冷凍弁当宅配の「ナッシュ」がコロナ禍で販売数を8倍に伸ばした方法
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年5月4日 20時55分
低糖質、低塩分をコンセプトにする冷凍宅配弁当を販売するナッシュ(大阪府/田中智也社長)が好調だ。2018年にサービスを開始したまだ若い会社だが、コロナ禍の直近2年間で月間販売食数を18万食から150万食へ飛躍に伸ばしたという。さらに、人気YouTuberとの提携がSNSで話題になるなど、ユニークなインフルエンサーマーケティングでも注目を浴びている。同社マーケティング部部長の小川勇輝氏に、好業績を支える販売戦略について話を聞いた。
キーワードはヘルシー、低糖質
ナッシュ(nosh)は、自社工場で製造した冷凍弁当を「月に2回10個ずつ」など、ユーザーが指定するサイクルで指定する個数・メニューを定期的に宅配するサービスである。手軽さとヘルシーさが特徴のサービスで、コロナ禍前の2020年1月の月間販売18万食から、21年1月には68万食、22年1月には150万食と、2年間で約8倍に飛躍した。
1回の配達での個数は、6食プラン(4190円/以下すべて税込価格)、8食プラン(4990円)、10食プラン(5990円)から選ぶことができ、2回目のオーダーからは4食プラン、20食プランも選択できる。1食あたりの価格はそれぞれ698円、623円、599円で、和洋中の約60種類からメニューを選べる。毎週新メニューが3種類登場しランキングの低いメニューと入れ替えるなど、飽きさせないための工夫も施されている。
特筆すべきは、すべてのメニューは糖質30g ・塩分2.5g以内の「低糖質・低塩分」である点だ。この基準を厳密に守り、かつリーズナブルな価格で提供するため、弁当はすべて兵庫県内の自社工場で製造している。
食品関連の知識ゼロからの立ち上げ
サービス立ち上げのきっかけは、社長である田中智也氏の前職での経験にあるという。葬儀紹介サービスを提供するサービスを立ち上げ、運営していた田中氏は事業を通じて、亡くなる方の死因のおよそ8割が生活習慣病だということに気づく。この経験をきっかけに「社会全体を健康にする」をミッションに掲げ、ヘルシー志向の宅配弁当サービスを立ち上げた。
創業メンバーは、田中氏を含めて全員IT関係の出身者で食品業の経験者はゼロ。経験値の不足は、すでに十分な製造ノウハウを持つ食品工場の買収などで補い、徐々に知識を習得していった。
サービス開始当初は「ヘルシー」「低糖質」などのキーワードから、女性ユーザーがメインになると思われたが、野原氏は「実際には男性ユーザーが予想より多く男女比率は半々。とくに単身世帯の男性から支持を受けているようだ」と話す。ユーザーの年齢層は幅広いが、ボリュームゾーンは20〜40代で、中でも30代が全体の3割強を占めている。利用頻度では「月2回、10食プラン」がコアで、夕食としての需要が約7割だ。
これらのデータからは、仕事などで忙しく栄養バランスに気を配った食事や自炊が難しいものの健康は気になる、という現代人の意識が読み取れる。また、ナッシュには「チリハンバーグステーキ」「にんにく醤油から揚げ」などボリューム系の献立も定番メニューとして揃えている。こういった通常であればカロリーが気になるメニューも、罪悪感少なく食べることができることも魅力の一つと言えそうだ。
もう一つ、「意外な需要がある」と小川氏は話す。それは高齢になり食事の準備に大変さを感じるようになった親世代への、子世代からのギフトとしての需要だ。冷凍・冷蔵に関わらず、宅配弁当といえば従来は高齢者をターゲットにしたサービスが多かった。ナッシュは現在ウェブ広告などでのマーケティングを主としているため、本来であれば高齢者には情報が届きにくいが、子世代を経由するという予想外の形で高齢世代にも届けられているわけだ。
人気YouTuberとコラボ 特徴あるマーケティングが成功
ナッシュのマーケティング戦略にも注目だ。上記の通り、ナッシュはウェブ広告を主体に販売促進を行っているものの、同時に注力しているのが有名YouTuberや配信者との提携だ。当初は美容・ダイエット系の女性をターゲットにしたYouTuberやインフルエンサーと提携することが多かったものの、試験的にまったく関係のないジャンルで実施してみたところこれが反響を呼んだという。
中でも反響が大きかったのが、動物系YouTuberの草分けとして人気を集める「もちまる日記」や、ゲーム系配信者として常に2万人前後のリスナーを集める「SHAKA」氏との提携だ。「もちまる日記」との提携では、ナッシュの弁当をレンジアップして食べる様子を猫の「おもち」と共に紹介。この動画は80万回以上再生された。SHAKA氏との提携では、実際に食べてみた感想を配信内で本人がざっくばらんに語るなどした。
これらの動画公開・配信後は、SNSがナッシュの話題でにぎわうといい、普段ナッシュと接点のない層や、ウェブ広告は見かけているもののただ漫然と見逃している層へ、きちんと意識される形で情報を届けるという意味で価値のあるマーケティング手段といえそうだ。
今後の展望について小川氏は「コロナ禍が落ち着いても、そのときに身についたライフスタイルは一定残り続けると考えている。自宅で手軽に食事を取ることへの需要が低下することはないと思う」と語る。
課題としては、子世代からのギフトとしてではなく自主的に購入する高齢のユーザーが少ないことを挙げた。また「食を通じて人々を健康に」というミッションを達成するために、「1日に1食ナッシュの弁当を食べる、という利用頻度の引き上げが必要。朝食など、食シーンに合わせたメニュー開発などの道も探っていきたい」と小川氏は意欲を示した。
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