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ユニクロ失速の秘密&通販KPIを活用した成熟時代の新しいアパレルビジネスのKPIとは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年1月17日 20時55分

Blue Planet Studio/istock

これからの10年、アパレル産業にとって日本市場は絶望的だ– 私は折につけ、そのように述べてきた。その理由は、そもそもの人口減少による市場の縮小、買い換えサイクル長期化、生産段階で排出される環境負荷の管理コストの増大、進む円安と上がらない上代など、挙げれば切りが無い。今回はユニクロをキャッチアップする中国アパレル事情と、アパレルビジネスを進化させるために理解しておきたい通販ビジネスのKPI(重要業績指標)について解説したい。

ファーストリテイリングに異変?中国苦戦は「国潮トレンド」か?

北京のユニクロ店舗
(2021年 ロイター/Florence Lo)

ファーストリテイリングは218月期業績について、国内と中国の販売苦戦を理由に計画の下方修正をしている。228月期第1四半期については増収増益で計画を大幅に上回ったが、国内ユニクロ事業の売上収益は対前期比274億円のマイナス(計画比ではプラス)、海外事業はアジア・オセアニア、北米、欧州は好調だったがグレーターチャイナは若干の減収、計画比は達成するも、昨対比は大幅減益であった。1月13日発表の決算説明会では、日本の減収には軽く触れ、21年9-10月の暖冬とサプライチェーンによる遅延に起因した売り逃しと説明。中国については、あくまでもオミクロン株による行動規制で、懸念された競争力は揺るぎないものであることが強調された。
どこか腑に落ちなかった私は、自身の中国ネットワークを活用して消費者や、アパレル関係者にヒアリングしてみた。その結果、ローカルアパレルの品質が向上し、国潮トレンド” (中国文化を見直すトレンドで、アパレルや音楽でも現代らしさと中華らしさを融合させたものに人気が集まる)により、もはや「日本製は安心・安全」という神通力も怪しくなってきたということである。

日本のアパレル全体に言えることだが、いかに中国が恐ろしいスピードで変革したか?そしていかに欧米は循環経済に対応したESG経営のイニシアティブを持って、早い者勝ちが如く、「新しい資本主義」のあり方の基準を作ってしまい、日本企業の世界化を困難たらしめるか、ということかと思う。

これは国家間の競争であり、国家間の方針の問題である。

ファーストリテイリングに話を戻すと、気になるのが20211014日の決算発表。「これからは米国を攻める」という衝撃的な方針説明の後、質疑応答では言い直すように「アジアを攻める方針はこれまでと変わらず、加えて、米国も攻めるという意味だ」と訂正していた。四半期前の説明と、上記結果、すなわち欧米の大幅増収、増益と中国の停滞は予め予知されていたものだったのではと考えるのは、よみすぎだろうか。

さて、ファストリ以外の日本のアパレル企業の話をすれば、総じて同じリスクを毎年繰り返しているように思う。私は、今から10年前「ブランドで競争する技術」で、トレンドやカントリーリスクを回避するためには、チャネル・エリアの分散化による世界化、分散化が必要と提言したのだが、実態は「OMOだ、D2Cだ」と消費者のKBF (購買決定要因)とは関係ない、企業側の仕組みで競争優位が決まるが如くシステム競争を繰り返している

そもそも、競争力のない企業は市場原理にまかせ、経済の新陳代と金融引き締めを行っている米国と経済の新陳代謝に成功しているようには見えない円安株安に陥っている日本では経営環境が異なり、同じ戦略をとっても産業成長するはずがない。
したがって、今後10年は誰が考えても日本市場はダメで、海外でマネタイズしなければ未来はないことは明らかだ。「越境EC × (本物の)D2C × (戦略的)ライブコマース」のモデルを考え抜き、今年からでも着手しなければ勝算はないのだ。

 

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通販KPIを理解せよ

Tevarak/istock
Tevarak/istock

そんなわけで、前置きが長くなったが、こうした産業の変わり目は、大きな戦略の大転換を図る必要がある。今回は、より具体的な成熟経済下での「アパレルのKPI」について語りたい。ひと言で言えば、通販で利用されているものを、アナロジカルにリアル店舗ビジネスに展開せよ、ということである

私は通販企業で6年働いた経験があるので、通販のKPIや考え方には詳しい。一方でアパレルでEC事業部と称する人、あるいは、EC担当の人の多くは、通販の基本の「き」を分かっていない人が多いようだ。

例えば、LTV の計算方法は

  1. 客単価 = 一点単価 x セット率 x 購買頻度/年
  2. Lifetime Value = 客単価 x 粗利率(限界利益率でもよい) x 離脱 (一年間買わない年度)までの年度

