データドリブンで、自社店舗の商圏異常にいち早く気づき、対策を立てる方法とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年2月16日 20時55分
業態の垣根を超えた競争激化により、チェーン店舗のエリアマーケティングはより、複雑さを増している。たとえばスーパーマーケットであれば以前は同業の動向だけを見ていればよかったが、ドラッグストア(DgS)が食品の品ぞろえを強化し、高速出店するなど個店を取り巻く環境は常に変化にさらされている。
そうした状況では、競合対策の遅れが自社店舗に大きな打撃を与えかねない。そうしたなか、東日本の有力スーパーマーケットは、競合店舗の出退店状況や来訪状況をタイムリーに把握できる“チェーン店舗のヘルスチェックアプリケーション”である「HAWKEYE VIEWER」を導入し、自社店舗商圏の防衛に役立てている。その取り組みと具体的な効果について、スーパーマーケット担当者と、アプリケーション提供企業のTruestar(東京都)に聞いた。
最新の出退店状況・来訪状況をデータで可視化
「スマートフォンのGPSから取得される位置情報や、店舗の出退店情報など、日々膨大な量のデータが生成され、各サードパーティーから提供されている。しかし、チェーン店舗のマーケティング担当者が大量のデータを継続的に収集、分析するのは現実的には困難だ」データ分析コンサルティングを行うTruestar ディレクターの小海老澤一樹氏は語る。
同社が着目したのが、技研商事インターナショナル(愛知県)の提供するデータマネジメントプラットフォーム「店舗DMP」だ。HAWKEYE VIEWERは、店舗にフォーカスしたあらゆるデータを一つのプラットフォームに集約した店舗DMPを活用し、競合店舗の出退店情報や、位置情報をビジュアルで分かりやすく、かつタイムリーに提供するレポーティングサービスとして同社が開発した。
HAWKEYE VIEWERが提供するレポートは3種類ある。
第一に「出退店速報レポート」。
競合店舗の出退店の最新動向を速報でレポートする。直接の競合ではない異業態の情報も網羅されているので、マーケティング担当者の属人的な情報収集力に依存することなく、常にアップデートされた出退店情報を把握することができる。
第二に「周辺店トラッキング」。
GPSデータを活用し、自社店舗と競合店舗の来訪状況を曜日別、時間帯別に可視化する。競合店舗の出退店による影響度や、キャンペーンの効果などが簡単に把握することができる。加えて、来店者がどの居住地・勤務地から来店したのかの情報もGPSから取得できるので、商圏の把握・分析にも役立てることができる。
第三に「商圏ビフォーアフター」。
今後の建設が予定されているマンションや学校など公共施設に関する情報や、競合店の出店情報を3年後まで見通すことができる、いわば商圏の「未来地図」だ。現在の状況だけでなく、3年後の未来も含めた商圏のポテンシャルを評価することができるので、新規出店の判断の精度を上げることができる。
「マーケティング担当者が情報収集や分析力に時間と労力をかけることなく、データに基づくロジカルなマーケティング分析を可能にするツールです」(小海老澤氏)
コロナで商圏構造が変化、異業種が新たな脅威に
2020年12月に正式ローンチしたHAWKEYE VIEWER。導入企業は、「トライアル中も含めてまだ20社ほど」(小海老澤氏)だが、既に同サービスを活用し、既存店のマネジメントや、出店戦略などの意思決定につなげている企業も現れている。東日本を拠点とする有力スーパーマーケットのA社もその一つだ。
「コロナ禍を経て商圏構造が大きく変化している」。同社の経営戦略担当のB氏が、HAWKEYE VIEWER導入の背景を語る。
「自社店舗の商圏構造は、これまでも人口減少や高齢化などの環境変化にさらされていましたが、コロナ禍で急速に変化しました。冷凍食品、ミールキットなど即食系商品に対するニーズが高まるとともに、商圏の狭域化が進んでいます」
