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アマゾンとアップルが近い将来、アパレル産業のプラットフォーマーになる理由と戦略とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年1月26日 20時55分

米アマゾン・ドット・コムと欧米自動車大手ステランティスは5日、スマートカーの開発などで提携すると発表した。2021年10月撮影(2022年 ロイター//Pascal Rossignol)

今回は日本のアパレルが「オワコン」化している理由と、10年後のアパレル産業がどのようになっているのか、そして米Amazon(アマゾン)とApple(アップル)が持ち前の「構想力」を活用してどのようにアパレル産業におけるプラットフォーマーの座をつかもうとしているのか、その戦略を筆者が予測してみた。

アマゾンのロゴ
2022年 ロイター//Pascal Rossignol)

衰退する日本でしかビジネスをしていないリスク

日経新聞の報道によれば、デジタル庁は昨年10月、行政システムのクラウド化である通称「ガバメントクラウド」に、米国アマゾンのAWS (Amazon web service)Google(グーグル)のGoogle cloud Platformを採用したことを発表した。これにより、TCO(Total cost of ownership システム全体のコスト)が大きく下がるとしているが、年間8000億円に及ぶシステム投資額の約半分が米国プラットフォーマーに流れることになる。同選定には、富士通、日立、NECなども参加していたようだが、デジタル庁は「国益」より「安定性と実績」を優先したようだ。

この判断には色々な意見があり本判断について語る場ではないので私の意見は割愛するが、これでまた日本は世界からカネを取られる「カモ」の座を強固にしてしまったようだ。思えば、アパレル業界で採用されている基幹システムであるSAPOracleECスタンダードのHybris (SAP社のECソリューション)CRMSalesforceから、サプライチェーンプラットフォームであるPLM仏のLectraと米国Centric 8である。デジタルソリューションはサブスクリプションだから、これらのデジタルソリューションを採用した企業はすべて恒常的に海外に「使用料」を半永久的に払い続けることになる。

そもそも、アパレルが「オワコン産業」と化している日本で、この業界に投資をするデジタルベンダーはいないだろう。一方、Amazonは米国で旧態依然としたアパレル企業を死滅に追いやり、自らファッションストアを開いている。アパレルは世界で「オワコン」ではなく、「ビジネスモデルの変革中」なのだ。世界的に見れば、成長しているアパレル産業ではデジタルベンダーも開発投資は推進される。

だが、よく考えてもらいたい。日本のアパレル企業のほとんどは、日本国内だけで戦っている。グレーターチャイナ、東南アジアというアパレル成長市場に進出して、成長の果実を得ようともしていない。縮小し続ける日本マーケットで、市場が必要としている2倍の供給を行い、毎年在庫と格闘し、「座して死を待っている」状況なのだ。

 

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10年後企業数は半分になり、ファストリ、伊藤忠商事、外資系企業が残る

今度は視点を川上に向けると違った景色が見えてくる。拙著『生き残るアパレル死ぬアパレル』のおかげで、日本の生産工場の産地や「国産PLM」のスタートアップ企業から問い合わせをいただくようになった。「国産PLM」ベンダーも、既存のビジネスモデルを前提とした「改善」に毛が生えたようなもので、そもそもアパレル企業の競争力を上げるためには、どのようなビジネスモデルがあり得るかという発想もない。当たり前だ。世界の潮流にあまりに無知だからだ。

商社は、三菱商事を除く財閥系は繊維・アパレル事業からほとんど撤退し、専門商社も私が見る限り、産業をダイナミックに変えてゆこうという意識をもっているのは中間管理職だけ、それより上の階層の人々はますます縮小するOEM市場にしがみつき収益が悪化しているようだ。結局、この業界で、日本企業で残るのは、ファーストリテイリング社と非財閥系の伊藤忠商事、あとは、出ては消えてゆくSME (5-100億程度の中小企業)と外資系企業だけになるだろうと思わざるを得ない。最近は、不動産企業や外資金融、EC企業など、アパレル産業以外の企業から「なんとか産業を活性化したい」という話がくるようになってきた。政府のバラマキも限界に達し、昨年のように金を湯水のように貸すことはもはやないだろう。春から夏にかけて、大きな買収攻勢が起きると私は思っている。

ファーストリテイリングが、20228月期第1四半期決算発表の質疑応答で、投資銀行から「現金を持ちすぎではないか」と問われたが、彼らは「我々は在庫を持つ事業だ」を繰り返していた。別の人が追加質問で「素材備蓄に使うのか」と聞いたのに対しファーストリテイリング側は否定をしなかった。
「今後何が起きるか分からない環境」で、また、「3つの回転率」がバラバラに動く時代である。従来の「借金してでも投資をしろ」という考えはあらためる必要があると思う。今は、ある程度の蓄えを持ち、産業が停滞している時こそ投資に打って出る体力を温存する、新しいファイナンス理論が必要となるだろう。

 

Amazonが仮想通貨を国際通貨とし、
AppleARを使い小売のプラットフォーマーになる

アップルのロゴ
(2021年 ロイター/Mike Segar)

