通貨価値が3分の1、物価は2倍になった北朝鮮で広がる新しい形の「貧富の差」
デイリーNKジャパン / 2025年1月22日 6時11分
北朝鮮の物価は急激な上昇が伝えられているが、わずか1年で2倍近くになった。ただ、北朝鮮国民が一様に生活苦に直面しているわけではないようだ。
韓国デイリーNKは、北朝鮮国内3都市の物価、為替レートの定期調査を行っているが、今月5日の時点で、平壌では1ドル(約156円)が2万2100北朝鮮ウォンで取り引きされた。昨年1月初旬には8300北朝鮮ウォンだったが、6月初旬に急に1万2100北朝鮮ウォンとなり、8月初旬には1万5200北朝鮮ウォン、11月初旬には1万8100北朝鮮ウォン、そして12月初旬には2万1000北朝鮮ウォンの値を付けた。(1万北朝鮮ウォンは約70円)
対米ドル相場で、北朝鮮ウォンの価値はわずか1年で3分の1近くまで下がった。平安北道(ピョンアンブクト)の新義州(シニジュ)や両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)でも、平壌とほぼ同じ水準だ。なお、一部では1ドルが40000北朝鮮ウォン台になったとの情報もあるが、全国的な現象ではないようだ。
一方、中国人民元は、5日の時点で、平壌で1元(約21円)は3200北朝鮮ウォンだった。昨年1月は1250北朝鮮ウォンだった。
(参考記事:「泣き叫ぶ妻子に村中が…」北朝鮮で最も”残酷な夜”)
北朝鮮ウォンの価値の暴落で、輸入品の価格は2倍近くになっている。
平壌の市場では5日、ガソリンと軽油の1キログラムの価格がそれぞれ2万4400北朝鮮ウォン、2万1300北朝鮮ウォンで、昨年同期比で92.1%、88.5%上昇した。食用油と砂糖も85.0%、97.9%上昇した。
豚肉は1キロ3万1200北朝鮮ウォンで、昨年同期比で108%上昇したが、これは為替レートの変動より、アフリカ豚熱により飼育数が減少したことによる影響が大きいと見られる。
輸入品の中で唯一価格が安定しているのは小麦だ。需要が多くなく、国営の貿易会社を通じて限定的な輸入販売が行われているためと見られている。
北朝鮮の物価、経済状況の把握において欠かせない目安となっているのが、コメとトウモロコシの価格だが、価格は大幅に上昇したものの、その幅は輸入品ほどではない。
平壌の市場では5日、コメ1キロの価格は8500北朝鮮ウォンで、昨年同期の4820北朝鮮ウォンと比べて76%上昇した。トウモロコシは4200北朝鮮ウォンで、昨年同期の2260北朝鮮ウォンと比べて86%上昇した。
物価の高騰に対する北朝鮮国民の反応は、一様ではない。
職場に所属しているが、役職についているわけではなく、市場での商売から得られる収入が少ない貧困層は、非常につらい思いをしている。主食をコメからトウモロコシに変えるだけでなく、食事の量を減らして、かろうじて生きている。農村地域では、食糧もそれを買う現金も底をついた「絶糧世帯」が増加していると、複数の内部情報筋が伝えている。
(参考記事:政府の「飢餓救済策」にむしろ反発する北朝鮮国民)
一方、大手の企業所、学校、党機関で高い役職についている幹部は、物価高騰のダメージをさほど受けていない。これは北朝鮮が昨年、賃金を大幅に引き上げたことと関係する。
平壌のデイリーNK内部情報筋は、「大きな単位(職場)で貿易をしていて、元々お金に余裕のある人や幹部は、昨年、給料が10倍以上上がったため、物価高騰によるダメージをさほど感じていないようだ。むしろ、国の政策によりコメ価格が下がったという人もいる」と伝えた。
(参考記事:「給料は20倍になったけれど…」急激な通貨安に動揺する北朝鮮)
この大幅な賃上げにより通貨供給量が増えて、インフレを引き起こしているとの見方もある。
2010年代には、市場での収入の多寡が貧富の差を生んでいたが、市場に対する締めつけが強化された今では、勤め先や役職により、所得格差が生じる形となっている。
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