過去の罪が消せると思うか 「グーグル犯歴削除」を請求したタワケたち

デイリー新潮 / 2017年3月21日 8時1分

地裁は削除を命じたが…

 破廉恥な振舞いが法に触れたにもかかわらず、インターネットで事実が晒されぬよう、検索サイトに削除要請──。そうした厚顔な面々に対し、先ごろ最高裁は請求を一斉棄却し、初めての判断を下した。“不都合な過去”が、恣意的に消し去られてはたまらない。

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 人の口に戸を立てたところで、ネットの前ではまるで用を成さないのは自明の理。そんな時代にあって、最高裁が画期的な決定を下したのは、さる1月31日のことだった。

 司法担当記者が言う。

「判断基準が具体的に示されたのは、現在30代の男性が2011年11月、女子高生に金銭を渡してわいせつ行為に及び、児童買春・児童ポルノ禁止法違反容疑で逮捕された事案です。男性は、罰金50万円の略式命令を受けた後もネット上で自分の逮捕歴が表示されるとし、15年1月、グーグルに削除を求める仮処分を、さいたま地裁に申請したのです」

 同地裁は同年6月“社会生活の平穏を害されない利益を侵害している”として、この男性の申し立てを認め、49件の検索結果の削除を命じた。グーグル側はこれを不服として異議申し立てをし、保全異議審が始まったのだが、同年12月、過去の犯罪について「忘れられる権利」があると判断した地裁は、あらためてグーグルに削除を命じる決定を下したのだった。

 この「忘れられる権利」とは、そもそも欧州で根付いた理念であり、

「スペイン人男性が、自身の保険料滞納がもとで不動産が競売にかけられたと報じた新聞記事を削除するよう請求した裁判で、14年5月、欧州司法裁判所はグーグルに削除を命じました。この時に注目を集めたのが『忘れられる権利』です。16年4月には、欧州議会が可決した『EUデータ保護規則』に消去権として登場。個人情報を利用する際は本人の同意が必要とされ、その目的に反するなどした場合には、この権利によって削除を求めることができるようになったのです」(同)

■最高裁が棄却

 もっとも、わが国ではいささか事情が異なる。一昨年暮れ、さいたま地裁がこの権利に言及したことは大きな話題となったのだが、グーグルはなおも不服を申し立て、舞台は東京高裁へと移った。

 そして16年7月、高裁は保全抗告審で、

〈(「忘れられる権利」は)法律で定められておらず、プライバシー権などとは別にして扱うべきではない〉

 との判断を打ち出し、削除は認められないとする逆転決定を下したのである。

 今回、最高裁は「忘れられる権利」については一切触れず、ユーザーへの検索結果の提供が違法か否かの点については、

〈プライバシーに属する事実が伝わる範囲と、本人が被る被害の程度、社会的地位や影響力(略)など、事実を公表されない法的利益と、検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもの〉

 であるとし、

〈その結果、公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、削除を求めることができる〉

 初めての統一判断を示しながらも、この男性については、

〈児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし、今なお公共の利害に関する事項である〉

 従って、

〈公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない〉

 と、その請求を棄却したのである。

■“処置なし”の盗撮犯

 こうした請求は増加の一途である。最高裁によれば、グーグルやヤフーなどの事業者に対し、検索結果の表示の差し止めや損害賠償などを求めた申し立て事件は、昨年54件にのぼった。そこには、前述のケースとは異なり、犯罪と無縁ながらも検索で表示されてしまう「デマ」の被害者もいる。

 実際に最高裁が今回、あわせて退けた4件の削除請求の中には、こんなケースがあった。さる司法関係者が明かす。

「原告は30代の男性医師。2003年、早大のイベントサークル『スーパーフリー』の集団強姦事件が発覚しました。彼は当時、サークルのメンバーでしたが、一連の事件とは無関係だった。にもかかわらず、自分の名前を検索すると『スーフリ幹部』と表示され、犯罪に加担したかのような記述が後を絶たないため、11年9月、グーグルを相手取って訴訟を起こしたのです」

 裁判で男性は、

〈原告が「スーパーフリー」に入会していたことは広く人に知られたくない事実〉

〈摘示自体が、原告の社会的評価を低下させ得る〉

 そう主張したのだが、東京地裁は13年5月、続いて高裁も同年10月、それぞれ請求を棄却している。代理人の弁護士によれば、

「彼は逮捕されていないので、仮にネットで“有罪判決を受けた”と書き込まれてもプライバシーには当たらず、単なるデマでしかない。地裁判決は『検索結果の表示だけを見て、虚偽だと判断できない限りは削除しなくてよい』というものでした。つまり、デマなら原則として自由に載せられるという、ねじれた話になっているのです」

 犯罪集団と接点があったとはいえ、これはいわば“もらい事故”のパターン。かと思えば、退けられた4件には、まさしく盗人猛々しい男も含まれていた。

「京都府在住、50代の盗撮常習者です。09年、電車で女性のスカート内をビデオ撮影し、兵庫県警に条例違反容疑で逮捕されている。また12年にはサンダルにカメラを仕込んでスカート内をのぞき、同じく京都府警が逮捕。翌年4月には懲役8月・執行猶予3年の有罪判決が確定しました」(前出関係者)

 その後、ネット上での逮捕記事を削除すべく、男は13年9月、グーグルとヤフーの両社を相手取り、慰謝料など1100万円を求める訴えを起こした。が、

「14年8~9月、京都地裁で2件とも敗訴。15年には大阪高裁で、いずれも請求が棄却されています。本人は裁判で『軽微な犯罪。罪を反省して社会復帰を考えたが、逮捕歴が知られれば再就職にも支障が出る』などと主張したのですが、上告中の16年2月、またしても大阪・梅田の靴店で逮捕されてしまった。さらにその公判中の9月、今度は梅田の書店で、スカート内にスマホを差し入れて逮捕されているのです」(同)

 慰謝料やら社会復帰やら、まさしく“寝言は寝て言え”と言うほかない。

 こうした上告人らのよすがとなったのは、先に述べた「忘れられる権利」なのだが、京大大学院法学研究科の曽我部真裕教授によれば、

「東京高裁では『そのような権利があるわけではない』と、さいたま地裁の判断が明確に否定されている。最高裁もそれを支持したわけで、今後は法改正をしない限り、『忘れられる権利』が法的に認められることはないと思います」

特集「過去の罪が消せると思うか! 最高裁が棄却『グーグル犯歴削除』を請求したタワケたち」より

「週刊新潮」2017年3月16日号 掲載

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