「シンギュラリティ」(技術的特異点)を代表例とする「技術の未来の可能性」と、「デジタル技術の今」の違いを理解できていないいまの50代の管理職が、AIに過剰期待し過剰投資をする事態があちこちで起きている。

これは、構想力の問題である。ファーストリテイリングが10億円の年収でデジタル人材を募集しているように、1万人の凡人より、1人の天才が国と企業を変える時代が来た。NECや富士通が大リストラをしながら、ハイテク人材を破格の年収で採用しているように、デジタル企業で人材の入れ替え戦がはじまっている。おそらく、日本では有能なクリエイティブ人材はほとんどゲーム業界に行っているので、ファーストリテイリングは外国人にターゲットを絞っているのではないだろうか。

このまま行けば、アパレル産業だけでなく日本の経済は米中に「完敗」するだろう。例えば、私は『生き残るアパレル 死ぬアパレル』で、Amazonは金融事業に打って出ると予想し、メディアもAmazon銀行に期待をしていたたが、今に至るまでそれらしい動きはでていない。それでも私は、Amazonが仮想通貨を世界統一通貨として出すのではないかと考えている。仮想通貨は今投機的目的に売買されており価値が乱高下しまだ通貨としての信用がない。だが、仮にAmazonが世界中のどこでも統一通貨で使える仮想通貨をだせば、海外決済時に為替手数料を払う必要も無い。成熟経済下の中での「勝ち方の定義」が変わってきているのだ。

デベロッパーや小売は規模が大きい企業ほど、決済業務に打って出るようになるだろう。過去、Facebookがリブロという仮想通貨をだし、同じようなヴィジョンを描いていたようだがうまくゆかなかったのは、彼らの本業が物販ではないからだ。その点、Amazonなら桁外れの物販が日々行われ、また、それらの多くが日常品であることから成功の確率は大きく変わる。

Amazonも投資業務に打って出れば(実際、日本ではマルイがやっている)、為替手数料がゼロの投資が可能となる。また、それだけ広がりを持つ通貨であれば、数多くの小売業やサービス業もAmazon仮想通貨を採用し、もはや為替という概念さえ無くなる可能性さえある。実際の通貨は残るだろうから、私は、将来Amazonが「越境ECプラットフォーマー」になると考えている。私は日本の商社に期待をしていたが、彼らにそれをやろうという気持ちは見えない。むしろ、楽天が積極的だ。決済も物流も越境ECAmazonや大手プラットフォーマーに奪われるだろう。

メタバースについても、今のアパレルは思い違いをしているように思う。VR (仮想現実)とは、私たちが生きている現実の世界とは別の世界がデジタルによって再現され、そこに自分の分身であるアバターが動きながら、第2の世界を堪能するというものだ。これに対して、AR (拡張現実)とは、現実の世界に仮想の物体を登場させる技術をいう。イケアのアプリで家具を部屋に仮想的に置いたり、Pokemon GOのモンスターを想像すれば良い。アパレル業界では、VRへの出店や「アバター」が大流行だが、私にはなぜ、服を買う時にリアルな自分と全く違うアバターが登場しなければならないのかサッパリ理解できない。まさに、デジタル企業が奇妙なスーツを作り、結果的に話題性で大量のユーザを獲得できたが、スーツやPBそのものは失敗に終わった事例にそっくりだ。

服とは、その人のリアルな顔の特徴や、太っている、痩せているなど体型によって着こなしも変わってくる。したがって、まず、実際の自分の顔を模写した写真を使い、精密に模写された体型を仮想的にスマホやタブレットに作り上げる。そして、さまざまな服を着こなした上で、「似合う」「似合わない」という判断をお客ができるような手法を先にすべきだ。これはメガネのJINSがすでにやっている手法だ。

仮想空間で、全く違う自分が登場し(現在の仮想空間内では、男が女装をするなどしている)、第2の世界で生活するというのはまだ先の話だ。例えばiPadiPhoneに、「計測」アプリやLiDAR(ライダー)という技術が採用されていることに、Appleの将来戦略を感じないだろうか。LiDARは離れた場所にある物体までの距離や形状を光を使って測定できるものだ。同社は、LiDARは、暗所での撮影のピント合わせに役立つと説明しているが、そんな小さいことに、これだけの技術を使うはずがない。同社は、確実に「サイズ」を物体までの距離と、映し出された写真からAIによって解析し、家具、アパレル、オブジェなどの小売事業を仮想的に販売するプラットフォーマーになろうとしていると私は見ている。某デジタル企業の計測スーツより、よほど現実味が高い。

いずれにおいても、日本のアパレルが「オワコン化」している最大の原因は、今に至るまで真剣に「世界化」をしていなかったこと。川中、川上は全くマーケットや世界の潮流を学んでこなかったこと。さらに、こうした技術が細切れに登場しては、バリューチェーン、ビジネスモデル全般にわたり、全体連携する俯瞰力に欠けることだ。次回、こうした絶体絶命の中我々はどのようにDXを進めるべきかを語りたい。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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