たったひとりで『舟を編む』! 哲学的エロス4コマ漫画の金字塔!

ダ・ヴィンチニュース / 2013年5月21日 12時0分

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『コージ苑(第一版)』(相原コージ/小学館)

 昨年の本屋大賞を受賞した三浦しをんの『舟を編む』(光文社)。辞書を編纂する部署で働く個性的な面々の、辞書と言葉への偏愛っぷりがコミカルに描かれ、松田龍平と宮崎あおいが出演する同名映画もヒットしている。また辞書は言葉の選定から始まり、出版まで数十年に及ぶ気の長いコツコツとした編集作業や、めくりやすく裏写りしない「ぬめり感」のある紙が選ばれるなど、意外と知らない辞書のウンチクなども小説に盛り込まれ、辞書編纂がどれほど大変なことなのかを一般に知らしめた。

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 しかしこの辞書をたったひとりで、しかもそれまでになかった「漫画」という形で編纂した男がいた! それが80年代後半、漫画雑誌『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)を裏から読ませると話題になった人気4コマ漫画『コージ苑』(小学館)、作者は今年画業30周年を迎えた漫画家の相原コージだ。最近ではゾンビホラー漫画『Z~ゼット~』(日本文芸社)が話題となっている。

 辞書であるからして、数多ある言葉から厳選された言葉の意味を解説するという体裁ではあるものの、そこは編者である相原が独自に、そして恣意的に言葉を解釈。その使用法などを文字情報として記載しながら、4コマ漫画で言葉の世界観を見せるというのが本作のスタイルだ。モテない男たちや社会から少々ズレている、もしくは粛々と日常を送りながらも逸脱願望にかられる普通の人々の悲哀と叫びが溢れる、ギャグであり、下ネタであり、ナンセンスであり、シュールでありながら現実的であり、最終的には哲学の問題までをも包括していく壮大な辞書なのだ!(言い過ぎか?)

 初刊行時には、岩波書店の『広辞苑』の向こうを張り(?)、箱入りの小型の辞書のような体裁だったが、今回は文庫サイズのハンディ版として、4月にまず「第一版」が、さらに5月に「第二版」が復刻された。

 『第一版』には4コマ目に必ず死んでしまうロマンスグレーのおじさんや、セックスをさせてくれない恋人に哀願し続けるノッコと丸山くんシリーズ、風呂なしアパートに住むモテないコンビの弘治と山中などが登場、『舟を編む』の一癖ある登場人物たちの遥か斜め上を行く個性的な面々が、日常にぽっかりと空いた亜空間にハマり込んで、阿鼻叫喚の様相を呈する。

 『第二版』は「連続大河四コマ」と銘打ち、本心が言えずについその場に合わせてしまう高校生の高橋くんと計算高い醜女ミーナの「やさしさと呪い」、燃えるような恋をしたいと願う軽薄男・島野がしょうもないセックスを繰り返す「存在と虚無」、江戸っ子のトメとキリストの生まれ変わりのヤスのちょっと変わった親子愛を描く「聖と俗」など様々なシリーズが同時進行し、ラストですべての登場人物たちが「悔い改めよ」という言葉へ収斂していく力作だ。

 また6月15日に発売される最終巻の『第三版』には、「生まれてすみません」のセリフで人気を博した、文豪・太宰治をモデルにした超ネガティブな性格の「ダザイはん」や、人間のしょうもない一面を冷徹に、そして真面目にバカバカしく描写する「実存くん」(命名はいとうせいこう)、そしてさらに実験的で不条理な要素を持つ四コマ漫画も登場する。

 バブル絶頂期の軽薄な時代に執筆されながら、バブルに浮かれる人ではなく、世の中の底辺にうごめいていた数々の事象や人々を取り上げ、人間の「リビドー」や「レゾン・デートル」をじっと見つめた本作……ん? リビドーもレゾン・デートルも意味がわからない? なら今すぐ『コージ苑』を買いに行きなさい!


文=成田全(ナリタタモツ)
(ダ・ヴィンチ電子ナビより)

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