なぜ、若者たちは“地元”から出たがらないのか?― J-POPの歴史と地方の関係

ダ・ヴィンチニュース / 2013年9月5日 11時30分

写真

『地方にこもる若者たち』(阿部真大/朝日新聞出版)

 歌は世につれ世は歌につれ、歌は世情を写す鏡だ。歌の歴史を紐解けば、現代の問題の根本にもたどり着けるのではないか。社会学者・阿部真大は『地方にこもる若者たち』(朝日新書)でJ-POPを通して斬新な論を展開している。かつて地方は若者に嫌悪される場所だった。だが、現代の若者は大都会へ出ようとせず、地方都市へと引きこもる傾向にあるらしい。阿部は歌の変遷から若者たちと地方との関係性の変化を探ろうとしている。

『地方にこもる若者たち』のもっと詳しい内容はこちら

 1980年代のJ-POPのテーマは社会への反発が主だった。阿部曰く、当時の若者たちは、地元から出ることなく一生を終えていく大人たちの姿に辟易していたらしい。この頃BOOWYが流行したのは、退屈な日常の象徴として「地方」を描き、夢を見ることこそが自分らしさであると歌いあげたためだと阿部は言う。しかし、続く90年代となると、地方は衰退。商店街はシャッター街へと変貌する。すると、B’zを代表するように、「努力」をした上で夢を勝ち取ろうという歌が一斉を風靡し始めたようだ。Mr.Childrenも登場し、社会との関わりの中でなく「君と僕」との閉鎖的な一対一の関係性に自己を見いだし、慰安を感じ始めたと阿部は論を強める。この時代までは、若者にとって地方は出て行きたい場所だった。

 ところが、2000年代になると、ヒップホップの歌詞の中に「地元」という表現が散見されるようになる。80年代、90年代にはありえなかったことだが、KICK THE CAN CREWは歌の中で「地元への愛や地元仲間との関係性」を歌い始めた。この関係性もMr.Childrenが描いたものと同様、閉鎖的なもの。若者はそんな地元での関係性に自己を見いだしていったようだ。これこそ現代の「地元にこもる」という若者の様相を示していると阿部は本書の中で語っている。

 現代の若者は自分の生まれ育った場所=地元のことが好きなようだ。しかし、昔ながらのいわゆる「田舎」が好きなのかというとそうではない。彼らが好きなのは「ファスト文化」そのもの。ドンキ、スポッチャ、パチンコ屋にスーパー銭湯、そして、イオン等だ。彼らがノスタルジーを抱くのは、田舎の自然や商店街ではなく、イオンモール。阿部の調査によれば地方に住む若者の4人に3人がわざわざ車で2時間もかかるイオンモールでの余暇を楽しんでおり、都会へは出ようと思ってないというのだから驚きだ。彼らはかつての田舎ならではのしがらみから逃れ「家族」や「仲間」と言った身近な人たちだけの世界を生み出し、そこに居心地の良さを感じている。しかし、他人との人付き合いの希薄さに同時に不安も感じている。

 だが、そんな彼らを一方的に批判してはならないのだろう。彼らは、身近な他者との関係性の中に自己を見いだしている。他の人の個性を認めるが故に干渉しないだけなのではないかと阿部は語る。柔軟な決断のできる能力を秘めているのだ。この能力を生かすようなリーダーが今求められている。

 歌で時勢が分かるのかと思う人もいるに違いない。だが、近年、地方アイドル、ゆるキャラ、B級グルメなど地方が取り沙汰されることが多く、プラスの意味合いを持ち始めたのは確かだ。若者が身近な人との排他的な関係性の中に自分を見いだし、他との距離を置くのは事実なのかもしれない。そんな引きこもりがちな若者をどう地域コミュニティの中で位置づけるのかが問われているのではないか。

文=アサトーミナミ
(ダ・ヴィンチ電子ナビ「エディターレビュー」より)

ダ・ヴィンチニュース

トピックスRSS

ランキング