【第150回直木賞受賞作『恋歌』レビュー】 君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば──中島歌子の壮絶な恋

ダ・ヴィンチニュース / 2014年1月16日 21時0分

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第150回直木賞受賞作『恋歌』(朝井まかて/講談社)

 樋口一葉の師として知られる明治の歌人・中島歌子。第150回直木賞受賞作『恋歌』(朝井まかて/講談社)の物語は明治後期、彼女の弟子・三宅花圃が、歌子の手記を見つけるところから始まる。そこには、いつまでも娘のように奔放な師からは想像もできない、激しい恋と壮絶な過去が綴られていた──。

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 本書は手記という形をとって、中島歌子の半生を綴った歴史小説である。江戸の大店の娘として何不自由なく育った歌子──本名・登世は、ある日、若い武士に一目惚れをする。相手は水戸藩士。切なくも微笑ましい片恋を経て、登世は水戸に嫁ぐことになる。時は安政年間、桜田門外の変が起きた後のことである。これまでと180度違う生活の中で、懸命に武家の妻としての努めを果たそうとする登世。

 攘夷論かびすましい動乱の世。登世の夫は天狗党の志士だった。ところが藩内は天狗党と諸生党の2派が対立し、藩士ばかりかその家族や使用人までがいがみ合う有様。そして天狗党の乱が起き、登世は義妹や馴染みの人々と一緒に、「賊徒の家族」として投獄されてしまう。

 牢での過酷な生活を綴った場面には息が詰まった。精神の均衡を失いかねない厳しい仕置きの中で、子どもが、女が、順々に処刑されていく。男が「志」のために始めた戦に、女や年寄りや子どもが蹂躙されるのだ。殺される前に凛として辞世を詠む武家の妻。見送る登世。明日は自分かもしれないと思いながら、それでも愛する夫に一目会いたいという思いだけをよすがに、登世は生き抜く。そして明治回天。昨日までの賊が官軍になる。あれほど弾圧された天狗党が、今度は諸生党を狩る。復讐の連鎖が止まらない。読んでいて震えが来た。

 生き残った登世は、恋慕も慟哭も押し込めて、歌子と名を替えて歌人の道を志す。そして彼女が残した手記の意図がわかったとき、著者がいかに緻密に本書を組み立てていたかを知り、読者は愕然とするだろう。「明治生まれのひよっこに、いったい何がわかる」と書いた登世。天狗党志士の妻として命がけで歌を詠んだ登世。その圧倒的な挟持はどこから来るのか。壮絶な人生だ。登世の激しい思いを、どうか正面から受け止めていただきたい。朝井まかての出世作となる作品である。

文=大矢博子

ダ・ヴィンチニュース

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