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プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年12月20日 20時55分

Sheinはアパレルを作っているのではない、集めているのである

前回「 Z世代の衝撃#」1で、顧客に対する付加価値を考えないいかなるハイテク技術も企業の固定費を上げ、競争力を低下させるメカニズムを書いた。今日は、広がりつつあるD2Cで使われ出した「限定ブランド」と「プライベートブランド」の違い、そして、日本でSheinと同じビジネスモデルを展開しているShoichi(大阪府)にもフォーカスを当て、顧客起点のビジネスモデルとは何かを語りたい。

プラットフォーマーが力を付けたから生まれた
これがD2Cの本質

kmatija/istock
kmatija/istock

前回、D2Cを集めたOMOストアに閑古鳥が鳴いており、ビジネスモデル論からお客様を取り込むというのは考え方が逆さまだ。お客様の喜ぶ姿を実現するためテクノロジーをどのように使うか、という順番で考えないから、このようになるという話をした。
さて、昨今D2Cという言葉が紙面を飾らぬ日はないが、銀座、新宿はいわずもがな、青山や代官山、下北沢や大手町までファッションの聖地探索してもファッション業界は何も変わっていないように思うのは私だけだろうか。
繊研新聞の調査によれば、「80%以上の企業がDXに取り組んでいる」というが、ひとたび消費者側の視点に立ったとき、私たちは何かの変化を感じたのかということである。

D2Cブランドを集めたストア、などといっても、そもそも商品は魅力的なものがない。中間流通を排除したビジネスモデルであれば、アパレルの企画機能、ブランディング機能が抜け落ちるわけだから、商品がつまらないものになるのは自明だろう。聞けば、工場が在庫リスクを持てないということで、そのD2Cブランドはアパレルを使い、アパレルはお約束の商社を使っているという。これでは、もとのビジネスモデルと変わらないではないか。
今、ZOZOがライブコマースに力を入れているようだが、彼らの潤沢なキャッシュはプライベートブランド(PB)を辞めたことによる「在庫レス」が要因だ。在庫を持たなければ、企業にリスクはない。
Amazon
に入っているテナントが問題を起こしたとき、Amazonにクレームを入れても、「お客様とテナントで解決してください」の一点張りで拉致があかない。膨大なアクティブ顧客のデータベースを持ち、「品揃えといえばAmazon」、「ファッションといえばZOZO」という具合に、サイトにブランドができあがれば無敵となる。今、ECプラットフォーマーに死角はない。

 

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限定ブランドとプライベートブランドの違い

巨大EC企業でどんどん増えている「限定ブランド」
巨大EC企業でどんどん増えている「限定ブランド」

それでは、数々の米国アパレルを死滅に追いやった巨大EC企業マーケットプレイスとはいかなるものか解説しよう。

巨大EC企業には、マーケットプレイス部門とPB部門があり、買い取りを行うのは後者だ。
前者は、可能な限り多くのテナントを集め、品揃えと低価格を武器に、膨大な数のビッグデータをAIで動態解析(お買い物行動を追いかける)し、その人にパーソナライズされたレコメンド(商品推薦)をメールで送る。手数料は、20%30%といわれている。需要が拡大しているときは供給を押さえれば勝つ。わかりやすい例で言えば、今の半導体がそうだ。日本は潰しまくった半導体工場をもう一度作っているという有様だ。
これとは逆に、供給が需要を上回っている時は、企業は顧客一人ひとりを捕まえ、追いかけ、絶対に競合に浮気をしないよう囲い込む。このように、市場の拡大期と成熟期では戦略が全く違うのだ。

 この顧客の囲い込みは、買い取りをしないECプラットフォーマーにとって悩みの種だ。なぜなら、自社固有の商品がなければ、競合ECに奪われるからだ。かといって在庫の買い取りはやりたくない。

そこで考えられたのが「限定ブランド」である。これは、ECプラットフォーマーにとって極めて都合のよいやりかたで、「自社EC専用のブランドを売ってくれ、ただし、買い取りはしない。転売もゆるさない」というものだ。
EC
プラットフォーマーのロジックでいえば、「よく売れる売場を貸してやり、販売データも公開してやるから自由に売ってくれ。売れた分だけ手数料はもらうし、残れば返す」というわけだ。
こうして、工場と直接取引をするのがD2Cである。アパレル産業界は、SPAもそうだが勝手な解釈をている。誤った認識を正すべきだ。

