「生かさず殺さず」の経済システムで瘦せ細る北朝鮮の中間層
デイリーNKジャパン / 2025年2月8日 7時21分
搾り取れるところからどんどん搾り取れということだろう。
「カネと権力こそすべて」の今の北朝鮮では、体制批判などよほどのことでない限り、揉み消すことが可能だ。例えば、北朝鮮の人々が最も嫌がることのひとつと言えば勤労動員だが、これもカネさえ払えばいくらでも免除してもらえる。
ただ、その額は急激に上がりつつある。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
恵山(ヘサン)市内の人民班(町内会)では、「高額主」といって、勤労動員などをカネで1年間免除してもらえる非公式のシステムが存在する。非公式とは言っても、市内の人民班で額が一律であることから、上が決めたものだろう。その額は、元々300元(約6470円)だった。
ところが、それが急激に上がった。
昨年7月の水害で深刻な被害を受けた恵山など両江道の各地では、大々的に復旧工事が行われている。また、金正恩氏が提唱した「地方発展20✕10政策」で、地方企業工場の建設も同時に行われている。それに伴い、人民班長(町内会長)から勤労動員への参加を求められることが急増した。
300元では免除してもらえなくなり、200元(約4320円)を追加で払うように要求された。なしくずし的に値上げされたのだが、今年に入ってさらに上がり、600元(約1万2950円)になった。動員回数の増加に加え、著しい物価上昇を反映したものだという。
「人民班に下される社会的課題(動員、金銭の供出)は、地方企業工場の建設に必要な資材、手袋、石鹸などだが、すべて市場で購入しなければならない。価格が昨年比で大幅に上がったことから、高額主の金額も上がったのだ」(情報筋)
ただ、物価上昇は急激なウォン安に伴うもので、人民元ベースではさほど上がっていないのだが…
(参考記事:「コロナ鎖国」解除で外国製品流入も、物価高騰に苦しむ北朝鮮国民)
600元は、コメ200キロが買える額だ。日々の食事にも事欠く貧困に苦しむ人びとには、考えられないほどの高額だ。それでも金持ちはこれを払うことで、商売に時間を有効活用できることから、この「制度」を利用する。
動員や金品の供出の命令が下されれば、人民班長は家々を巡り、督促や徴収をするのだが、金持ちは面倒を避けるために、喜んで600元もの額を支払う。
一方で貧しい人たちは、動員や金品の供出を逃れることができず、ますます貧しくなっていく。
人民班長に言われた通りに金品を供出できなければ、毎日のように急かされたり、他の人の前で恥をかかされたりする。ただでさえ重い経済的負担に加え、心理的負担までのしかかり、心身ともに疲弊していく。
恵山市内に住む60代の市民はこう述べた。
「ここ(北朝鮮)は、ますます貧乏人には暮らしにくい国になりつつある。金持ちはいくらか支払えばすべての動員を免除され楽に生きられるが、貧乏人は急かされたり恥をかかされたりばかりだ」
「ただでさえ商売がうまく行かず、日々綱渡りの暮らしをしているのに、勤労動員や金品の供出が増えれば増えるほど、人びとの暮らしは成り立たなくなる」
(参考記事:少なくとも100人死亡…金正恩命令の「速度戦」で死屍累々)
コロナ前には、なしくずし的な市場経済化による貧富の差が問題になっていた北朝鮮だが、「中央集権的な計画経済への回帰」という時代錯誤な方向に舵を切った。国内移動の制限、市場での取り扱い禁止品目の増加など、経済活動への制約が増えたことで、トンジュと呼ばれる新興富裕層の多くが没落した。
金持ちを無理やり貧乏人のポジションまで引きずり下ろしたわけだが、トンジュの中でも、かなりの額の資産を持ち、幹部とのコネを持った人びとは生き残ることに成功した。
言い換えると、そこそこカネがあり、権利意識が強く、体制を揺るがしかねない存在となりうる中間層を叩き潰したということだ。
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