北朝鮮が「街の浄化作戦」を開始…ねらわれるコチェビたち
デイリーNKジャパン / 2024年12月22日 5時3分
コチェビとは、ストリート・チルドレンやホームレスを指す北朝鮮の言葉だ。語源は、「放浪」を指すロシア語の「コチェビエ」と言われている。
北東部の会寧(フェリョン)、鍾城(チョンソン)、穏城(オンソン)、慶源(キョンウォン)、慶興(キョンフン)、富寧(プリョン)で話されている「六鎮方言」では、国境の向こうから流入したロシア語、中国語由来の単語が多く使われており、「コチェビ」という言葉もこの地方から全国に広がった可能性が考えられる。
六鎮から最も遠く離れ、韓国から至近距離にある黄海南道(ファンヘナムド)の海州(ヘジュ)でもこの言葉が使われているが、そんな地域でコチェビの取り締まりが始まった。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
朝鮮労働党黄海南道委員会(道党)は、市・郡の党委員会と安全部(警察署)が協力して、コチェビ取り締まりチームを立ち上げ、道内全域でコチェビ掃討作戦を繰り広げよとの指示を下した。
(参考記事:金正恩が身寄りのないコチェビの「最終処理」に乗り出した)
取り締まりは先月20日に始まり、海州市内の西艾(ソエ)、養士(ヤンサ)の二大市場、駅前などコチェビが集まる地域で集中的に行われている。
取り締まりチームは、コチェビと思しき人がいれば、大人、子どもを問わず無条件で拘束している。
「最近道端で、コチェビの取り締まりをよく見かける。捕まった人たちが一列になって移動する様子もあちこちで見かける」(情報筋)
居住、移動の自由がない北朝鮮では、登録された家に住み続けなければならず、無断で離脱するのは違法行為だ。道党は、勤労動員、政治集会などの「組織生活」に参加していないことを問題視し、捕まえて元の居住地に送り返し、国のコントロール下に戻す。
(参考記事:「誰も生き残れない」経済破綻の北朝鮮で断末魔の叫び)
終戦直後の日本でも行われていた戦災孤児の狩り込みと同じで、名目上は福祉だが、実際の目的は強制収容による「街の浄化」だ。
取り締まりチームは、捕まえたコチェビを取り調べて出身地、職業、学校、所属機関を聞き出し、身元がわかればすぐに送り返す。しかし、コチェビの多くが事業の失敗で家や家族を失ったり、飢餓から逃れるため、あるいは炭鉱や農村などといった生活環境の劣悪な地域から逃れるために都会に流入したりした人たちで、帰るところのない場合がほとんどだ。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
道党はそれらの人々を、集結所と呼ばれる施設に収容し、その間に新たな住居、仕事を探してあてがう事業を進めている。
そんなコチェビの狩り込みを海州市民は冷ややかな目で見ている。
「彼らは組織生活や仕事をせずに、路上で自由に暮らしていたから、機会さえあればまた路上に戻ってくるだろう」
「くだらない取り締まりをなぜ毎年繰り返すのか理解に苦しむ」
食糧難や煩わしい組織生活から逃れ、山に入って暮らす人々も数多くいる。当局は、そんんな人たちを統制下に置こうとするが、さらに山奥に逃げられてしまうなどして、うまくいっていないようだ。
(参考記事:飢えた北朝鮮の一家が「最後の晩餐」で究極の選択)
また、別の情報筋は、コチェビを送り返しさえすればいいという、道党の安易な解決方法を批判した。
「コチェビは自分たちだけの自由な生活を経験したので、組織生活への嫌悪感がかなり激しい。劣悪な環境に戻って定住せよと強いることそのものが無意味だ」
「送り返したところで、再び家を飛び出すのは時間の問題」
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