 つまり、工場にアパレルが持つ在庫コントロール機能がなければ、工場とD2CWin-winとはならないのである。
工場というのは、安定稼働をKPIとするため、ダイレクトに消費者に販売するためには受注生産しかない。ZOZOがその昔、ZOZOSUITSで受注生産にトライしたのは、それが理由だ。
EC
プラットフォーマーからすれば、供給元は工場だろうがアパレルだろうが「We don’t care」である。
「限定ブランド」とは、工場側にとってすれば、アパレルが苦しめられている在庫問題をダイレクトに背負うことになるから、米国では悪魔の取引と呼ばれているのをご存じだろうか。前回キャッシュコンバージョンサイクルが悪化し、アパレルが死滅に追いやられている様を解説したが、ZOZOは現金が余ってしかたないと日経新聞は報じたことを思い出してもらいたい。
一方、ECプラットフォーマーにとってみれば、返品可能なPBのようなもので極めて都合がよい。こうした世界的動きの結果、工場には残反、残品が山のように残り、工場は複数のアパレル、アパレルリテーラーに在庫を半値八掛けで売りさばいているわけだ。この構造は、日本と全く同じである。

Shein3日で3000SKUを生産するのは不可能

Sheinはアパレルを作っているのではない、集めているのである
Sheinはアパレルを作っているのではない、集めているのである

ものづくりの現場を知っている人であれば、3日で3000SKUを生産するなど物理的に不可能であることはすぐにわかる。これは、リードタイムの問題でなく、素材の問題だ。商社の方は考えてもらいたい。

このような「限定ブランド」に安易に飛びつき、根拠のない大量生産悪玉論を突きつけられて少量発注を繰り返した結果、売れ残った残品、残反を使っているだけだと私が解説したら「他のコンサルタントが違うことをいっている」という問い合わせが舞い込んできた。

しかし、3000種類のバルク素材、布帛、ジャージー、ニット原糸などの「素材」を半日から1日で集め、のこりの二日で修正もせずにパターンを引いて3000ものSKUを作れると思うか?これは、スマートファクトリーがどうだとかいう問題でなく、物理的な素材の有無の問題だ。そもそも、PTCのマテリアルエクスチェンジという世界の素材を集めるプラットフォームにある素材が4000種類しかないのに、どうやって3日で3000SKUの商品を回転させられるのか。こんなことは少し考えれば誰でもわかるだろう。

Sheinがやっているのは、このような世界的潮流の結果生まれた余剰在庫を買いあさり、低価格で売っているだけなのだ。実は、同じような商売は、日本でも展開されている。それがShoichiであり、ワールドと組んでオフプライスストアで半値八掛けで販売しているゴードンブラザーズである。
知らない人のために補足しておくと、Shoichiとは「眠れる在庫に魂を与え、再び輝くステージを与えます!」を理念に、法人向けに特化した在庫処分代行業を行っている会社だ。
つまりSheinがやっているのは、このShoichiのモデルやゴードンブラザーズのビジネスを越境ECでやっているだけなのだ。

以前この説明を本オンラインでした際、最も多かった質問は「余った商品を押しつけられてどうやって商品政策(MD)が組めるのか」というものだった。だが、それは順序が逆だ。データベースマーケティングによって、売れる商品のサイズ、シルエットなどをあらかじめデータとして持ち、それに合致した商品だけをSheinは買っているところが、Shoichiとは異なるところだろう。
実際私は、中国で友人がSheinのウエブページをAIスマホの画像検知で写真を撮り、サーチしたところ、6つの異なるウエブサイトに、全く同じモデル、同じ服が売られていたのを、Zoom会議で見た。ちなみにモルガンスタンレーは、2022年にSheinZARAを抜かして世界トップになる可能性があると予想している。

私たちは、もっと論理的、分析的にものごとを見て本質的な考え方の枠組みを固めるべきだろう。アパレル産業はあまりに「感覚経営」がはびこっている。例えば、こうした世界の潮流をみれば、いまさら、時代遅れのPLM (Product Lifecycle Managemen) などですったもんだしているのが、いかに周回遅れとなっているかおわかりだろう。世界は一足飛びに中間流通を排除した「本物のD2C x Shoichiモデル x 越境EC」が主流なのである。PLMによるプラットフォームなど、遅きに逸した話である。時代の変化のスピードは恐ろしい勢いで進んでいる。日本企業の稼ぐ力が減り、為替が円安になれば、価値ある企業は必ず買収対象になる。

また、トヨタと日産が12月14日、とうとうEV移行をオフィシャルに発表したように、アパレル産業には、生産段階で環境負荷を与える工程の計測、報告、管理義務が課せられ、放置プレイになっている余剰在庫にも炭素税がかけられると私は観ているが、そうした流れと逆走し、直貿化を進めキャッシュコンバージョンサイクルを悪化させている。今、アパレル産業に必要なのは、徹底して昔の常識を疑いグレイヘアの上司達と戦い若い世代が論理的、合理的に新しいビジネスモデルを学び実現することだ。私は、そのためIFIビジネススクールで最新のアパレルの経営理論を若手に教えている。ぜひ、数多くのアパレル企業に門を叩いて頂きたい。

 

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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