平和的な冒頭に騙されてはいけない。心をえぐる女の子たちの物語『ちーちゃんはちょっと足りない』

ダ・ヴィンチニュース / 2014年9月8日 12時0分

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『ちーちゃんはちょっと足りない』(阿部共実/秋田書店)

 『空が灰色だから』で読者の心をざわつかせ、素直に笑っていいのかどうか不安になるギャグマンガ、というマンガの形を提示した(…と、私は考えている)阿部共実の、1巻完結・全8話という短い物語がこの『ちーちゃんはちょっと足りない』(秋田書店)だ。

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 タイトルにもある通り、ちーちゃんはちょっと足りない。いや、結構足りない。
中学2年生なのに九九が怪しいし、テストは「なんとなく正解っぽいワード」をひたすら全部の項目に書くという、雑な数打ちゃ当たる戦法をとる。だんだん色気づくまわりをよそに、ガチャガチャで手に入るような女児向けアニメのキャラがつけている髪留めがほしいと、3歳上の姉に泣くほどのだだをこねたりする。はっきり言えば年齢の割に幼いし、頭は足りない。というか弱い。そんなちーちゃんをハラハラしながら見守る、同じ団地の幼馴染のナツと、クールでちょっと進んでいる友人の旭ちゃん。中途半端に田舎で、だれとだれが付き合うのどうのな話題がメインの「イケてるちょっと不良めグループ」と「そうでない地味めグループ」に女子がだいたい二分されているような、そんな中学生の日常。

 そんなダラダラぐだぐだした日常は、「クラスの子が顧問の誕生日用に集めていた3千円がなくなる」ことで、じわじわとした崩壊を見せていく。あの子はきっと悪びれもせずお金を取りそう、というイメージからクラスの子に疑われるちーちゃん。あいつはそんなことしない、と激しく疑った子を責める旭。そんな2人に挟まれ、おろおろするばかりのナツ。言い合いの中でコンプレックスを突かれ、ぎくしゃくする旭とナツ。旭のように咄嗟にちーちゃんを庇えずに、ぐるぐるもやもやするナツ。そして、本当にそのお金を取っていたかもしれないちーちゃん。

 どうして私は恵まれてないのだろう? どうしてあの子には与えられているものが、私には与えられてないんだろう?
「他人」と「自分」を意識し、その違いを比較することを覚えたときに、たぶん人はそうやって「ねたむ」ことを覚えていく。
冒頭の平和さに騙されてはいけない。うっかり読んでしまったら最後、ずっと蓋をしていたであろうその後ろ暗い、見たくない醜い感情を無理矢理に引きずり出されてしまうことだろう。マンガ表現としてのベタはある地点から黒さを増し、もしかしたらこの黒はものすごい深い穴へと通じているんじゃないか―きっとそんな考えすら浮かんでしまうマンガなのだ。

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