「防災×ギフト」で人気のLIFEGIFT、3.11を経験した若者が起こす防災イノベーション
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年3月16日 20時55分
SDGs(持続可能な開発目標)のトレンドを追い風に、ビジネススキームを活用して社会課題の解決を図る取り組みが、スタートアップから大企業まで広くみられるようになった。しかし、その中にあって「防災」は、日常での必要性を実感しにくいだけにビジネスモデル化が難しい領域とされてきた。その「防災」領域で「デザイン性の高い防災用品を集めたカタログギフト」の形で実現したのが、KOKUA(東京)が展開する、「LIFEGIFT」だ。災害大国・日本でもなかなか根づかない人々の防災意識を、いかに自然に、楽しく醸成するか。自身も学生時代に東日本大震災を体験したという代表取締役の泉 勇作氏に聞いた。
災害大国・日本でも約半数が「防災対策をしていない」
セキュリティ・防災事業大手のセコムが2021年に実施した「防災に関する意識調査」によると、「あなたは何らかの防災対策をしていますか」との問いに対して「対策をしている」と回答した人は約半数の51.6%。「対策をしていない理由を教えてください」との問いに対して「具体的にどのような対策をすればよいかわからないから」との回答が50.8%を占めている。
毎年、全国各地で何かしらの地震や水害などが起こっているのに、約半数が防災対策をしていない――それが、災害大国・日本の偽らざる実態だろう。実際に被災した体験のある人はともかく、そうでない大多数の人にとっては、災害とはテレビの向こう側にある「対岸の火事」。防災への備えをしなければという気持ちはあっても、どうしても優先順位が後回しになってしまうものだ。
その防災用品を「ギフト」にすれば、興味のない人にも自然に受け取ってもらえて、防災について考えるきっかけにもなるのではないか――そんな発想から生まれたのが「いのちをまもるカタログギフト」LIFEGIFTだ。
「防災×ギフト」のアイデアでグッドデザイン賞を受賞
LIFEGIFTのカタログを開くと、災害時に必要とされる防災用品の数々が並ぶ。しかし、一見して、すぐに防災用品とは気づかないかもしれない。ランタンや充電ライトはインテリアとしても違和感がないし、モノトーンを基調とした消火器はリビングに置いても邪魔にならない。どの商品もデザイン性が高く、おしゃれな「ギフト」として成立しているのだ。
「防災用品である以上、災害時のさまざまなシーンに役立つという機能性はもちろんですが、それだけでなくギフトとして喜ばれなければなりません。そのためにもデザイン性にすぐれ、暮らしになじむものであることを、ギフトの選定においては重視しています」(泉氏)
いざという時に助けを呼ぶ「アクセサリー防災笛」も、香水などのガラス瓶をモチーフとしたもので、そのままペンダントにもなるユニークなプロダクトだ。このカタログギフトを受け取った人が、家族で楽しみながらグッズを選ぶ光景が浮かんでくるようだ。
「あなたの無事が、いちばん大事」がLIFEGIFTのキャッチフレーズだ。引越し祝いや出産祝いなどのライフイベントに、その相手を大切に思うメッセージを伝えると同時に、自然に防災意識を高めるきっかけを提供することができる。その着眼点が評価され、「2021年度グッドデザイン賞」にも選定されるなど、LIFEGIFTへの注目度は高まっている。
「防災」で起業を決意するも、コロナで受注が白紙に
ありそうでなかった、「防災×ギフト」の組み合わせ。しかし、泉氏は「本当はカタログギフトをやる予定ではなかった」と苦笑する。
2020年9月に「KOKUA」を創業した泉氏だが、その原点は、1995年の阪神淡路大震災にある。生まれて間もない頃だったが、神戸市内にあった自宅も半壊の被害に遭った。
「当時、私は9か月だったので記憶はありませんが、震災の話を両親や兄から聞いて育ちました。そのこともあり、物心ついた頃から防災に対する関心を持っていました」
さらに大学に入学する直前の2011年3月には東日本大震災が起こり、学生時代は災害支援のボランティアで何度も東北の被災地を訪れた。そこで知り合ったメンバーがのちにKOKUAの創業メンバーとなる。大学を卒業後し、社会人になってからも有給休暇を活用しながら災害支援活動を継続していた泉氏。その傍ら、防災活動団体が主宰する防災特化型アクセラレーター(起業支援)プログラムに、ボランティア仲間とともに参加した。当時の起業アイデアは「企業向けの災害・防災研修サービス」だった。
「災害が起こっている状況というのは、実は究極の意思決定が求められる場でもあります。その意思決定のプロセスやチームビルディングの要素を盛り込んだ、独自の社員研修プログラムを開発しました」
この研修プログラムは反響を呼び、さまざまな企業から引き合いがあった。一定の需要があると見込んだ泉氏は2020年3月、勤めていた会社をおもいきって退職。起業家としての一歩を踏み出した。
ところが、そのタイミングで起こったのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。商談を進めていた企業が次々に社員研修を見合わせ、受注が白紙になってしまった。
クラウドファンディングで目標額の2倍を調達!
