現代の病理「誇大自己症候群」 ―“普通の子”がなぜ凶行に走るのか

ダ・ヴィンチニュース / 2014年7月20日 5時50分

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『誇大自己症候群』(岡田尊司/筑摩書房)

 著者は本書『誇大自己症候群』(岡田尊司/筑摩書房)の冒頭に、長崎で起きた児童殺害事件と、佐世保で起きた小学児童の同級生殺害事件をあげる。事件を起こす少年・少女の年齢がどんどん下がり、同時にかぎりなく「ふつう」に近い子供によって残虐な行為がおこなわれてしまっていることを指摘しながら、それらの事件に当たった精神医学の医師が、「広汎性障害」や「発達障害」という診断名をくだしながらも、発達上の問題は認められるが重篤ではなく、障害といえる範囲ではないと報告している。

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 そこにあるのは、それらの子供たちを動かした事情がどんなものなのかが誰にも分からず、分からなければ、もしかしたらわが子もいつそうした反社会的な凶行に走るか予断を許さない不安に、親たちはおびえるしかないだろう、と指摘する。「誇大自己症候群」というのは、精神医学上において、「明らかな異常はない」と結論せざるを得ない子供たちの「異常事態」を名付けたものだ。

 取り立てて粗暴でもなく性格にかたよりもない少年や少女が引き起こしたさまざまな事件が例にあげられている。それらを総合して、著者は5つの特徴を書き記している。

(1)根底にある自己否定とそれを補うべく肥大した幼い万能感や誇大な願望
(2)他者に対する非共感的態度、罪悪感の乏しさ、責任転嫁と自己正当化
(3)現実感の乏しさや自己愛的な空想、解離的傾向
(4)性格の二面性と突発的に出現する激しい怒りや攻撃性
(5)安心感の乏しさ、傷つきやすさや傷つきへの囚われ

 そこで著者は「誇大性自己症候群」というくくりの中で、「善悪といった価値判断や、正常か異常かという有効性や意味を失いつつある議論を超えて、その人の抱えている真の問題に、より実際的にアプローチ」しようとするのである。

 ここでいわれている「ふつう」が何のことか今ひとつ分からないのであるが、そしてまた低年齢の子供たちが残虐な犯罪を起こす事例がほんとうにごく最近に増えたことなのかわたしには判断のしようがないのだが、そうした若年齢の事件を精神医学の面から分析するとき、もどかしい壁に突き当たってしまうのはよく理解できる。子供は、ほとんど「現実」を生きていないからだ。現実の価値と空想の価値が混交した精神を、どんな子供であろうと、医学で論理づけることはできないのではないか。その意味では「ふつう」の子供がなぜ重大な犯罪を起こさないのか、そっちを調べた方が意義あるのではないか、などと思うのであるが。

 ま、それは浅学なわたしの、浅薄な感想であるので、無視していただきたい。

 このあと論考は、家庭・学校・職場、恋愛などのケースに従って「誇大自己症候群」のありようを紹介・分析していくことになる。現代の病巣を見つめようとする興味深い試みである。

 もちろん、「誇大自己症候群」は、子供たちだけに巣くうシンドロームというわけではない。私たちの日常の動作や思考の中に実は本人の気づかぬままに、身を潜めている。本書は、最終章でそれと戦う方法をも提示している。

文=岡野宏文

ダ・ヴィンチニュース

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