ECに専属スタッフが“常駐”!アパレルのジュンがめざす、本当のOMOとは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年6月26日 20時53分
「アダム エ ロペ」などのブランドを持ち、全国に350店舗以上を展開するジュングループ(東京都/佐々木進社長)。かつて一世を風靡した「JUN」のロゴを思い出す人もいると思うが、現在はアパレル業界でも随一のOMO(オンラインとオフラインの融合)システムを運用する、EC時代のトップランナーの1社だ。オンラインショップでの専属スタッフによるチャットサービス、店舗とECの完全な在庫一元化など「店舗とECの体験価値をイコールにする」一連のOMOの取り組みについて、同社のEC事業を主導する取締役執行役員の中嶋賢治氏に聞いた。
チャットスタッフの接客に85パーセントが「非常に満足」
「夏用のロングパンツでおススメはありますか? タイトで少しテーパードがかかったシルエットが好みです」
ジュングループのオンラインショップ「J’aDoRe JUN ONLINE(ジャドール ジュン オンライン)」公式アプリのチャットに筆者が相談のメッセージを送ると、1分もしないうちに返信がスマートフォンに飛んできた。
「チャットでご相談いただきありがとうございます! おススメのパンツでございますね。これからの時期、快適に着用いただけるアイテムをご紹介させていただきます!」
思った以上のスピーディーな対応に驚かされた。「お探しさせていただきますので、15分ほどお時間をいただきます」と、配慮の行き届いたコメントにも好感が持てる。
ジュンのオンラインショップには、このように「専属」のチャットスタッフが顧客の問合せや相談に対応してくれる。購買機能に特化したECサイトが多い中、ECにも専属スタッフを“常駐”させているのだ。「チャットでの接客によって、どの商品同士を比較していたのか、どのポイントで悩んでいたかなど、数字に表れないお客さまのフリクション(摩擦や抵抗、EC業界ではお客が欲しがる情報や状態を得るまでに生じる障壁や負荷を指す)を可視化できるようになった。購買データ以外にこの定性情報を取れるようになったことが非常に大きい」。取締役執行役員の中嶋賢治氏はこう語る。
完全リモート勤務という15名のチャットスタッフは、店舗での接客実績のあるベテラン社員を中心に集められた。チャットのテキストだけで客のニーズや悩みを推測しながら対応できるのは、培われた接客の経験があるからこそだ。それは、直近のアンケートで、チャットスタッフの接客に対して85%が「非常に満足」と回答した結果にも表れる。「私たちが掲げるOMOの理想は『店舗とECでの体験価値をイコールにする』こと。チャットスタッフたちのおかげで、店舗と変わらない体験価値を提供できていると手応えを感じている」(中嶋氏)
自社開発にこだわらず最適なECプラットフォームを採用
新型コロナウイルス禍が本格化する以前から、「これからのアパレルの成長はECが中心になる」と観測していたジュングループ。2019年に佐々木進社長から「ECファースト」の意思表明があり、本格的に新たなOMOシステムの開発に着手した。
プロジェクトを主導した中嶋氏が機能として求めたのは、店舗とECで製品や在庫の情報をタイムリーに同期させること。その基幹システムとして、DtoCブランドに圧倒的な導入実績を持つECプラットフォーム「shopify Plus」(「shopify」の上位プラン)とPOSシステム「shopify POS」を採用した。「自社で一から開発しなくても、shopifyでは多くのソリューションが提供されている。その中から自社に合ったものは採り入れ、合わなければ外せばいい。スピード感を持ってECを成長させられると判断した」(中嶋氏)
店舗とECの在庫一元化に対しては、楽天が提供する「Rakuten Fashion Omni-channel Platform」(RFOP)を採用。自社開発にこだわらず、求める機能に応じて最適な手段を組み合わせ、2年半をかけて店舗とECがシームレスにつながるOMOシステムを構築した。
