思わずホロリ、『AV女優』のノンフィクションライター永沢光雄が残した野球本

ダ・ヴィンチニュース / 2013年8月11日 7時20分

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『二丁目のフィールド・オブ・ドリームス』(永沢光雄/廣済堂出版)

 夏の甲子園真っ盛り。お盆休みに田舎で郷土の代表に声援を送る人も多いだろう。ふと、幼い頃を思い出し、キャッチボールがしたくなる。そんなシーンが自然に決まる日本の夏。ノスタルジーをかき立てたり、あるいは人生に照らし合わせたり。日本人にとって野球は、単なるスポーツというよりも、一つの文化なのかもしれない。

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 そんなことを感じさせてくれる野球本が先日、刊行された。タイトルは『二丁目のフィールド・オブ・ドリームス』(廣済堂出版)。著者は永沢光雄。幾人ものAV女優たちの物語を描いた『AV女優』(文藝春秋)、ガンによって話すことができなくなった日々を綴った『声をなくして』(文藝春秋)などが高い評価を得ていたノンフィクションライターだ。しかし、永沢は作家としてまだまだこれからという2006年、47歳で惜しまれつつ世を去った。『二丁目のフィールド・オブ・ドリームス』は、生前、彼が野球専門誌に寄稿していた自伝的エッセイをまとめた1冊である。

 永沢は野球好きで熱烈な近鉄バファローズのファンでも知られていた。スポーツノンフィクション誌『Number』(文藝春秋)でも作品が発表されたが、人生の喜びと苦みと野球への愛が満ちた内容は、他のスポーツノンフィクションとは一線を画す、独特の味を出していた。中身を読んでいただければわかるが、永沢は無類の酒好き、鬱病といった自らの弱さを隠さない。そのなかで、一筋の光となっていたのが野球の存在だった。

「実は俺、キャッチボールをやりたいんだ」(本書より)

 ホームにしていた新宿二丁目を舞台に、苦い経験がもとで幼い頃に果たせなかった夢を永沢は叶える。そこに馴染みである二丁目の寿司屋に不動産屋、オカマたちが「投げさせろ」と集まってくる。本書で最も微笑ましいシーン。いいことばかりではない人生を、スポーツが、野球が救ってくれる喜びにホロリとしてしまう。それは、弱い故に優しい永沢だからこそ描ける野球の魅力。強者を描いた感動スポーツノンフィクションとはひと味違った共感が得られるはずだ。

文=長谷川一秀(ユーフォリアファクトリー)
(ダ・ヴィンチ電子ナビより)

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