「優れた接客が資産」ユナイテッドアローズ藤原義昭CDOに聞く、DX戦略と店舗の役割とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年2月13日 20時55分
ユナイテッドアローズ(東京都/松崎善則CEO)では、コロナ禍での在宅勤務の普及や外出自粛に伴って、都市部の店舗を中心に客数が減少した。2020年度は、ネット通販の売上高が対前期比11.7%と伸長し、EC比率が32.0%まで増加したものの、店舗の客数の減少によるマイナスの影響を十分に補いきれず、単体ベースの売上高が同21.2%減と落ち込んだ。
だがコロナ禍でEC比率が増加しても、消費者の主たる購買チャネルは依然として店舗だ。執行役員CDO(チーフデジタルオフィサー)・DX推進センター担当本部長 兼 同デジタルマーケティング部 部長の藤原義昭氏は、「これからも店舗はお客さまとの接点であり、お客さまにとってのメディアであり続ける」と店舗の役割を改めて定義したうえで、「これを前提にどのようにデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現していくかが課題だ」と指摘する。
DX推進センターによって、社内はどう変わったか
ユナイテッドアローズは、2021年4月、DX推進センターを設立。ネット通販の運営、CRM(顧客関係管理)戦略の立案・実行、オウンドメディアやSNSの運用などを担う「デジタルマーケティング部」、社内のIT推進やシステム管理などを担当する「情報システム部」、自社ECのリニューアルを手がける「自社EC開発室」をその下に配置している。商品づくりから販売までの機能を自社で保有する強みを生かしながら、デジタルで顧客との接点を創出し、顧客のニーズや購買行動の変化に素早く対応するのが狙いだ。
執行役員CDO(チーフデジタルオフィサー)・DX推進センター担当本部長 兼 同デジタルマーケティング部 部長の藤原義昭氏は、「DX推進センターのような横串組織によって、従来の事業部制に基づく縦割り組織の弊害がなくなり、部門間で有機的に連携しやすくなった」とその効果を語る。デジタル化のスピード感が高まるとともに、ビジョンを描いて計画に落とし込み、実行するというDXに向けた一連のプロセスも社内で浸透してきた。
DX推進センターでは、まず、データ解析や顧客へのインタビューなどを通じ、顧客理解の深化に取り組んだ。
ある調査では、コロナ禍以前にECを利用したことがない顧客がコロナ禍で来店できず、ECで商品を購入すると、離反するリスクが高まることがわかった。藤原氏は「店舗での豊かな顧客体験がいかに重要であるか、改めて浮き彫りとなった」と分析する。
また、顧客のLTV(顧客生涯価値)を分析すると、パンツを購入する顧客のLTVが最も高かった。パンツは店舗で試着し、サイズ感や着心地を確認したうえで購入される傾向の強いカテゴリーだ。販売スタッフの丁寧な接客や提案力の高さによって顧客との信頼関係が深まり、継続的な購買につながりやすくなっているとみられる。藤原氏は「優れた接客こそ、ユナイテッドアローズのソフトアセット」とし、「コロナ禍で顧客との接点を持ちづらい状況の中、より多くのお客さまに来店してもらうための仕掛けが必要だ」と語る。
OMOを加速させる
ユナイテッドアローズは広告宣伝や販促でデジタルシフトを加速させ、オンラインでの顧客とのコミュニケーションを積極的に増やし、来店促進に向けたデジタルマーケティング施策を実行してきた。デジタル広告のほうが紙媒体よりも圧倒的に多く、SNSの運営にも力を入れている。
「ユナイテッドアローズの強みである対面接客を通じた顧客とのリレーションの強さをどのようにデジタルに置き換えるかが課題」(藤原氏)だ。店舗の販売スタッフをInstagram(インスタグラム)のライブ配信やYouTube(ユーチューブ)の動画に出演させたり、販売スタッフのコーディネイトやスタイリングを公式ブログで紹介するなど、販売スタッフを媒介として顧客とのコミュニケーションをオンラインでも活性化させている。
デジタルでの顧客接点の創出は、従業員視点からも意義がある。顧客との1対1の対面接客で培ったトーン&マナー、商品知識、コーディネイトやスタイリングの提案力などを生かし、オンラインでも店舗でも「ユナイテッドアローズらしさ」を一貫して保ちながら、不特定多数の視聴者に商品の特徴や魅力を動画でわかりやすく伝えるというスキルアップの機会にもなっているのだ。
デジタルでの顧客接点が増えることで、OMO(オンラインとオフラインの融合)が進みつつある。
依然として、店舗にふらりと立ち寄って販売スタッフと対面でコミュニケーションし、欲しい商品が見つかったら購入するという従来のカスタマージャーニーが主流だ。とはいえ、デジタル広告やSNSでの集客を強化した2020年頃から、欲しい商品を事前にECで調べて来店し、店舗で購入する「ウェブルーミング」や、店舗で実際の商品を手に取って確認した後、ECで購入する「ショールーミング」も増えてきた。
藤原氏は「EC比率は今後さらに増加するだろう」と見通す一方で、「店舗がなくなると、お客さまから想起されづらくなる。店舗はフィジカルな顧客体験をお客さまに提供する場であり、リアルな空間で多くの人びとの目に触れるメディアでもある」と店舗の役割を強調。「店舗こそ『一丁目一番地』であり、そのアドオンとしてデジタルでの顧客体験がある」との基本的な方針を示す。
独自のポイントプログラム「UNITED ARROWS HOUSE CARD(ユナイテッドアローズ ハウスカード:以下、ハウスカード)」は公式アプリやLINE(ライン)と連携しており、顧客とオンラインでもつながるコミュニケーション基盤となっている。CRM施策として、店舗とECの購買履歴を統合し、「ハウスカード」の会員に向けて、それぞれの嗜好やニーズにカスタイマイズした「One-to-Oneマーケティング」に近い提案をメールマガジンやLINEで行っている。
2021年度末までには、自社ECをリニューアルする計画だ。自社で運営する物流センターを稼働させ、OMOのさらなる推進をはかっていく。
サプライチェーンや商品開発におけるDXとは
「ハウスカード」の会員は30~40代が中心である一方、若年層は自社ECよりも「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」や「楽天ファッション」といったファッション通販サイトで商品をより安く購入する傾向がみられる。藤原氏は「上質でベーシックなユナイテッドアローズの商品は、実際に使用してはじめて着心地のよさや丈夫さを実感できる。さまざまな購買チャネルを通じてより多くのお客さまに商品を買ってもらい、実際に使ってもらうことが重要だ」とし、「顧客層ごとに最適な購買チャネルを整えることがわれわれの務め」と語る。
サプライチェーンでのDXも課題のひとつだ。藤原氏は「機会損失を回避するために商品をどんどん生産する時代は終わった。効率性と創造性を十分に発揮して、お客さまの感性に訴える魅力ある商品を生み出し、プロパー消化率(定価で販売した割合)を高めることで、収益性を確保するべきだ」と説く。
商品生産では、需要に対する供給のコントロールに着手した。店舗では、従来、現場の勘や経験に依存しがちであった配荷後の商品の管理をAI(人工知能)に置き換え始めている。
「商品開発でも勘や経験のみに依存せず、データを有効に活用し、顧客から支持される商品をどのように作っていくかが重要だ」と藤原氏。現在、社内でデータ基盤の整備を進めており、データを誰もが使いやすい状態にし、データ分析によって有用なインサイトを得られるような環境が整いつつある。将来的には、SNS上のデータやファッション通販サイトの売上動向などをもとに「どのような商品が消費者から求められているか」を分析し、商品開発にも生かしていく方針だ。
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