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今年アパレル世界一へ!?幹部も登場、正しいD2Cシーイン成功の秘密を明らかにする!

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年5月23日 20時55分

某大手外資金融機関は今年、中国企業のShein(シーイン)が世界一のアパレル になるだろうと予測している。その一方で、世界の著名アナリストたちはZARAやH&Mはこれ以上の成長は難しいとも分析している。ますますグローバル規模でシーインへの注目度や影響が高まるわけだ。今後、世界はシーインが実行する「正しいD2C」の威力をまざまざと思い知ることになる。

PhotoTalk/istock
PhotoTalk/istock

中国について、ロジカルに説明できる人材がいない

 ファッション・グローバル・カンファレンスが終了した。世界のトップアナリストが参加したこのカンファレンスに僭越ながら私が登壇した理由は「中国の脅威」だった。世界がファッション産業をどんな風に見ているのかの視点について説明するとともに、彼らがいま最も注目しているシーインについて、同社幹部との面談を通じた、「シーインの強さの本質」と注目すべき点について、彼らとのディベートを再現する形で公開したい。

「今、中国についてロジカルに説明できる人間がいない」

欧米のトップアナリストは口を揃えてこう言う。確かに私自身、中国の市場を調査するため、中国在中の大手商社マンやアパレル企業の人間と幾度も話をしたが、そのほとんどが論理破綻している意見ばかりだった。

自分自身が感じる将来像や予見を語ることは悪いことではない。しかし、問題は、数字に弱く、類推と事実の境目を明確化できていない点だ。だから、所々クビをかしげるようなことをいう。
例えば、Shein(シーイン) について雄弁に語る人間がいたが、彼が見たのはたったの400枚の生産を請け負う中小の工場だった。しかも、その平均FOB価格が2ドルだという。その商社マンは、その中小工場が繊維メーカーなどと情報を共有し迅速な追加生産を行うQR(クイック・レスポンス)を行なっていたから、「シーインが中国版PLM*」をつかって、データベースマーケティングでQRで追加を1週間で行っている」というわけだ。
PLM: 製品の開発・設計・製造といったライフサイクル全体の情報をITで一元管理し、収益を最大化していく手法

少し考えれば、その工場は、たったの800ドルの仕事しかしておらず、シーインの売上高を1兆円とするなら、0.0000000000001の話をしていることが分かっていない。

私たちのように、ロジカルシンキングの訓練を徹底してやってきた者は、一つ「これはおかしいな」と感じると、全ての主張に対して信憑性が持てなくなる。
「私はアパレル産業は詳しいです。アパレルは理屈だけじゃなく、感性が大事だから論理では説明できないのです」を殺し文句にしている人も業界には多いが、グローバルの1兆円企業はすべてデータベース・ドリブンが常識だということさえ分かっていない。いまだに大御所が「来年の傾向は、、、」などと宣っているから、日本のアパレル産業は世界から無視されるのだ。

今日は、世界が世界のファッション産業をどのように見ているのか。また、謎の中国企業シーインのトップに近いスポークスマンとのやり取りについてお話ししたい。

 

日本は完全無視、世界は中国を脅威に感じている

さて、冒頭のカンファレンス開催に先立ち、欧米のトップアナリストたちと本番前に徹底したディベートを行った。その時、印象的だったのは、「例えば、日本では、、」と日本の話をはじめると、彼らは「日本についてはユニクロで十分だ。あとは、どうでも良い」と言う点だった。彼らが日本のアパレル産業に全く興味がないのは明らかだった。

私に白羽の矢が立ったのは、「私たちはシーインの幹部と直接話をする機会を得て、彼らの主張に反証できる人間を探していた」からだという。日本市場の専門家としてではなく、中国市場、それもベールに包まれたシーインの本質を語れる人間として私は招聘されたわけだ。

これ以上は守秘の壁に守られその詳細を語ることができないのだが、世界から隔絶された日本の的外れな声、例えば、「OMOやメタバースで売上10%アップだ」などという主張をあちこちでみると、論理破綻した局所的主張を繰り返す日本市場が、世界から無視される理由もよく分かる。

考えてみて欲しい。毎年日本国内だけで倍以上の供給を行い、ますます縮小する日本がすべきことは、「OMO戦略」でなく、余剰在庫に在庫税を課し、作りすぎをなくすことだ。売り方の効率化や戦略は、その後だ。なぜこんな単純なことが分からないのだろうか。

世界のアパレル産業が直面する3つの力

さて、本題に入りたい。ここからは私とアナリストたちのディベートのやりとりを公開したい。

まず私は、このカンファレンスの冒頭で、世界のアパレル産業が直面している(日本ではない)3つの力について問題提起した。

ひとつは、巨大プレイヤーの成長が鈍化し、環境との共存なく生き残れなくなったこと。例えば、ESG経営に積極的な企業の株価は、そうでない企業よりも高くなっている(註:日本では、全く相関性はない)
 
二番目に、デジタル化が世界規模で進み、小売業の生産性や拡張性が飛躍的に向上した一方、従来型企業ではテクノロジーのスピードについていくことが難しくなっていて優勝劣敗が大きく出てきていること。

最後に、コロナは消費者の生活様式を大きく変え、結果、ECが劇的に拡大、従来の小売業者の「勝ちパターン」を困難なものとし、また、デジタル技術を活用したD2Cと呼ばれる、新興勢力による競争が激化していることだ。シーインなどはまさにその典型だと見ている。

これに対して、アナリストたちは以下のように返答、そして追加で質問をしてきた。ここから先はディベート形式でそのやりとりを紹介したい。

 

シーイン自身が、税制メリットを否定する理由と真実とは

アナリスト シーインについて、私たち(アナリスト)は強みを、1)効率的かつ集中的なサプライチェーン、2)高度なアルゴリズムと強力なソーシャルメディアの活用、3)中国から直接出荷することによる税制上のメリットの三つと考えている。

シーイン自身、商品を魅力的な価格で提供できる理由のひとつは、ロスを最小限に抑えられることだと主張しています。アパレル業界では、生産された衣服の平均30%が売れずに廃棄されている(これは、世界の衣料品のロスの合計)のに対し、彼らは世界中の何千もの店舗を在庫で埋める必要なく、消費の「予測」も必要がない(売れている商品をビッグデータから読み取り広州から出荷する)からです。これは、ビジネスとして公正だと思うか?

