引き取り手がないジーンズが生まれ変わる!三越伊勢丹がめざすファッション×サステナビリティ
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年3月23日 20時55分
「think good」を共通スローガンに、社員一人ひとりがユニークなサステナビリティ施策を展開する三越伊勢丹ホールディングス(以下三越伊勢丹HD、東京都/代表執行役社長CEO 細谷敏幸)。その新たな取り組みが、ダメージや汚れがひどく、引き取り手がいなかった「リーバイス® 501®」をデザイナーやクリエイターの手によって生まれ変わらせるアップサイクルプロジェクト「デニム de ミライ~DENIM PROJECT~」だ。その内容もさることながら、自社のみならず、競合百貨店や地方のセレクトショップなど6社の共働プロジェクトとして展開する点も特徴だ。そこには、サステナビリティを一過性の“ファッション=流行”で終わらせまいとする担当者の思いがあった。
国内外の有力ブランドがユーズドストックをアップサイクル ※ユーズドストック:着用されたデニムパンツ・デニム生地
「リーバイス® 501®」。1890年に初めてロットナンバーが付いたジーンズの永遠の定番モデルを、ファッション好きなら知らない人はいないだろう。
その「 501®」は、古着ファンの間でも時代を超えた人気アイテムだ。しかし、古着市場で価値あるものとして取引されるビンテージジーンズもあれば、ダメージや汚れがひどくて買い手がつかず、廃棄せざるを得ないものも大量にある。
その棄てられる運命にあった「 501®」に、デザイナーやクリエイターが新たな命を吹き込んだのが「デニム de ミライ~DENIM PROJECT~」である。ANREALAGE/アンリアレイジ、Vivienne Westwood RED LABEL/ヴィヴィアン・ウエストウッド レッドレーベル、3.1 Phillip Lim /スリーワン フィリップ リム、Sergio Rossi/セルジオ ロッシなど国内外50を超える有力ブランドの手によって生まれたシャツやワンピース、家具などのアイテムは、ユーズドデニムならではの風合いと濃淡のコントラストが魅力的だ。
この「デニム de ミライ~DENIM PROJECT~」の仕掛け人が、伊勢丹新宿店の自主編集ショップ「リ・スタイル」の神谷将太氏。バイヤーとして年間70日以上は海外を飛びまわっていたという同氏は、どんな思いでこのアップサイクルプロジェクトを立ち上げたのだろうか。
古着市場で取り残された約20トンの「ジーンズの山」
「2020年以降、新型コロナウイルスの影響で海外出張ができなくなってしまった。そこで、国内にフィールドを切り替えてネタを探しまわっていた」という神谷氏。そのさなかに知人から紹介されたのが、洋服のアイロンプレスや検品、補修を主業とする「ヤマサワプレス」代表取締役の山澤亮治氏だった。
2020年9月、東京・竹ノ塚にあるヤマサワプレスの工場を訪ねると、目の前に現れたのはうず高く積まれたジーンズの山。工場以外の倉庫にあるものも含め、実に約20トンに上るというその量に、神谷氏は目を見張った。「古着というのは、アメリカに元締めのディーラーがあって世界中で取引されている。山澤さんはロサンゼルスに旅行に行った際、好きなお店やフリーマーケットを回るなかで、世界中で大量にユーズドストックされている501®の話を聞き、一手に引き取った」(神谷氏)。
ダメージや汚れがひどく、見向きもされなかった約20トンものユーズドストックの「501®」から、まずインポートやヴィンテージアイテムを取り扱っていたジーンズの目利きであるセレクトショップのオーナーと古着店のオーナーが、501でないものを見分け取り除き、ランク分けする。その後、ヤマサワプレス独自の洗浄技術で汚れと匂いを洗い落とし、スタッフが一本一本馬毛のブラシをかけ、さらに洗浄する。この地道な努力で「501®」を素材として活かして蘇らせようとしている山澤氏の姿勢に、神谷氏は心を動かされた。
「私たち百貨店の強みは、さまざまなブランドやデザイナーとのネットワークを持っていること。その私たちが接点となって、この『501®』を価値あるものに生まれ変わらせることができないか?と考えた」(同)。
