少年よ、飛べ! 読者を選ばぬ飛行機冒険活劇『ゼロの血統 九六戦の騎士』(夏見正隆)

ダ・ヴィンチニュース / 2013年9月12日 11時30分

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『ゼロの血統 九六戦の騎士』(夏見正隆/徳間書店)

 架空戦記と呼ばれるジャンルが一大ブームを巻き起こしたことがある。実在の歴史(主に戦争)を題材に、「もし、あのとき~だったら」という筋立てであるため「IF戦記」と呼ぶ人も多い。新たな時間の流れとその世界に生きる人々─しばしば、実在の人物が登場する─の活躍を描いた作品群は一種の思考実験としての楽しみもあり、同様の設定である時間改編SFとともに古くからこの枠組みを使った物語が世に送り出されてきた。もっとも盛り上がりを見せたのは檜山良昭や荒巻義雄を中心に幾多の人気シリーズが発表された1980~90年代だろう。

つづきはこちら→「圧倒的なリアリティと心躍るキャラクター」

 東西に分断された戦後日本を描いた『レヴァイアサン戦記』でデビューした夏見正隆さんは、しばしば架空戦記作家と紹介される。しかし、彼自身は同作を「異世界ファンタジーの一種と考えてもらった方がしっくりくる」と語っている。

 新作『ゼロの血統 九六戦の騎士』もまさに史実をベースにした、異世界冒険活劇だ。

――史実を下敷きにしたヒーローとお姫様の物語

 猟師の一人息子龍之介は、第二次世界大戦前夜の不穏な空気の中、歴史の流れに翻弄されるかのように戦闘機乗りとして成長していく。こう書くと架空戦記の解説そのものだが、そこは夏見さん。物語の核心は「昭和初期を舞台にしたヒーローとお姫様の物語」なのだという。お姫様は、実在した清国皇族の第14皇女をモデルにしているが、夏見さんは「設定を考えたあとで調べたらピッタリの人物がいたのでラッキーだった」と笑う。

「実在の事件や人物をベースにしているので史実の取り扱いには細心の注意を払っています。ただ、それだけだと目指している冒険活劇にならない。重要なのは史実の裏でどんなことが起こっているかであって、あまりにも現実にとらわれていてはおもしろいものが書けないんですよ。登場人物の言動や行動パターンにも、現在の視点を採り入れています」

 たしかに虚実のさじ加減が、異世界ファンタジーの興奮を決めるといっても過言ではない。史実や当時の風俗、昭和初期に生きた人々の思想や行動に縛られてしまうと物語は異世界へと羽ばたかないのだ。

 お姫様である皇女の群羊(日本名:仁美)は “ツンデレ”。主人公は高い能力と天性の勘の良さを持つパイロット。一般的な軍人のイメージとは違い、今風のヒロインに翻弄されるタイプの青年だ。さらに、謎めいた美少女(しかも有能で強い)の存在も絡むのだが、彼女の正体については読んでみてのお楽しみだ。

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