的にアプローチしているようだ。そのせいで幹部たちはいとも簡単に麻薬漬けにされてしまう。

デイリーNKの取材によると、中国語由来の単語「ピンドゥ(冰毒)」、または「オルム(氷)」と呼ばれる覚せい剤は、1グラム150元(約3140円)で売られている。コメ42キロ分に相当する額だ。

幹部とは言えども、常用するにはかなりの経済的負担がある。そこで、自らが売人になるケースがあるというのが情報筋の説明だ。密輸に加担すればかなりの儲けがあるため、経済的にも潤う。

「ここ(北朝鮮)で生産されたピンドゥが、中国では2000元(約4万1800円)から3000元(約6万2700円)で取り引きされる。密輸出すれば少なくとも10倍以上の価格になるため、中国に駐在している貿易イルクン(貿易機関の関係者)を通じて、ピンドゥを密輸出しようとする試みが多く見られる」(情報筋)

金正恩総書記は地方経済活性化策の「地方発展20✕10政策」を打ち出したが、これにより地方の貿易会社や様々な機関の貿易担当部署が、資材の輸入など貿易を活発に行なっている。これに乗じて、北朝鮮製の覚せい剤を中国に密輸しようとしているのだ。

法律が強化されたとは言え、幹部が絡んでいるため、取り締まりの効果が全く出ていない。それどころか、より深刻になっている。

「薬物問題が解決せずにむしろさらに深刻になっているのは、主なユーザーが幹部だからだ。幹部たちの中毒問題が深刻になりつつあることは、中央も認識しているが、簡単に手を付けられないようだ」(情報筋)

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

薬物に手を出すのは幹部だけでない。中高生の乱用も深刻だ。

そもそも、北朝鮮の薬物汚染は、自ら蒔いた種だ。

故金正日総書記の指示で、1992年から「白桔梗(ペクトラジ)事業」と称してアヘン栽培が始まり、続いて覚せい剤の製造にも手を付けた。ところが、その後に北朝鮮を襲った大飢饉「苦難の行軍」で、社会システムが崩壊し、生活に困窮した研究者や製薬工場の関係者が、アヘンや覚せい剤を市中に横流しするようになった。

庶民は、不足する医薬品の代用としてこれらを使うようになり、中毒者が激増した。当局は取り締まりに乗り出したが、もはや手が付けられない状況となってしまった。

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