人類の悲願達成! SFと文芸を横断し、タイムマシンがついに完成!【 『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』ブックレビュー】

ダ・ヴィンチニュース / 2014年9月7日 5時50分

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『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』(チャールズ・ユウ/早川書房)

 時間旅行、タイムトラベル。人類の夢の技術の一つであります。あの頃に戻ってこうしたいとか、歴史上のなにがしかを見たいだとか、超未来文明を知りたいだとか、想像を巡らすのはなんとも楽しいものです。なにより都合よく過去を手直し出来れば、人生こんな楽なこともありません。しかし残念ながら、今のところは実現不可能ということです。

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 そんなSF界、科学界を尻目に飄々とタイムマシンを実現してしまったのが 『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』(チャールズ・ユウ/早川書房)です。意味不明にも聞こえますが、ともかく「実現した」と言うのが個人的にはしっくりきます。

 舞台は未来とも言えるし、現在でも過去でもあるいつかです。なぜあやふやな舞台なのかというと、主人公チャールズ・ユウはタイムマシンの修理工で、時間のはざまを漂っているからです。母は施設に、タイムマシンの技師である父は失踪という複雑な家庭で育った彼。
「僕の家族はどうしてこうなったのか」
彼はタイムマシンに引きこもって、過去や未来、現在へと“家族”を探す旅に没頭するのでした。

 タイムマシンというモチーフを使いながらも、描かれるのは内省的な家族の物語。宇宙の存亡のためでも、平和のためでもなく、実に私的なSF小説です。なにより、読者が読んでいるこの本こそがタイムマシンであるという所が本作のポイント。著者でもある主人公が乗るタイムマシンとは、何を隠そう小説そのものの事です。SF用語で語られる時間旅行は、さも超技術のようにも感じるのですが、彼がただ小説を書きながら小説を読み、精神で思い出や将来、今を旅しているのとほぼ同じでもあります。本作の時間旅行とは、ある意味で自分探しの心の旅のようなのです。

 自分を吐露し、思い出や過去を反省し、引いては未来へと至る。これが本作の実現したタイムトラベルです。文体のとっつきにくさはありますが、一風変わったタイムマシン(私小説)を基に、自身の過去や未来へ心の旅に出かけてみてはいかがでしょうか?

文=すぎやまなつき

ダ・ヴィンチニュース

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