第2部「伽藍の洞」「矛盾螺旋」を振り返る―『空の境界』脚本家の記憶(2)

ダ・ヴィンチニュース / 2013年8月24日 7時20分

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『空の境界』(第4章「伽藍の洞」第5章「矛盾螺旋」)

 第1回に続き、『空の境界』の見どころを脚本家・平松正樹さんに伺いました。

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○つづき、ましたね
 どうもです。脚本家の平松です。無事に第2回を迎えることができました。

今回は、上映の第2期(第4~5章)について、思い出してみたいと思います。

○第4章『伽藍の洞』のこと
 時系列的には、第2章の続きとなる第4章は、交通事故の後、病室で眠り続けていた式が目覚めたところから始まります。
 原作を読んだときには、黒桐幹也の抱く両儀式への愛の深さが印象に残りました。眠っている間ずっと見守っていたのに、いざ式が目覚めると蒼崎橙子によって『お預け』を食らってしまう幹也の、もどかしい気持ちを思うと、切なくて……。
 シナリオとしては、基本的には『原作再現』の原則で作業をしていたのですが、いかんせん、この章は動きがあまりなく、基本的には病室の式と橙子さん、伽藍ノ洞(事務所)での橙子さんと幹也、の会話で話が進むため、時間の経過や『間』といったものの表現が難しく、何度もプロデューサーからリテイクを指示されました。
 結果的には、滝口禎一監督のコンテ&演出によって、式と橙子が互いの距離を縮めていく前半などは、とても叙情的な映像に仕上がっていたと思います。
 雨の中、傘をさして歩く子供の姿や、水たまり、といった何気ない、病室の外の生命活動のようなカットが、自分のもうひとつの人格であった『織』を失った式の喪失感・生への絶望感との対比になっていました。
 それに加えて、この章の背景は海老沢一男さんの手描きによるもので、張り詰めた中にも、どこか柔らかさや温かさ──人間味のある雰囲気を醸し出していたと思います。
 会話の内容やバトルシーンももちろんイイのですが、全体を通して感じる「大人の目線」が漂う演出、これが第4章の見どころのひとつに違いありません。
 監督補佐の木村豪さんと当時よく話をさせていただいていたんですが、滝口監督のことをとてもリスペクトされていて、監督も木村さんの仕事を信頼していて、そういった2人の関係も、完成したフィルムににじみ出ていると思います。
 監督と監督補佐におんぶに抱っこだった第4章ですが、幹也が式を思って、第2章で出てきた『シンギング・イン・ザ・レイン』を歌う場面を脚本化の際に盛り込んだり(アカペラで式対ゾンビのBGMしてはどうか、とか)、式がナイフで伸びた髪の毛を過去と共にバッサリ切る場面とか、その辺りは、かなり早い段階の稿から書いていたと記憶しています。
 それと、これは自分がアニメスタジオに詰めて仕事をしていたときに教えてもらったことなのですが、『画面に向かってキャラクターが歩いてくる』というカットは、上手く動かすのがとても難しいそうです。『空の境界』では、そういうカットはけっこうあって、第1章の中盤の巫条霧絵戦の式とか、第四章の後半で橙子が病院内をカツカツ歩くところとか、注目してもらえたらと思います。
 第四章の橙子の歩きは、劇場版『銀河鉄道999』のキャプテン・ハーロックの歩きのような間合いがあって大好きです(笑)。ちなみに、美術監督の海老沢さんは劇場版『わが青春のアルカディア』の美術補佐もされてました。
 とかく、地味な話だと言われがちな第4章ですが、個人的には、原作の中で最も好きなエピソードです。
 この章には、生きることの苦しさと喜び、原作者の奈須さんのメッセージが、式や橙子たちのセリフを通して強く発せられます。
 名台詞と共に、第4章を味わってください。

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