これからという矢先、いきなりピンチに立たされた泉氏。その窮地で、「もともと構想を温めていた」という防災カタログギフトのアイデアにすぐアクションを切り替えた。
研修プログラムの受注をすべて失った数か月後の2020年7月には、クラウドファンディングサイトで防災カタログギフトのプロジェクトを掲載、支援を呼びかけた。すると、開始24時間後には目標額の150万円を達成。最終的には350万円を獲得するなど大きな反響を得た。
2020年12月、LIFEGIFTを正式に販売開始。当初は認知度が高まらず苦戦したが、すぐに追い風が吹く。NHKの朝と夕方のニュース番組でLIFEGIFTが採り上げられたのだ。
その直後、「このニュースを観た」と声をかけたのが、ホームセンター大手の東急ハンズ。全国約50店舗にポップアップショップを展開し、LIFEGIFTが大きく認知されるきっかけとなった。
その後も、SDGsの追い風にも乗って、LIFEGIFTはさまざまなメディアで紹介され、そのたびに認知度を高めていった。現在では月間で400冊前後を販売し、堅調に事業を伸ばしている。
防災意識を持続的に醸成する工夫が課題
泉氏の情熱にひかれ、学生時代から災害支援活動をともにしてきた20代の若いメンバーでLIFEGIFTは運営されている。カタログに掲載するギフトの選定も全員で話し合いながら決めていく。
「LIFEGIFTが贈られるギフトシーンというのは、出産祝いや引越し祝いなど新生活が始まるタイミングが最も多い。そういうシーンを思い浮かべながら、時にはペルソナに近い人に意見を求めることもあります」
近年では、SDGsの流れから、ソーシャルな取り組みを模索する小売店も多く、そういったニーズにも応えたコラボレーションを展開している。2022年1月には、「阪急うめだ本店」(大阪府大阪市)の一角に、LIFEGIFT掲載商品の一部を展示した。
これからの課題として「防災意識を持続的に醸成する支援をしていきたい」と泉氏は語る。
「LIFEGIFTは、防災意識が『ゼロ』だった人に『1』を与えることはできます。でも、消火器を一本買ったから備えが完了するわけではありません。1を10に、さらに100にするための仕掛けも必要だと考えています」
そこで新たに開発したのが、備蓄食に特化した「LIFEGIFT FOOD」だ。セレクトした備蓄食が定期便で届けられるサービスで、「次に何が届くのか」を心待ちにしながら、防災意識を持ち続けることができる。
例えば、あるテーマについて、定期的に雑誌を購読し、最終的に一つの百科事典を完成させる「分冊百科」がある。LIFEGIFTも、一度ギフトを受け取ったら終わりではなく、「集める楽しみ」を喚起しながら、気づいたら防災対策が完了していた、という仕掛けも今後はありえるだろう。
社名の「KOKUA」とは、ハワイ語で「手伝う、助ける」という意味だ。阪神淡路大震災の前後に生まれ、学生時代に東日本大震災を体験した20代の若者たちが「KOKUA」のマインドで、「防災」の領域に静かなイノベーションを興しつつある。
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