疲れた心にしみわたる、とっておきのビタミン小説

ダ・ヴィンチニュース / 2014年11月7日 12時30分

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『3時のアッコちゃん』(柚木麻子/双葉社)

 会社に行きたくない。こんな毎日は嫌だ。疲れた。気持ちに余裕がない──もしもあなたがそんな毎日を送っているなら、ぜひ本書をお読みいただきたい。『3時のアッコちゃん』(柚木麻子/双葉社)は疲れたあなたへの、そして疲れているのに今日もスーツを着て満員電車で会社に行くあなたへの、とっておきのビタミンだ。

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 シリーズ前作『ランチのアッコちゃん』と同じく、本書も4話からなる短編集である。最初の2編は悩めるOLをアッコちゃんが五日間で救うという話。残る2編はまったく別の話だが、アッコちゃんがちらりとカメオ出演するという趣向で、その構成も本書に引き継がれている。アッコちゃんの本名は黒川敦子。「東京ポトフ&スムージー」という会社の、ポトフとスムージーの移動販売を手広く行なっている。

 第1話『3時のアッコちゃん』は、『ランチのアッコちゃん』にも登場した派遣OL三智子が再登場(ただし物語は独立しているのでこちらから読んでも差し支えない)。会社で決めなくてはならない案件があるのに、会議は停滞して何度集まっても何も決まらない。そんな三智子にアッコちゃんは、会議は毎日3時から30分だけに限定するようアドバイス。そしてそこに自分がティーサービスの業者としてお茶を出す、という。

 第2話『メトロのアッコちゃん』は、ブラック企業で働く、心身ともにボロボロの明海が主人公。出勤のために地下鉄のホームに立ったとき、このまま線路に飛び込めば会社に行かなくて済む──なんてことを考えてしまうくらい追いつめられている。そんな明海に、ホームに出ていたスムージー・スタンドのアッコちゃんが声をかけた。アッコちゃんはムリヤリ明海にスムージーを押し付ける。

 この2話はいずれも、「3時には毎日お茶を飲む」「毎朝スムージーを飲む」ということを通して、五日間でふたりのOLが再生していく様子を描いている。お茶やスムージーが物事を直接解決するわけではない。大事なのは、どんなに忙しくても、どんなに疲れていても、お茶を飲んだり朝食にスムージーを飲んだりする、心の余裕を持つことなのだ。

 仕事の手を少し休めて、「このお茶美味しいな、どこのだろう」と楽しむ。朝起きたら「今日のスムージーは果物にしよう」などと考える。そんな数分間がとても大事。それによって生活のリズムができる。メリハリが生まれる。緊張が緩和される。何より、気持ちの余裕は視野を拡げてくれる。毎日が楽しくなる。

 第3話では東京から神戸に異動になったOLが関西の文化に馴染めない様子が、第4話では就職活動で慣れない大阪の地下街を歩き迷子になる女子大生の様子が語られる。こちらもほんの少し心に余裕を持って、素直な気持ちで周りを見渡せば、意外な近場に解決策がある。お仕着せの環境に無理に自分をはめ込もうとしても辛いだけ。ちょっと休んで、ゆっくり考えて、それから動き出そう──本書には美味しそうなお茶菓子や飲み物とともにそんなメッセージが詰まっている。読み終わったときには、心がつやつやになっているような、そんな栄養たっぷりの小説なのだ。

文=大矢博子

ダ・ヴィンチニュース

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