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TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年12月6日 20時55分

daruma46/istock

アパレル産業の次の10年の消費を担うZ世代を囲い込むため、産業界は、あらん限りの知恵を絞り分析を試みているが、私は強い違和感を感じている。その一例が、メディアが「アパレル産業の起死回生の一撃」として盛んに報じている、「ジェンダーレスファッション」だ。
今回は、Z世代にフォーカスを当て、いかに世の中がこのセグメントに対してチグハグな見方をしているかということ、そして、仮にZ世代を正しく追いかけたとしても、悲惨な結果に落ちるということ、さらに大きく業界を鳥瞰してみれば、東京はショールーム化されるという大胆な予想を展開する。批判は自由だが、ぜひしっかり読み込んでいただきたい。

daruma46/istock
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ジェンダーレスファッションは本当に拡大しているのか?

まずは、「ジェンダーレスファッション」について考える。 

私の分析では、Z世代はそれほど難しい消費をしているわけでない。単に、我々グレイヘアー(40代以上を暫定的にこのように呼ぶ)と違い、自分にとって経済的に損か得かという「生活ROI」で消費判断し、私たちが作ってきた「大人になれば、結婚し、クルマを買って家を買う」という「常識」にとらわれない合理的発想でものごとを考えているだけなのだ。デジタルネイティブと呼ばれ、スマホを体の一部のように使い、あらゆる情報の洪水を苦も無く取り込み、自分にとって最も共感できる情報で伝統的価値観より合理的価値観で消費をする。私はこのようにZ世代を分析している。もっといえば「ジェンダーレスファッション」など存在しないというのが私の立場だ。

アパレル業界に限らず、各産業界はこれからの10年を生き抜くため、Z世代と呼ばれる10代から20代の今後10年の消費を取り込もうと必死になっているが、私は、強い違和感を感じている。

「ジェンダーレスファッション」に話を戻すと、どのメディアも「ジェンダーレスファッション」は、「サステイナブルファッション」と同様、Z世代に支持されており急拡大しているという。しかし、その実態は、彼女たち、彼らたちは、「自分に似合う服、自分がやりたい着こなし」に合えば、それがメンズ製品だろうがレディース製品だろうが関係ないと考えているだけなのだ。男性専用、女性専用などという枠組みを飛び越えて消費したいだけで、別に「中間セグメント」を求めているわけではない 

私も含めた、グレイヘアたちは、「女性」「男性」、そして「3番目」と区分し、その「3番目」を「ジェンダーレス」と考えている。だが、テレビの報道番組のインタビュー映像を観ても、彼女たち、彼らは、むしろ、そのような区分そのものを取っ払い、自由に好きな服を買わせて欲しい、といっているようにしか聞こえなかった。

「区分をとりはらう」と「区分をつくる」の何が違うのかという反論がきそうだ。ここは微妙な違いだが、英語で言えば「Genderless」(性差がない)と「Non-genderlized(性差がなくなってきている)という造語で説明すればおわかりだろうか。もっと単純ににいえば、このような認識齟齬は、前者は「ジェンダーレス」というZ世代が望んでいないブランドを登場させてしまうが、後者は、店舗内VMDを「メンズ」や「レディース」という区分自体をとりさるかの違いとなり、後に企業戦略に大きな違いをもたらすだろうと思う。

Z世代の「ジェンダーレス」を尊重するなら、まず「メンズ」と「レディース」という区分をとりさり、消費者に自由に購買できるような店作りをすればよいと私は思う。実際、私は体がきゃしゃでレディースのLを買う場合があるし、私の妻もダボッとした服を買うためメンズを買っている。両者の微妙な解釈の違いは、企業を全く違う戦略に誘うのである。

 

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TOKYO BASEが高価にもかかわらずZ世代に支持される理由

TOKYO BASE

Z世代は合理消費をすると延べた。しかし、日経新聞では、Z世代を狙った韓国、中国の「激安アパレル」が越境ECをひっさげシェアを拡大していると報じ、同紙が分析したマトリクスによれば、価格帯はユニクロより下だった。しかし、Z世代に支持されているTOKYO BASEは、1-3万円以上の商品が主軸で、ユニクロとは比較にならないほど高価だ(もちろん、Z世代といっても下は中学生から上は大学生・新社会人も含まれ一概には言えない)。

TOKYO BASEは今私が最も注目している企業で、マザーズに上場し業績を上げている。同社は、「STUDIO」、「UNITED TOKYO」、「PUBLIC TOKYO」、「A+TOKYO」、「THE TOKYO」の5つのブランドを持っており、TOKYO」という文字をフューチャーしている。実際、TOKYO BASEは、全アイテムをMade in Japanで提供している。何か買おうかと思ったが、私が欲しいと思う商品は全く無かった。50代アッパーの私は、同社からしてみればターゲット外のようである。