神谷氏を中心にしながら伊勢丹新宿店のさまざまなバイヤーが声をかけたところ、国内外のデザイナー、クリエイターから家具、寝具メーカーまで約50ものブランド・メーカーが賛同。「501®」のユーズドストックをクリエイターと結びつけ、新たなアイテムへとアップサイクルする基本的なスキームが整った。
競合百貨店や地方セレクトショップと“呉越同舟”で手を組む
しかし、「この取り組みを、一過性のトレンドで終わらせたくなかった」と神谷氏は続ける。「継続的な取り組みになることで、初めて『サステナビリティ』といえる。そのためにも、アパレル業界内で発信力があり、プロジェクトの意義に賛同してくれる“同志”を増やしたいと考えた」。
神谷氏が声をかけたのが、「東の伊勢丹、西の阪急」と並び称される阪急百貨店と、同じ三越伊勢丹グループの岩田屋。さらに、山形・群馬・愛知の有力セレクトショップGEA、st company、MIDWEST NAGOYAの3社も加わり、“呉越同舟”でこのプロジェクトを展開するネットワークを構築した。「全国の有力セレクトショップを回る中で、最初は『どうして伊勢丹がこんな話を持ちかけてきたのか?』と不思議がられることもあった(笑)。それでも最後は『ファッションの未来のために一緒にやりましょう』との思いに賛同してもらった」(神谷氏)。
さらに、強力な“サポーター”の後押しもあった。「リーバイス® 501®」の商標権を持つ本家・リーバイスだ。神谷氏がリーバイ・ストラウス ジャパンを訪ね、商標の使用についての相談をしたところ、米サンフランシスコの本社がプロジェクトの意義に理解を示し、前例のない特別な使用許可が下りたのである。
こうして「501®」という永遠のファッションアイコンが共通言語となり、素材・作り手・売り手の三者を結びつけるアップサイクルプロジェクトが完成した。
サステナビリティはファッションを通じたコミュニケーションの一つ
20トンの「ジーンズの山」との出合いから、約一年後の2021年12月。「デニム de ミライ〜DENIM PROJECT〜」の個性豊かなアイテムの数々が、関係者向けに限定公開された。2022年3月23日にはいよいよ、伊勢丹新宿店を含む協業6社および三越伊勢丹オンラインショップで一斉に公開・販売を開始する(商品やブランドは展開店舗ごとに異なる)。
この「デニム de ミライ〜DENIM PROJECT〜」の他にも、愛着のあるアイテムを黒染めするアップサイクルサービス「KUROZOME REWEAR」など、「ファッション×サステナビリティ」のユニークな企画を仕掛けてきた神谷氏。その背景には、バイヤーとしてファッションを軸に顧客との接点づくりを考え続けてきた中で、抱いた危機感がある。
「かつてはファッションといえば『このアイテムが流行っているから着る』のが当たり前だった。しかし、今はお客さまが『自分がどうありたいか』『自分を世の中にどう表現していきたいか』をファッションに求めるようになっている」(神谷氏)。
単にモノとしてファッションを提案しても売れなくなってきている。顧客一人ひとりの生き方や価値観、多様な選択肢に、ファッションをどのように結びつけるか――思索をめぐらせる中で出た答えが「KUROZOME REWEAR」であり「デニム de ミライ〜DENIM PROJECT〜」だった。つまり、神谷氏にとってサステナビリティとは、ファッションを通じたコミュニケーションの一つ。あくまで主眼は「ファッション」にあるのだ。
「ファッションとはあくまで、かわいいから、かっこいいから『着てみたい』と高揚感を与えるものであるべき。サステナビリティも、一方的な価値観の押しつけではなく自然に『着てみたい』と思ってもらえるようにお客さまに提案していきたい。それは、私たち売り手側の責任でもある」(同)。
「アパレル業界でも過剰在庫を抱える素材は他にもたくさんある」と、神谷氏はさらに先を見すえる。素材・作り手・売り手の三者の思いを結びつける「デニム de ミライ〜DENIM PROJECT〜」のスキームがさらに進化していく、そんな「ファッション×サステナビリティ」の未来を期待したい。
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