 である。
つまり、顧客Aが一年間に企業に落とす売上が「客単価」で、離脱するまでに落とす利益が「生涯価値」なのだ。この場合、一年間に買わなかった人が突然買い始めるケースもあるが、この場合、その客は「新規顧客」と捉え、KPIを単純化させる。これが基本だ。

例えば、長期間使う雑貨や家具のように数年に一度買うような商品を売っている場合、一年で買わなくなった人を「離脱」と捉えてしまうと、ほぼ全員が離脱してしまうため、管理方法に工夫が必要だが、本論考は通販管理のKPIを教えることを目的としていないため、ここでは省略する。

 

正しい通販のKPIを理解し、リアル店舗に応用したものが次世代KPI

Blue Planet Studio/istock
Blue Planet Studio/istock

最近、通販をちょっとかじった人間に「営業利益がマイナスではないか」と詰め寄ったところ、「LTVではプラスだからいいのだ」と言い返された。しかし、通販でLTVがプラスというのは当たり前の話で、マイナスなら、製造業でいえば「限界利益がマイナスである」と同義語(事業をやる意味が無いだ。そのLTVがCPAの合計値よりも大きくなっていなければ、赤字事業が続くだけなのだ。
彼は、「CPAは営業の仕事だから、自分は関係ない」という。意外とこの手の「聞きかじっただけ」で自分は会社に貢献していると信じている「洞窟の囚人」(古代哲学の洞窟論。自分の所属する組織以外のことは見えず、仕事をしている気になっている人)は多い。

まずは、簡単な書籍で良いので「通販KPI」の基本を学ぶべきだ。

ではなぜ、通販のビジネスモデルが大事なのかといえば、このモデルは成熟経済下、循環経済下のリアル店舗ビジネスと全く同じモデルだからだ。

 

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これからの成熟経済下、利益の計測方法はこうなる!

今の製品・市場の構造をモデル化すれば、「10人しかいない市場に、20枚の服を叩き売りあっている」状況である。だから、どんなに頑張っても、競争関係が均衡していれば消化率が50%を超えることはない。もし、あなたの会社の最終消化率が70%なら、どこかの同じ売上のアパレル最終消化率が30%になっていなければ計算が合わない。
あなたの会社の在庫が頑として極小化しないのは、1リットルのバケツに2リットルの水を無理に入れようとしているからだ。これは、トレンド予測の問題もなければ、提案力の問題でもない。物理の問題なのである。なぜこんな単純なことが分からず、AIの需要予測などに手を出すのかが理解できない。

こうした環境では、海外に出なければ未来はないことは、火を見るより明らかだろう。私が、「Tokyo showroom city戦略」を提言しているのはそういうことだ。ただし、東京における高いブランドパワーをレバレッジ に海外で売る戦略である以上、日本の市場でもそれなりに高い競争力を持ち、売上を維持することは重要だ。

そこでまず重要になるのが、お客さまをブランドファンにし、ハウスカードに登録してもらう、というものだ。これにかかるコストが、通販でいうCPA(Cost per Acquisition/Action、顧客獲得単価)だ。
日本のアパレル企業は、この「ブランドファンになってもらう(=顧客の獲得)」というステップを、ハウスカードに登録してもらう前にしっかりやっていないから、簡単に顧客は離脱してしまう、あるいは、ディスカウントメールかクーポンにしか反応しないのである。
今、アパレル企業が「離脱」を防ぎ、そしてセット率や購買頻度を上げるには、「ブランド化」が命となる。

顧客の「客単価向上」、「顧客育成」、「離脱防止」を実現するもっともよい方法は、「ブランド化」だ。「ブランド力をどうやってあげればよいのか」と質問をする人が多いが、そんなに簡単にブランドが作れるはずがない。ぜひ、拙著『ブランドで競争する技術』を手に取ってもらいたい。

CPA」は「売らないお店」のこと、CPO(Cost per order、注文1件あたりの販売コスト)は「従来型店舗」だと考えれば良い。ライブコマースやお店の立地条件がAcquisitionOrderへの誘引である。このように、事業の儲け方を再考し、収益力を計算し直してはどうか。

 

これまでは、貢献利益、営業利益、経常利益という考え方だった。
だが、これからの成熟経済、循環経済の元では事業の「儲け方」は、

  1. CPA<LTV(客単価/年 x 離脱までの期間 x 粗利率)
  2. 流入顧客 > 流出顧客 (ROAS*向上とブランド力強化)

へと計測方法が変わってくるのだ。
*Return On Advertising Spend、広告の費用対効果

 ECとリアル店舗が入り乱れ、ビッグデータによる顧客管理がいっそう大事になってきた今、次世代の管理会計に頭を悩ませている方も多いだろう。本稿が解決案の一助となれば幸いである。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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