TOKYO BASEのブランドで驚いたのは、主要なよい店舗に必ず目につくこと、そしてTOKYO」という文字と奇抜なファッション(オフィスに来てゆけないモード系)だった。私は前号で、ユニクロのようなベーシック衣料が売れているのは着回しが良いからと叫んでいたが、Z世代は気に入らないものは一切消費しないが、気に入るものは一着3万円の服でも買う。消費にメリハリがついているという意味ではこれも合理的消費と言える。だから、Z世代は服に3000円以上はつかわないという分析は間違っているし、あえていえばそれは中学生、高校生だろう。

「ユニクロTOKYO」と「TOKYO BASE」の共通点

UNIQLO TOKYO
UNIQLO TOKYO (2020, Diamond ChainStore)

「ユニクロ TOKYO」という銀座限定のMade in Japanブランドにも「TOKYO」の文字がフューチャーされていることにお気づきだろうか。私は、TOKYO BASE」も「ユニクロTokyo」も同じ戦略だという大胆な仮説を感じた。

考えてみて欲しい、今人口構成比の50%50代以上という超高齢化社会となっている日本という国の将来を。その現状でさえ毎年20億枚もの余剰在庫を供給し倉庫に眠っているのだ。そして、Z世代が次の10年に頭角を現すとしたら、日本のアパレルの供給量は、70%以上は買われることもなく余剰在庫になるだろう。しかも、Z世代は中古衣料品を好んで買う。私も二人の娘(27歳、23歳)と代官山にいってショッピングを楽しむのだが、「宝探し」のように楽しい。

このように考えれば、将来10年の日本市場は悲観的だ。しかし、TOKYOはアジアのブランドシティになっている。これは、アジアの人と話をすれば分かるが、彼らアジア人はTOKYOを文化や芸術、ファッションの発信地としてリスペクトしている。私が韓国で講演をした際、講演前日に財閥幹部たちと食事をしたのだが、反日感が強いといわれる韓国でさえ、「日本は私たちの先生だった。仁川空港は関西空港の失敗事例を徹底研究して建設した。古くは自動車産業もお手本だった。しかし、今は学ぶモノがなくなった。あなたが久しぶりだ。アパレル産業の失敗事例を教えてもらいたい。私たちにとってTOKYOはブランドだ」といわれたのを思い出す。

確かに、TOKYOはアジアのファッションシティだ。渋谷の街を歩いていると、「ドラム缶」のようなズボンをはき、黒魔術を使うのかの如くゾロッとした服を着て街を闊歩している若者がいる。女性はコスメが上手になり、衣料品に過度な装飾はないがみな自分なりのファッションを楽しんでいるように思う。彼女たち、彼らのような「普段着」で自然に街を歩いている人が生息するファッションシティはTOKYOぐらいだ。

TOKYOをショールームシティにするのが合理的戦略

世の中は、リアル店舗をショールーム化するOMO(店舗とECの融合)が紙面を飾っているが、もっと世の中を俯瞰して見れば、さらに大きな可能性が見えてくる。

つまり、消費は期待できないがアジアのファッションリーダーであるTOKYOを、アジアのファッション・ショールームシティとし、グレーターチャイナ(中国に韓国、台湾を含める経済圏)や、成長著しい東南アジアでマネタイズ(売上を上げること)するポートフォリオ戦略だ。これこそ、日本のアパレルがすべき戦略のように思う。

実際、「ユニクロTOKYO」や「TOKYO BASE」は、等しくMade in Japanをひっさげ、同社は両方ともアジアから収益を上げ、ユニクロに至ってはすでに海外からの利益が日本を抜かしている。「TOKYO BASE」もアジアに多くの店舗をすでに展開しているようだ。こう考えれば、なぜファーストリテイリングが今東京で工場を設立し、「ユニクロTokyo」を銀座のフラッグシップショップを立ち上げたのかスッキリと理解できる。つまり、「TOKYO BASE」と「ユニクロTokyo」は、まったく同じ将来戦略を目指していると考えるのが自然だ。

 日本(TOKYO)のブランド展開はあくまでも広告宣伝で、アジアにEC、店舗展開し売上・利益を得るという考え方である。もはや、日本という国で売上を上げ続けることは困難だ。上記は、大胆な仮説だと思う方は、私が書籍『生き残るアパレル死ぬアパレル』(ダイヤモンド社刊)で書いた「7つの予言」を見返してもらいたい。ほぼ全てがこの一年で実現され、いまやなんの目新しさもないではないか。

一足飛びに、この段階に到達するとは私も思っていないが、「こうなるだろう」という仮説をもち、その「構え」をとるかとらないかで企業の将来の優劣はきまってくる。

現状のビジネスモデルはバブル時代につくられたもので、その延長線上に解は無いのだ

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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