「泣き叫ぶ女性を6人で」北朝鮮住民が震えた残酷な夜
デイリーNKジャパン / 2025年1月24日 5時10分
女性の泣き叫ぶ声がマンションの廊下に響き渡った。
中国、ロシアと国境を接する北朝鮮北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)では、秘密警察にあたる国家保衛省が大々的な検閲(取り締まり)を行っている。現地の人々は、いつ自分が逮捕されるかわからないという恐怖に震えている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
川を挟んで中国と向かうあう道内の会寧(フェリョン)で今月4日午後11時ごろ、国家保衛省の取り締まり班6人が、20代の女性の住むマンションを急襲した。
女性は家宅捜索を受けた後、手錠をかけられ、髪の毛をつかまれた状態で連行された。絶望のあまりだろうか、女性は連行されるときに泣き叫んだ。廊下に響き渡った声に驚いた住民は外に出て、一部始終を目撃してしまった。そして、極度の不安に震えているという。
この後の取り調べで拷問を受けるのは基本だが、全財産を差し出すことで釈放されるのか、教化所(刑務所)や管理所(政治犯収容所)送りになるのかなど、女性の処分はまだ決まっていない。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
さて、この女性にかけられた容疑は何だったのか。
「逮捕された女性は、母親と二人暮らしで服を売って生計を立てていた平凡な人だった。ところが、最近になって格好が急に派手になり、テレビなどの電化製品や家具を買い替えるなど、暮らし向きがよくなり、近所の注目を浴びていた」(情報筋)
北朝鮮では、急に暮らし向きがよくなるだけで、何かよからぬことをしているのではないかと怪しまれてしまう。
会寧は国境に接しているだけあって、密輸、違法な送金などかつては大々的に行われていたが、コロナ禍から厳しく禁じられるようになった。生きていくためには、大なり小なり禁止された行為に手を染めざるを得ないが、女性も何らかの違法行為を行っていると疑われたのだろう。
(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為)
国境から離れた地域であっても、財力を示すような行為は非常に危険だ。犯罪に手を染めてはいなくとも、カネがあることがバレれば、地元当局から様々な理由でたかられたり、罪をでっち上げられて全財産を奪われたりするなど、ろくがことがないからだ。
「この国(の機関)は取り締まりをしてこそカネが儲かるので、『銃口の先にカネがある』と言われるほどだ。しかし、カネがあってもそんな素振りを見せてはいけないというのが常識だ」(情報筋)
(参考記事:北朝鮮、闇両替商を摘発し銀行利用を奨励するも庶民はガン無視)
各地域には安全部(警察)や保衛部(秘密警察)のスパイがいるため、一財産築いた人でも、表向き平々凡々とした暮らしをしているかのように偽るものだ。
だが、この女性は、「ちょっと稼いで暮らし向きが少しマシになった程度」(情報筋)であるにもかかわらず、国家保衛省の取り締まり班のターゲットになってしまった。それで皆が「もはや誰一人として安心できない」と非常に不安がり、息を潜めて暮らすようになったのだ。
一連の取り締まりは、内部の引き締めが目的と思われるが、むしろ金正恩政権に対する反感を高めていると情報筋は指摘した。
「国を守るというのはわかるが、あんなに無作為で人を捕まえれば、体制に対する不信ばかりが募る。住民の恐怖が高まるほど、体制は強化されるのではなく、むしろ徐々に弱体化していく」(情報筋)
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