北朝鮮国民を疲労困憊させる「世界で最もつまらない新聞」
デイリーNKジャパン / 2025年1月25日 17時40分
世界で最もつまらない新聞を読まされるのは拷問に等しい。
北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞。24日付の紙面に掲載された記事をタイトルをいくつか抜粋する。
◯朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第14期第12回会議行われる
◯電力生産に対する組織と指揮を科学的に
〜戦略的に行い国家経済の安定的発展を担保する〜
◯愛国の力と情熱を捧げる意志の発現、黄海南道の青年たち、苦しくつらい部門に嘆願
◯花咲く希望、踏みにじられる夢
◯腐って病んだ資本主義社会
5面、6面はプロパガンダ臭がするとは言え、国際ニュースが掲載され、まだ読めるが、1面から4面にかけては思想が云々、革命が云々という記事がゴマ粒のような字でびっしり書かれており、堪え性のない人なら途中で投げ出してしまうだろう。
これをつまらないと思うのは北朝鮮の人々も同じだ。それなのに当局は、どんなに仕事が忙しくても、そんな記事を音読せよとの指示を下した。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
朝鮮労働党中央委員会(中央党)は先日、各道・市・郡の委員会を通じて、行政機関や企業所にこのような指示を下した。
「すべての単位(職場)では毎朝の読報時間に、従業員に労働新聞や首領様、将軍様、元帥様の業績を扱った偉大性資料を大声で読み上げさせよ」
読報時間とは、文字通り労働新聞を読む時間のことだ。場合によっては、党から下された資料を読むこともある。これを就業前に15分から30分ほど行うことになっている。この時間を通じて、故金日成主席(首領様)、故金正日総書記(将軍様)、金正恩総書記(元帥様)への忠誠心を養えということだ。
だが、この読報時間は割愛されることが多い。例えば、何交代かで24時間生産を行っている現場では、朝に従業員全員を集めることが難しいため、実施しないのだ。
ところが、昨年末に開催された朝鮮労働党中央委員会第8期第11回総会で、末端の組織まで政治思想教育と宣伝扇動を強化しなければならないという件が議論された結果、各職場に「読報時間を遵守せよ」との指示が下されたのだ。
(参考記事:朝鮮労働党でサボタージュ横行…金正恩失政で拍車)
指示に基づき、行われていなかった読報時間が復活した。
「年明けから、生産単位の企業所のみならず、賃金加工の作業班でも、朝7時間半から8時までの30分間、読報時間を守れと言われた。サボったり遅刻したりしたら後日、党に対する忠誠度を評価する際に問題になると言われた」(情報筋)
賃金加工の作業班とは、よそから注文を受けて、何らかの製品を生産して代金を受け取る部署で、国から下された生産計画(ノルマ)とは別に作業を行う非公式のものだ。これをしなければ、工場の予算を確保できないのだ。
「そんな部署にすら、党の思想を行き渡らせよという指示だ」(情報筋)
北朝鮮では乳飲み子を除いたすべての人が職場、学校、女性同盟など何らかの組織に所属することになっていて、そこで読報時間などを使った思想教育を受けることになっていた。ところが、計画経済システムが機能しなくなった1990年代から、市場などのプライベートセクターで働く人が増えた。そんな人は、思想教育を受ける時間が比較的短い。中央は、「朝鮮労働党が国民の信頼を失ったのは、思想教育が行き届いていないから」と考えたようだ。
かくして、読報時間の実施を徹底するよう指示を下したわけだが、現場の評判は最悪だ。情報筋は、毎朝の読報時間はまだいいとして、週に1回、その内容に基づき討論をしなければならないのが疲れると不満を漏らした。
ある人は、こう言い切った。
「不必要な思想教育をなぜしつこくやれというのかわからない」
お金を儲け、生活を豊かにするのに必要なのは、経済のしくみや商売のやり方などの知識、新しいアイテムに関する情報に触れることであり、押し付けの思想など学んだところで一銭の得にもならない。
(参考記事:「あくび」と「私語」であふれかえる、北朝鮮の「復讐決議大会」)
繰り返し行われる政治講演会も、一時はサボる人が多く、参加したとしても、私語に夢中になったり居眠りしたりと、態度は不真面目そのものだった。たびたび「ちゃんとしろ」との指示が出されてもその場限りで、結局はもとに戻ってしまう。
(参考記事:「恥知らずな要求するな」金正恩の”思想教育”に国民反発)
情報筋は、思想教育を巡る人びとの考え方が変わりつつあることを感じているようだ。
「以前と比べて読報時間に出席させられることに不満を持つ人が増えた。今の人びとは、国の一方的な思想教育を批判的に受け止めているのではないか」
国民生活を向上させるはおろか、むしろ計画経済への回帰という時代遅れの政策で、国民の足を引っ張りまくっているのが朝鮮労働党であり、金正恩氏だ。自由な経済活動を妨害し、国民を貧困と飢えの奈落に引きずり込むばかりなのに、「われわれをもっと尊敬せよ」と言ったところで、耳を傾ける者はいまい。
尊敬や忠誠は、自然と溢れ出てこそ意味があるのだ。
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