金正恩の愛娘が囚われていく「危険なナルシズム」
デイリーNKジャパン / 2025年1月4日 5時3分
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は1日、首都・平壌のメーデー・スタジアムで金正恩総書記の参加の下、新春祝賀公演が行われたと伝えた。同通信が公開した写真には、名前が「ジュエ」とされる同氏の娘の姿もある。
金正恩氏が公式行事に娘を同伴するのは、すっかり恒例となった観がある。
娘は2022年11月19日に公式メディアに初登場し、すでに2年以上が経過した。この間、30回超の動静が記事や写真で伝えられ、後継者説もささやかれ続けている。
独裁者の心理について研究している米ジョージタウン大学心理学部のファターリ・モガダム教授は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)とのインタビューで、ジュエさんが大衆の注目を浴びることで、ナルシズム(自己愛性)に陥る可能性を指摘している。
一般的に心理学では、ほとんどの独裁者がナルシシズムに陥っていると分析されているという。独裁者はナルシズムが著しく強く、自己評価が高く、自己中心的な考えや行いが突出して多い。ナルシシズムに陥ったリーダーは自分を過大評価し、批判に敏感で、権力を強化しようとする非民主的な行動を促進しうる。モダガム氏は、金正恩氏の娘が経験することは、英国王室の後継者が経験することと似ていると説明した。
「イギリスでは、幼い王子や王女は非常に早い年齢から世間の目にさらされます。ジュエは、北朝鮮の王女であることを経験しています。イギリスの王女と同じように、彼女は自分が特別な存在だと思うでしょう」
ただ、英国と北朝鮮では環境が大きく異なる。英国では、メディアや一般国民が王室批判を自由に行えるが、北朝鮮では不可能だ。それにより、よりナルシズムに陥りやすくなるという。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)
「心配なのは、誰も彼女の決定に疑問を持たず、彼女の考えや行動の一部が間違っている可能性があることを学べない状況で育つことです」
モガダム氏は、金正恩氏が権力基盤を固めていく過程にあった2016年2月と2017年2月に、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に応じている。やはりキーワードはナルシズムだった。
「金氏の年齢があまりにも若く、権力は引き続き不安であり、経済基盤が強力でないため、極端な独裁統治を維持する可能性が非常に高いと予測した」
モガダム氏は、金正恩氏が極端なナルシズムに陥っており、権謀術数に非常に優れた独裁者たちの共通点をすべて備えていると分析した。政策と行動が非合理的であったり、精神的に「病的な状態」であったりするわけではないが、権力に極端に飢えた、ナルシズムに陥った人物であることはほぼ間違いないという評価だ。
また、極悪な独裁権力は、政権維持に対する不安のため、微細な反対の動きにも敏感に反応し、不服従行為に対して不寛容だと説明した。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
先代と先々代を超える金正恩氏の残忍さも、この強烈なナルシズムからくる不寛容が根底にある可能性がある。
最高指導者が「無謬の存在」とされる北朝鮮において、仮に娘が後継者として歩んでいくならば、そのロールモデルは父親しかいない。彼女もまた、父と同様の危険なナルシズムに取りつかれてしまうのだろうか。
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