 河合 確かに、シーインのビジネスモデルは廃棄ロスが全く出ない。しかし、同時に、彼らは、消費者が必要とする以上の製品を作り続けている世界中のアパレル・プレイヤーの“残飯”を活用している。シーインの突然変異は、私たちの「大量生産」に対する「警告」であろう。

アパレル企業が廃棄物を伴う生産を続けるなら、彼らのような企業は存続し続けるだろう。ファッション・ビジネスにおける「廃棄物ゼロ」の生産モデルは、デジタル技術のおかげで可能だ。例えば、日本ではオンワード樫山という会社が、スーツの受注生産をやり大きく業績を伸ばしている。私たちがより大きな売上を求め、より多くの利益を生み出そうとするかぎり、シーインのような企業は決してなくならない。

 

アナリスト シーインのもう一つの差別化ポイントは、高度な技術力(アルゴリズムやソーシャルメディアの活用など)にあるようだ。実際、彼らは自分たちをアパレル企業ではなく、テック企業だと定義している。この点についてはどうお考えか?

河合 忘れてはならないのは、ZARAH&Mのように、世界企業にまで拡大したビジネスモデルは、いずれも人間の感性という曖昧で不確実性の高いものに頼っていないことだ。シーインはもともと、中国に大量にある残反やサンプルの中から売れ筋商品を探す、ビッグデータ解析を用いたデジタルマーケティング会社だった。もちろん、スタートアップの段階では、ファッションビジネスには感性が必要だと思うが、それだけではスケールアップしない。だから、テックカンパニーと呼ぶのが妥当だと思うし、テックカンパニーになれない企業は成長を阻害され死滅してゆくだろう。

 

アナリスト 税制上のメリットについて。中国から直接出荷することで、アメリカ(と一部ヨーロッパ)での輸入税を回避している。しかしシーインは、「あなた方は税制メリットを過大評価しており、これはわれわれの価格競争力の理由でない(むしろ廃棄物の少なさと関連している)」と主張している。あなたの意見はどうか?

河合 個別配送によるタックスメリットは、消費者に至るまでのバリューチェーン全体において考察すれば、シーインが言う以上に大きいと思う。例えば、世界の繊維製品の輸入税は、CIFCost, Insurance, Freight)価格の10%程度だ。小売店は、さらに、この価格を3倍にして消費者に販売する。こう考えると、シーインは競合他社に比べ、小売価格の30%程度のディスカウントでコスト優位性を確保できると言える。この影響が小さいとは私は思わないし、D2Cと呼ばれる工場直送だからできる技であるともいえる。

 

アナリスト シーインのビジネスモデルが際立っていて、これほどまでに世界的な大企業になることができたのは、何か他に理由があるのか?

河合 シーインのビジネスモデルで議論されるべきは、ライブストリーム業務を現地のPR会社に委託し、マーケティング活動をその国の特性に完全に合わせていることだ。例えば、アメリカではケイティ・ペリーのようなビッグアーティストを起用し、日本では芸能人ではないが、インスタグラムのインフルエンサーを起用するなどしている。実際シーインは、デジタルネイティブ世代と言われるZ世代をターゲットにしており、その特定層への知名度や支持率は絶大な一方、ターゲット外の層からは知られてもいない。つまり、極めて合理的で効果的なマーケティングを行なっている。一例として私はビジネススクールの講師として、若い人たちに毎回、授業を始める前に、シーインを使っているかどうか手を挙げさせる。驚くことにほぼ100%がシーインで購買している反面、中高年以上はキョトンとしている。

さらに、これは、私の推測だが、彼らのビジネスモデルを構造的に分析すれば、彼らのEBITDAマージンは20%近くに達する可能性もある。一般的にグローバル大手の売上高販管費率は40%前後だが、日本のアパレルメーカーは50%以上。グローバル大手の利益率と10ポイントほど差があり、その差の要因は「大量の赤字店舗」と、「身の丈に合っていないデジタル導入」だ。一方、シーインは店舗を持たない。

アナリスト Sheinは、サプライチェーンや生産部門におけるサステナビリティ基準が低いと公的に非難されている。多くの人は、ESGに準拠したサプライチェーンでは、このような低価格帯の販売は不可能だと考えているが、彼らはこの点について反発している。これについては、どう思うか?

 

このようなやり取りが、数時間も続き会場は大いに盛り上がった。本論考で全文を載せるのは控えさせていただき、ここまでにしたい。最後に、私は「シーインに文句があるなら、アジアで残反を残さずすべて資産管理し、使い切れば良い。無駄なサンプルを工場に押しつけ、製品在庫ばかりを気にしているから足下を掬われるのだ。本当に、サステイナビリティを謳うなら、自ら反物の在庫を持ち管理すればよい」と述べたことを付け加えて、今回の論考を締め括りたいと思う。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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