コロナ禍がもたらすもう一つの変化として、B氏は「競合環境の変化」を挙げる。とりわけ新たな脅威となっているのがドラッグストアだ。「各商圏ではドラッグストアが攻勢をかけており、一部の商圏では競合ドラッグストアによるドミナント化が進んでいます。ドラッグストアが出店した商圏の店舗ではグロサリー中心に売上が微減するなど数字(売上)にも顕著に表れています」
ドラッグストアなど異業種が新興勢力として台頭する中で、「これまでの既存店のオペレーションや出店政策のセオリーでは立ちゆかなくなった」と危機感を強めるB氏。そこで、異業種も含めた他店舗の出退店情報をタイムリーに得られるHAWKEYE VIEWERに活路を求めた。
競合の出店情報をキャッチし、売価戦略に活用
A社では、HAWKEYE VIEWERを、既存店のマネジメントと新規出店政策の両面で活用している。
「導入前、同業スーパーマーケットの出退店情報はチェックしていましたが、ドラッグストアなど異業態までは追い切れていませんでした。信頼性の高い『商圏ビフォーアフター』のレポートをリアルタイムで配信してもらい、常に商品部や営業部と共有しています」
その効果は売価戦略にも表れている。これまでは気づいたら近隣にドラッグストアが出店し、その売価を見てから自社店舗の売価を決めるなど対応が後手に回っていた。ところが、「商圏ビフォーアフター」を見て事前に出店情報をキャッチすることで、先手を打ってメーカーと交渉し、売価を決定できるようになったという。
そして、社員の中にも意識の変化が表れたとB氏は語る。
「これまでも『ドラッグストアが出店したら売上に悪影響がある』といった抽象的なレベルの話はしていましたが、『あの店舗が半径5キロ圏内に出店したら菓子・酒類が5パーセント減少する』など、出退店データと実際の売上の動向をリンクさせながら議論する機運が社内に生まれています」
また、新規店舗の出店政策においても「商圏ビフォーアフター」のレポートを開発部門とも共有し、有効活用している。
「地図上にプロットされた競合店の情報からその商圏の人口ポテンシャルをある程度割り出すことができるので、どのくらいの人口ポテンシャルがあれば損益分岐点に達するかといった試算が可能になりました。これまではデベロッパーなどから紹介された『物件ありき』で出店を意思決定していたのですが、データから商圏のポテンシャルを試算し、戦略的に物件を探す『データありき』の方向へと転換しています」
先の見通せないチェーン店舗戦略の新たな“航海図”に
A社では、「商圏ビフォーアフター」のレポートに加えて、競合店の出店情報をアラートメールで営業部、商品部、バイヤー、店長と常に共有している。
「私自身がアラートを出さなくても、現場自ら危機意識、問題意識を持って、指示されなくても自ら行動改善できるような体制にしていきたい」(B氏)と言い、HAWKEYE VIEWERのさらなる進化に、B氏は期待を寄せる。目指すのは「トップから担当者までデータにもとづく意思決定ができる組織体制」だ。
「ある競合店が自社商圏の半径何キロ圏内にオープンした場合、どのカテゴリの売上が何パーセント減少するといった影響度を数値化し、それが基準値を超えると即座にアラートが出るような仕組みがあるといいですね。そのアラートを経営層、マネジメント層から主任クラスまで共有することで、より自律的でスピーディーな意思決定が行えると思います」
その声を受け、Truestarでもデータサイエンティストのチームが統計モデルを活用してさらに開発を進めているところだ。「日々のあらゆるデータを組み込みながら、さらに統計分析の精度を上げていきたい」と小海老澤氏は力を込める。
主観的・属人的な店舗戦略から「データドリブン」な店舗戦略へ――商圏構造が急激に変化し先の見通せない時代に、HAWKEYE VIEWERは、チェーン店舗にとっての新たな“航海図”となりそうだ。
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