WEB・同人誌から生まれた新しい流れ SF短編マンガの魅力とは

ダ・ヴィンチニュース / 2014年5月11日 7時20分

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『足摺り水族館』(panpanya/1月と7月)

 長期連載してこそ人気マンガ。そんな先入観にとらわれてはいないだろうか? もちろん、ヒットマンガの多くは巻を重ね、物語をぐんぐん広げ、ファンの心をつかんでいく。だが、小説家・星新一のショートショートが多くの読者を魅了するように、短く切り取られた世界だからこそ感じられる不思議と垣間見える奥深さもある。マンガも同じで、ラブストーリー、SF、ファンタジーとさまざまなジャンルで短編を得意とする実力派の若手作家が現われ、秀作を生み出している。『ダ・ヴィンチ』6月号ではそんな短編マンガを特集し、数々の良質な作品を紹介している。

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 短編という形式は、ファンタジックな設定とも非常に相性がよい。笠辺哲の『ラタキアの魔女』は、帯にうすた京介の推薦文を冠した注目作。魔女の本当の秘密は? スマホ搭載突撃銃を使う未来の戦争の形は? 絶妙な絵の力と相まって、大いに興味をそそる。

 ところで、短編人気の要因とはなんだろうか。おそらく、WEBの浸透や同人活動の拡大など、マンガを取り巻く状況の変化が関係しているだろう。九井諒子や冬川智子は、WEBで発表した自主制作が話題を集めた。

 そして今、一躍注目の的となっているのが、panpanyaだ。『足摺り水族館』は、同人誌を再構成した単行本。かつてない絵と世界観で、マンガ大賞2014にもノミネートされた。

 雑誌連載から単行本化という従来のマンガ界の常識は現在崩れつつあり、作品の発表形態は多様化している。これが、マンガ表現の可能性を広げることにもつながっている。コマツシンヤの『8月のソーダ水』はマンガと絵本が融合したような美しさを放ち、今日マチ子の『みつあみの神様』は、彼女しか描けない3.11後の物語だ。

 短編の隆盛とは、すなわちマンガの可能性の拡大であり、豊穣なマンガの未来につながるものに違いない。そんな大きな期待を、私たちに抱かせる。

■『ラタキアの魔女 笠辺哲短編集』 笠辺 哲 集英社ジャンプC 648円(税別)
死んだ兄の代わりに魔女のもとに売られた少年ペリクが迎えた数奇な結末とは?(「ラタキアの魔女」)。スマホ搭載突撃銃で異星人を侵略する元ネットアイドルの小隊長、その戦争観と恋愛観とは?(「宇宙戦争」)。ちょっとダークに、でも温かく人々の営みを描き出す!

■『足摺り水族館』 panpanya 1月と7月 1200円(税別)
奇妙な魚が泳ぐ足摺水族館、人間の知のちょっと先にある物どもを売る「なぞ」の店、新しく生まれ変わる世界のより新しい姿を展示する新物館……。そこは現実の裏側か、私たちが置き忘れてきたものたちか? 独創的に描き出される多層な世界の風景!

■『8月のソーダ水』 コマツシンヤ 太田出版 1500円(税別)
翠曜岬の街に住む海辺リサ。彼女の周りはいつも素敵な不思議がいっぱい。浜辺に流れ着いたガラスのバイオリンを弾き、海のガラスを集めてる。幻の都市を見て、歩く灯台とお散歩。そして、47年ぶりの月の大接近で「海迎え」の日がやって来て……。

■『みつあみの神様』 今日マチ子 集英社ジャンプ改 愛蔵版C 933円(税別)
海辺に佇む一軒家。「あの日」から一人になった三つ編みの女の子が住んでいる。洗濯バサミに枕にポスト、自由を求める風船。彼女の周りではモノがおしゃべりしていた。彼女はとある少年と恋に落ちるが、世界には秘密があり……。手塚治虫文化賞新生賞受賞作!

構成・取材・文=松井美緒/ダ・ヴィンチ6月号「コミック ダ・ヴィンチ」

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