「草を食べて生きている」金正恩の農政失敗で窮地の北朝鮮
デイリーNKジャパン / 2024年12月17日 14時7分
「晩秋になればコメが安くなり、白飯にありつける」
そんな光景ももはや昔のものとなりつつあるようだ。
デイリーNKが定期的に行っている北朝鮮国内の闇レートの調査によると、平壌では今月7日の時点で、1ドル(約151円)が2万1000北朝鮮ウォンに達している。また、毎日新聞は中朝貿易関係者の話として、先月20日の時点で新義州(シニジュ)で1ドル3万2000ウォンを記録したと報じたが、その後に4万ウォンに達したとの情報まで飛び出した。
(参考記事:「100人銃殺」でも抑え込めない、北朝鮮「通貨が紙くずに」の噂)
通貨安が一因となって物価高騰も続いていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、糧穀販売所(国営米屋)で販売されているトウモロコシ1キロの価格が8100北朝鮮ウォンから8300北朝鮮ウォンに達したと伝えた。
そして、通貨安が止まらない現状についても語った。
「最近、1ドルのレートが4万北朝鮮ウォンを超えた」
この4万ウォンがどこの都市におけるレートで、端数まで含めた正確な数字はいくらかなのかなど不明な点は多いが、今年5月末には平壌で1ドルが8900北朝鮮ウォンだったことを考えると、わずか半年で通貨の価値が4分の1以下になった計算になる。
(参考記事:「泣き叫ぶ妻子に村中が…」北朝鮮で最も”残酷な夜”)
その理由を情報筋はこう解説した。
「小麦と大麦を植える二毛作農業を無条件で実現させよと当局から強いられたことで、小麦、大麦などの前作、稲とトウモロコシの後作の両方が台無しになった。これは作物の生育期限と、科学的な施肥管理を無視した結果だ」
金正恩総書記は2021年12月末の朝鮮労働党第8期第4回総会で、救荒作物であるトウモロコシから脱却し、コメと小麦中心の食生活に変えていくと謳ったが、これが大失敗に終わっているということだ。
北朝鮮での二毛作は不可能ではないが、ビニールハウスやシート、肥料など様々な資材が必要となる。しかし、その予算は農場や農民が自費で負担しなければならない。
(参考記事:「どうやっても無理」と本音を言えば死刑にされかねない金正恩の農業政策)
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、トウモロコシ高騰の理由を、コメが高いため、多くの消費者が主食をトウモロコシに置き換え、需要が高まったせいだと述べた。
脱穀が終わりコメが市中に安く出回るこの季節には、貧しい農民でもコメを食べていたが、今ではコメだけを食べるのは難しいほど、食糧事情が厳しくなっているとのことだ。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
その理由を、情報筋は次のように語った。
「農民が1年間、汗水たらして農作業をしてもコメにありつけないのは、国家穀物生産計画分(ノルマ)として、収穫した食糧をすべて奪われたからだ」
「農場は、農民に1ヘクタール当たり10トンを納めることを求めた」
北朝鮮の田んぼ1ヘクタール当たりのコメの一般的な収穫量は5トンから8トンだ。10トンという要求がいかに無茶ぶりであるかがわかる。ちなみに、日本の農林水産省の資料によると、今年の1ヘクタールあたりのコメの予想収穫量は全国平均で5.4トンであり、大規模農業が行われている北海道でも5.92トンだ。
当局は、計画の7割に満たない場合、朝鮮労働党の農業政策を貫徹できなかった法的責任を問うと警告した。刑務所行きになることを恐れた農民の中には、家で飼っていた豚やヤギを売って、得た現金で穀物を買って納めるという一種の「自爆営業」を迫られる人もいた。
情報筋の嘆きは止まらない。
「1年間働いても草粥すら食べられないのが農村の現実だ。秋の収穫が終わった今、ほとんどの農民がまともにコメを食べられず、草粥で糊口をしのぐのだろう」
草粥とは文字通り、草を入れて炊いた粥のことだが、七草粥といった風情のあるものではない。1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のときに食べられていた、北朝鮮の人々にとっての「トラウマメニュー」なのだ。
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