息子の「ロシア派兵」を阻止すべく半狂乱で駆けずり回る北朝鮮の親たち
デイリーNKジャパン / 2025年2月4日 14時37分
北朝鮮の国営メディアは、かなり頻繁にロシアの「特別軍事作戦(ウクライナ侵略)」に関する記事を公開している。その中ではゼレンスキー政権を「傀儡一味」と呼ぶなど、一貫してロシア寄りの姿勢を取っている。しかし、自国の兵士をその最前線に送り込んだことについては、いっさい言及していない。
国内で起きうる動揺や反発を恐れての措置だろうが、全世界のメディアが報じていることを隠し通せるわけがない。既に昨年11月ごろから、中国からこの情報が北朝鮮に入り、口コミネットワークを通じて全国に広まったようだ。
(参考記事:「捕虜になった北朝鮮兵」家族はこうして殺される)
兵役に就く年齢の子どもを持つ親たちは、なんとしてでも軍に送るまいと涙ぐましい努力を繰り広げている。現場ではワイロが飛び交い、脱法行為が横行、半狂乱になる親も現れるなど、かなりの混乱となっているようだ。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
今年3月に高等中学校(高校)の卒業を控えた男子生徒やその親たちの間では、こんな話が広がっている。
「最近、軍に行った息子の戦死証を受け取った平城(ピョンソン)と安州(アンジュ)の5組の親たちの場合、息子はいずれも入隊から5年以内だった。彼らは息子がいつ、どこで、どのようにして死んだのかも知らされていないが、戦死証を受け取ったことからロシアで死んだともっぱらの噂になっている」(情報筋)
(参考記事:北朝鮮、ロシア戦死者遺族にタワマン贈与…親たちは「そんなもの要らない」)
この話を聞いた若者やその親たちは震え上がり、あの手この手で軍入隊を逃れようとしている。
平城に住む50代の住民は、3000ドル(約46万3000円)分のロシア製のタバコという「手土産」を持って、平城市軍事動員部の幹部の自宅を訪れた。そして、こう訴えた。
「息子は体が弱く、軍に入っても1カ月も持たないだろう。健康を取り戻した後の1年後に入隊できるようにして欲しい」
来年には戦争は終わっているだろうと見込んで、入隊時期の先送りしてもらえるように、ワイロを渡したということだ。
安州に住む40代の夫婦も、安州市軍事動員部の幹部の家を訪れた。彼らは、2000ドル(約30万8000円)の現金を手にしていた。そして、息子を兵役を免除してくれるように懇願した。
「これで足りないのなら、家を売ってでも要求の額を渡す。だからどうか助けて欲しい」
一般の労働者が受け取る月給は、多くとも5万北朝鮮ウォン(約350円)だ。それすらまともに支給されず、商売もうまく行かない。そんな状況で何千ドルものワイロを払えるのは、ごく一部の層に限られている。
貧しい人々は、奥の手を使わざるをえない。
「炭鉱に送られれば、もう都市には戻れない。それでも戦場よりはマシだと考え、息子を炭鉱に送ろうとする親もいる」
(参考記事:「性上納、もう嫌だ」女性兵士が逃げ出す北朝鮮軍の「巨大な穴」)
両江道(リャンガンド)の情報筋によれば、高校卒業を控えた一部の生徒が、農村に行かせて欲しいと当局に頼み込んだが、「兵役逃れの猿知恵」だとして拒否されたと伝えた。ただ、炭鉱は農村より条件がはるかに悪いため、「炭鉱に行って兵役逃れ」の手法は意外と使えるのかもしれない。
両江道のデイリーNK情報筋は、兵役逃れのため手や足の指を切断するなど、自傷行為を行う若者すら現れたと伝えた。
市の軍事動員部のイルクン(幹部)は、息子の兵役逃れのために訪ねてくる親たちがあまりにも多いと嘆いている。下手に一部の人の要求だけを飲んでしまえば、他の人の恨みを買って通報されかねず、そうなれば職を失い処罰を受けるかもしれないからだ。
黄海北道(ファンヘブクト)沙里院(サリウォン)の内部情報筋によると、親たちは一様に「息子を(対外工作を行う)偵察総局に送るのだけはやめてくれ」と、市の軍事動員部の幹部に頼み込んでいる。これは、「ロシアに派兵されるのは偵察総局の兵士」という情報が広がったことによるものだ。
実際、ウクライナ軍が公開した北朝鮮兵捕虜の1人は、所属が「偵察局」だと語っている。偵察総局の下部組織である「陸・海上偵察局」の部隊に所属しているのかもしれない。
市軍事動員部のイルクンは、「偵察総局への配属は非常に名誉なこと」と親たち説得するも、親たちは「偵察総局でさえなければどこでもいい」と訴え、半狂乱になりつつイルクンを追いかけ回しているとのことだ。
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