「抒情」から「官能」へ……。さらに深みを増した新海誠ワールド

ダ・ヴィンチニュース / 2013年5月14日 13時40分

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『言の葉の庭』(監督:新海誠)

 2002年、監督・脚本・演出・作画、ほとんどの作業をたったひとりで行った『ほしのこえ』で、我々の目の前に現れた、まったく無名の新人クリエイター新海誠は、その自主制作とは思えないクオリティと、当時ブームであった「世界系」と一脈通ずるリリカルな表現で、観る者の心を、たった25分の尺で鷲掴みにした。

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 あれから約10年。『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども 』と、着実にそのキャリアを重ねてきた新海誠が放つ最新作、それがこの『言の葉の庭』だ。スケールアップした物語とファンタジー路線から「ジブリ的」とも言われた前作『星を追う子ども』から一転、再びリアルな日常に回帰した今作で、新海はいったいどんなヴィジョンを我々にみせてくれるのだろうか?

 靴職人になる夢を抱きながらも、その夢への果てしない距離にとまどう高校1年生タカオ。雨が降る度に午前中の授業をサボり、途中下車してはお気に入りの公園の日本庭園で靴のデザイン画を描くのが、唯一心休まる瞬間だ。そんな日本庭園で出会った年上の女性・ユキノ。雨の日にだけ出会う、住んでいるところも、年も仕事もなにひとつ知らない「あの人」に、いつしかタカオは、強く心ひかれるようになる。物語は、そんな2人が重ねる雨の日だけの淡い交流を、タカオ、ユキノ、それぞれの視点から描いてゆく。

 とにかく圧倒的な画面の濃密さにうっとりしてしまう。これまでの新海作品が、その緻密な背景美術と雪や桜吹雪など自然描写を登場人物の心情とシンクロさせることによって、抒情的効果を上げてきたのに対し、この『言の葉の庭』の美術はさらになまめかしさを増し、それ自体がもはや官能的とさえ言えるレベルに達している。メインのモチーフである「雨」の描写に限っても、梅雨時の雨、夏の夕立、集中豪雨と、季節の移り変わりとともに、その表情を鮮やかに変えてゆく。殊に、今回は濡れた地面や水たまりなどに映り込む景色や、跳ね上がる水滴、水しぶきの描写が素晴らしく、お互いの手も触れない2人に代ってセクシャルな役割を担っている。

 また「雨」とならぶ重要なモチーフである「靴」が、フェティッシュな官能性(年上の女性の素足に触れ、足形をとる!)と、自立して歩くというテーマを同時に描いていることにも注目したい。劇中における、食べ物の描写も同様で、母親不在の家庭で料理を覚えたタカオが切る、野菜の切り口のみずみずしさ。対して、ユキノが口にするビールやチョコレートの味気なさ。2人ではじめて一緒に食べたお弁当のおいしさ。それらすべてがクライマックスにおける感情の爆発に繋がる。

 主題歌は、大江千里80年代の名曲『Rain』を秦基博がカヴァー。ピアノを基調としたBGMと並んで涙腺決壊間違いなしとだけ言っておこう。主演は、主人公・タカオを『星を追う子ども』に続いて入野自由が。自分の生き方を見失ってしまった20代の女性・ユキノを、花澤香菜がリアルに演ずる。

 新海誠が描く、目で観て耳で感じる「文学」。ぜひともスクリーンで体感していただきたい。

取材・文=柳井洋二
(ダ・ヴィンチ電子ナビ アニメ部より)

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