この在庫一元化の実現によって生まれたのが、在庫の取り寄せサービス「ラクトリ」だ。オンラインショップで売り切れた商品も、チャットスタッフが全国の店舗から在庫を探し、ECで決済後に配送してくれる。逆に、店舗に在庫がないときも、店舗のスタッフが倉庫の在庫を確認し、在庫があれば店舗で決済後に顧客に届けることが可能だ。今期中には倉庫在庫だけでなく他店舗の在庫も一元管理して、客に届ける仕組みが整う。店舗と倉庫の在庫がすべて共有されているので、店舗どうしで在庫を取り合う状況も起こらない。「全国の店舗や倉庫から、目の前のお客さまに最も早く届けられる在庫を選び、出荷すればいい。もちろん、売上は接客したスタッフに立つようになっている」(同)
OMOで拡張する、店舗とショップスタッフの新たな役割
2020年からのコロナ禍、そしてOMOの一連の取り組みによって、ジュングループ全体のEC事業は10年で約4倍に増加。EC化率は35%を超えた。しかし、そのEC事業を長くリードしてきた中嶋氏は「よく誤解されるが、私たちはEC事業だけを伸ばしたいわけではない」と強調する。「本質的な目的は、ECであれ店舗であれ、お客さまが快適に買い物できる環境を提供すること。そのために、お客様とのタッチポイントとしての店舗の役割がますます重要になる」
全国に350以上ある店舗が、顧客とのタッチポイントとしての機能を果たすことで、店舗からECへ、そしてECから店舗へというクロスユースの動きが促進される。店舗にも自社ECにも「売るだけではない」新たな役割が生まれているのだ。
実際にそれを裏付ける現象が、先の2022年のゴールデンウィークにも起こった。人の流れが回復し、ジュングループの各店舗にも客足が戻った。そのぶんECの売上は減少するとみられ、ふたを開けてみると案の定EC売上は微減となったが、逆にECへのアクセスが通常の1.5倍に増えたというのだ。「推測だが、店舗を訪れる前に、お客さまはオンラインショップで情報をチェックするという行動が常態化してきていたのではないか。自社ECサイトの役割が買うだけなく情報を取る場所にもなってきた」(中嶋氏)
こうした「売るだけではない」店舗の新たな役割に合わせて、運営を担うスタッフの役割もまた拡張している。中嶋氏によると、その役割は次の3点だ。
・来店した顧客に満足感のある買い物体験を提供する「接客」
・顧客が求める商品を的確に届ける「物流」
・顧客に対して積極的に情報発信し、来店を動機づける「集客」
その「集客」のアクションの一つとして、オンラインショップ上では、全国のショップスタッフがコーディネートやアイテムを紹介する投稿が並ぶ。自分が気に入ったスタッフを「お気に入り登録」することも可能だ。多くのフォロワーを持つスタッフも珍しくない。「スタッフの役割が拡張することで、従来の『接客』に強みを発揮する者や、SNSへの発信を得意とする者など、社員が多様な能力を発揮できるように職場環境も変わっていくだろう」(同)
仕組みを動かす「人」への投資が次のフェーズ
ShopifyやRFOPの活用による店舗とECのシームレスな融合、EC専属スタッフによるチャットでの接客など、ユニークなOMOを推進するジュングループ。「時間をかけて推進してきた取り組みがようやく実ってきた」と語る中嶋氏が次に見すえるのは、社内におけるOMOの認知・リテラシー向上だ。「OMOの仕組みはできたが、それを実際に動かしていくのは『人』。店舗とECで体験価値をイコールにするためには、すべてのスタッフがOMOの本質的な意味を理解し、システムを使いこなしてもらう必要がある」(中嶋氏)
そのアクションの一つとして、「OMO研究会」という社内プロジェクトも始動した。毎週1回、各店舗の責任者が集まり、在庫の取り寄せ方などOMOシステムの活用方法を共有し合い、リテラシーを高める取り組みだ。
また、2022年8月からはRFOP(Rakuten Fashion Omni-channel Platform)アプリが社内スタッフ用のアプリとしてリリースされる。在庫状況をさらに可視化し共有することで、より店舗とECの境界を取り払っていく方針だ。「機能だけではマーケットは動かない。一人ひとりのスタッフがシステムを使いこなし、お客さまに最適な体験価値を提供することで、私たちのOMOははじめて完成する」(同)
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