Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年12月27日 20時55分
「次の10年」の消費を担うZ世代を正しく分析するため、私は三現主義(現場、現物、現実)に則って、古着の聖地・下北沢へ行った。「Z世代は環境意識が高いから、古着を大事に使う」というのは事実誤認である、という私の仮説を検証するのが目的だ。
定量調査というのは、あらかじめ仮説があり、その仮説に重みづけをするものだ。だから、もし初期仮説が間違っていれば、その後の解釈は自由になり、「世界中の消費者が環境意識の高い衣料品を買う」など声高らかに発言する人もいるし、「全体の購買要因の5%以下」という定量調査と全く逆の結論を導き出す人もいる。
こんな数字は信用に値しない。必ずリアルな現場に身を置き、現実を直視しながらそこで起きていることを「feel」する。私が提唱する「二次流通が広まらない理由」を探すための旅である。
「古着の方が格好良い」
「服などに金をかけたくない」
古着の聖地、下北沢は、私の自宅から自転車で15分程度のところにある。古着に興味のなかった50代アッパーの私は、今まで古着店に入ったことがなかった。
今回は8軒の店舗に入り、カフェでこの論考を書きながら若者の熱気溢れる街を楽しみ、そして、若者を観察した。これで、5度目だ。
下北沢を闊歩する若者は熱量溢れる男女ばかりだ。決して奇抜なファッションをしているわけではないが、なるほど、古着はこのように着こなすのか、と私も大いに学んだ。
彼らが着ている服は、いわゆるアパレルが残した「売れ残り在庫」のようなものではない。あえて言えば、「ちょっとおかしい服」ばかりだった。
例えば、ニットでいえばスマイルマークの絵がジャガードで編んであったり、キユーピーマヨネーズでお馴染みの「キューピーちゃん」のプリントがあったりと面白い。ライダーズのブルゾンはよれよれの革なのだがいい味がでているし、ドラム缶のようなシルエットの太いパンツも置いてあったりしている。
いわゆる業界で「キレイめ」と呼ばれるプロポーションのものはない。
彼らは、お金がないから古着を買っているというより、「古着の方が格好良い」という気持ちと「服などに金をかけたくない」という思いとがかけ合わさっている気がした。
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日本のアパレルの余剰在庫は
下北沢の古着店では売れない理由
私はバブル世代の人間なので、学生時代に何本も履いた「リーバイスの501」を探した。私のウエストに合い、色落ちやアタリ(デニムについている傷)が絶妙なものはなかなかなかったが、100枚以上探した結果、最後の店でいいものがあった。
私は、スタイリストの野口強さんにターンアラウンドプロジェクトで大変お世話になったこともあり、彼がプロデュースしたMINEDENNIMを3本持っているのだが、一本3万から5万円もする。下北沢で売っているリーバイスは、同じようなヨレ感で3000円だ。まさにゼロが一つ足りないぐらいである。
履いてみるとこれが面白い(写真参照)。ドラム缶とは言わないが、最近のテーパードパンツ(裾に従って細身になるパンツ)でなく、わたり(太ももの部分)がやたらデカくそのままストレートに下に落ちている。
新商品でこうしたものもあるが、そういうデニムが欲しい人は、下北沢に来れば良いと思う。そのダボっとしたシルエットが今っぽく大いに気に入った。もちろん、昨今流行りのストレッチデニムでないから生地は硬めだが、シルエットが懐かしい。
ネルシャツや「変な柄」のスウェット、メンズジュエリーなど、1000-3000円で綺麗に陳列され、販売員の着こなしもおしゃれだし、着ている若者も格好良い。なるほど、売れ残りであれば良いというわけではないのだなと思った。おそらく、バイヤーのセンスで店ごとに色をだし、ちょっと外したデザイン + ヨレ感とでもいうべきか、このヨレ感とチョットしたトレンドはずしがキーとなるわけだ。
大阪で、アパレル企業から売れ残り商品をバルクで買って二束三文で売る会社が急成長しているというが、おそらく、ターゲットは今でも百貨店信仰が強いグレイヘア世代のさらにアッパー層だろうと思う。彼らが下北で若者に売るのは無理だ。
下北で分かった!
日本の二次流通の今と未来
米国では、二次流通はデニムから始まり広がっているようだ。
デニムの場合、新品の生地をウォッシュするとき、石などを入れたり化学薬品を入れて色落としをしたり、手で破ったりと、あらゆる手を使って「ヨレ感」を出す。
その手作業代金がデニムを数万円という価格に押し上げるわけだが、二次流通なら普通に何年も消費者が使ったビンテージものが買える。写真のようなデニムがヨレ感もあり柔らかい風合いに落ちているものが3000円だ。これは欲しくなると私は思った。
これに対して、日本のアパレル企業のマーチャンダイザーは欠品を恐れ、在庫がないことを極端に嫌がる。在庫を自社が売る力以上に仕入れをすることが常態化しているのだ。
マーチャンダイザーは「どうせ売れ残ってもバランスシートに資産として残しておけばいいや」「服袋や優待販売で売れば良いのだ」などと考えているのである。これは、マーチャンダイザーの評価が、在庫を正しく時価評価した後の利益額となっていないからである。だから、セール優待では、新製品が30%-40%、中には80%ディスカウントなどという商品が当たり前なのだ。
我々グレイヘアは、中古の楽しさや格好よさを正しく評価できないし、金持ちは、メンズでいえばLEONの世界をいまだに追いかけているから、オーバーサプライの二次流通が広がらないのだ。人が着た古着と、安く買える新品では、後者の方が良いに決まっている。日本で在庫問題が解決するのはまだまだ先で、企業数が半分になる10年後の「新型コロナ対策資本性劣後ローン」返済年度に爆発することだろう。
このように、二次流通の世界は甘くない。中古品、余剰在庫品など、訳あり商品には残った「訳」があるのだが、下北で私が見た景色は二次流通と言っても、そこには技術があり、ノウハウがある。
1)売上至上主義から利益額(率ではない)をKPIとし、2)在庫は、在庫の残存期間と合致した償却ルールにし、3)残った商品は全く違うテクノロジーで販売する。
こうした「売りきる努力」をするためには、SPA(製造小売)とは名ばかりで、仕入れと販売を分けている今のアパレルのモデルでは無理だ。仕入れた人間は責任を持って仕入れたものを売るという組織設計にしなければこうした発想は難しいだろう。
二次流通は、二次流通だから楽しいという気分を演出しなければならず、チャネル製作からブランド製作まで分離が必要だ。チャネル戦略で言えば、最も初期段階のマルチチャネルで全く違う見え方にして二次流通を市場を作り上げる必要がある。
「OMO(オンラインとオフラインの融合)で」、などと流行語に踊らされ、新製品とリンクするビジネスモデルを作れば、消費者は必然的に売変(売価変更)を待つことになり、二次流通政策は失敗する。全く別の組織を作り、消費者起点で他社の商品でも買い上げるぐらいの発想が必要だ。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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