北朝鮮、ロシア戦死者遺族にタワマン贈与…親たちは「そんなもの要らない」
デイリーNKジャパン / 2025年1月19日 5時27分
韓国の情報機関、国家情報院は13日、ウクライナの前線に派遣された北朝鮮の兵士のうち、死者が300人、負傷者が2700人に達したものと推計していると明らかにした。
北朝鮮当局は、戦死者の遺族にどのような対応をしているのか。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、明澗(ミョンガン)に住む夫婦のもとに朝鮮労働党明澗郡委員会(郡党)の責任書記(地域のトップ)がやって来て、このように告げた。
「急いで平壌に来て欲しい」
情報筋の友人の親戚だというこの夫婦の社会的地位は不明だが、一般庶民だとすると、責任書記が訪ねてくるとはめったにないことだ。彼は夫婦を自分の車で駅まで送り、切符と弁当を渡して列車に乗せた。
平壌に着いた夫婦を待っていたのは、悲しい知らせだった。
「軍で勤務していた息子が重要な任務の途中、不意の事故で亡くなった」
そして、「戦死証」と朝鮮労働党の「党員証」が手渡された。
重要な任務の遂行中に死亡した人の家族には、労働党への入党、大学進学推薦、幹部登用、特別な配給など、様々な配慮が行われる。これは、成分(身分)が上昇したにも等しいと言えよう。
(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」)
息子がどんな任務に携わり、どこでどう亡くなったかについて、当局からは一切説明がなく、声を上げて泣くことも許されず、「このことは親戚や周りの人に絶対に言ってはならない」と固く口止めされた。
(参考記事:「捕虜になった北朝鮮兵」家族はこうして殺される)
明澗に戻った夫婦は、郡党の責任書記に出迎えられ、車で自宅まで送ってもらった。そして、「既に話は付けてある」として、10日ほど仕事を休むよう言われた。
情報筋の友人によると、息子の死について一切の説明を受けなかった夫婦だが、このように考えているそうだ。
「ウクライナとの戦争に派遣されて死んだのだ」
北朝鮮では既に、自国兵士がロシアに派遣されたことが広く知られており、国内で勤務中に死亡した兵士の遺族に対する待遇とは、あまりにも違いすぎることで、そのように見ているとのことだ。
(参考記事:「事故死した98人の遺体をセメント漬け」北朝鮮軍の中で起きていること)
理由はどうあれ、ひとり息子を失った悲しみは大きく、夫婦は泣き暮らしているとのことだ。
別の情報筋は、妻の親戚の話を伝えた。
この家族が地元の労働党委員会の幹部に送り迎えされて平壌に行き、息子が重要な任務の途中で戦死したと伝えられ、戦死証と党員証、それに加えて勲章まで手渡された。
戦死証授与式で、党幹部はこのように述べた。
「党の配慮で名誉の戦死を遂げた軍人すべてに、永遠の政治的生命のしるしである党員の名誉を与えることとなった。党は、現在建設中の和盛(ファソン)通り(のタワマン団地)が完成すれば、あなたがたを平壌に呼んで平壌市民として住まわせると決心した」
(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設…でもトイレ最悪で死者続出)
ここで言う「党」は、文脈から金正恩総書記を指すものと思われる。
当局は遺族に「党の配慮に感謝して、任された哨所(職場)で頑張ってほしい」と伝える一方で、このことを外部に話すなと何度も釘を刺された。
平壌は、思想や成分に問題ないとお墨付きを得た「選ばれし者」だけが住むことを許される特別な都市だ。
平壌市民証、党員証を得たところで亡くなった息子が生き返るわけではない。「平壌に住めて羨ましい」との周囲の心無い声に、遺族は「まだ21歳だった息子を失ったのにそんなもの必要ない」と怒りと悲しみをあらわにしているとのことだ。
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