表現? 決定プロセス? 図書館のあり方? 『はだしのゲン』閉架問題は何が問題だったのか

ダ・ヴィンチニュース / 2013年8月27日 11時40分

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『はだしのゲン』(中沢啓治/中央公論新社)

■閉ざされた作品へのアクセス

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 広島への原爆投下と、被爆した人々のその後の苦闘を描いた『はだしのゲン』。昨年亡くなった中沢啓治さんが自らの体験を綴った作品は、平和教育の教科書的な存在で、アニメになったり翻訳されたりして広く読み継がれてきた作品です。学級文庫として教室に備えられることもあり、小学校のころ読んだことがある方も多いはずです。

 ところが、この作品が島根県松江市の小学校の図書館で昨年12月から閉架措置になっていたということが明らかになり、様々な議論が起こりました。閉架(へいか)措置とは、図書館を使う人が誰でも手に取れる本棚ではなく、許可を得ないと立ち入れない場所に本を保管し、基本的に貸出も行わないというものです。

 町の図書館と異なり、学校の図書室は専用のスペースが無いことがほとんどですから、閉架となってしまうと図書室の貸出カウンターの中や、隣の準備室のような部屋にしまっておくことになります。生徒から希望があればそれを取り出して閲覧してもらうことは可能ですが、借りて家に持って帰って読むことはできなくなっていたのです。『はだしのゲン』の存在を知っていて、強く読みたいと思わない限りは、なかなかこのように閉架になった本を読もうとはしません。実質的に、『はだしのゲン』を読む機会はほとんど失われてしまっていたのです。

■閉架、そして撤回。

 このような措置が下された背景は少々複雑です。昨年8月ごろから高知市のある男性が、松江市に対して『はだしのゲン』を学校図書館から撤去するよう繰り返し陳情を行っていました。男性はビデオカメラでその模様を録画し、動画投稿サイトにも複数投稿しています。ブログにも綴られたその主張は、作品後半に中国で日本兵が中国人を虐殺するシーンがあったり、天皇を戦争犯罪者のように描いていたりする点が「反日的」で問題だ、というものでした。

 松江市の市議会はこの陳情を却下したのですが、これがきっかけとなって、市の教育委員会が改めて『はだしのゲン』を読んだ際、陳情にあったようないわゆる「歴史認識」ではなく、人が殺される場面などでの「過激な描写」が問題視されました。その結果、閉架措置が取られていたのです。

 このことが報じられると、「戦争の悲惨さと平和の大切さを説いた本を読めなくするとは」という批判から、「トラウマにもなりうる残虐な表現から子供を守るべき」と市の対応を擁護するものまで様々な反応が巻き起こりました。はだしのゲンはもともと週刊少年ジャンプに連載されていたのですが、後に掲載誌が共産党系の雑誌に移ったこともあり、当初の陳情が問題としたような表現が随所に現れます。このことについても疑問の声も上がりました。

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