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圧倒的に低い原価率が容認される秘密 知られざる外資スーパーブランドのビジネスとは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年6月13日 20時55分

Juanmonino/istock

今回は外資トップメゾンの実態から、われわれ日本のアパレル企業が学ぶこと、をテーマに論じてみたい。そもそもブランドビジネスは、今の日本のアパレルビジネスとは全く違うものなのだが、日本のアパレル企業が世界に出ていき、勝っていくためには不可欠な視点であるので、その実態と要諦を赤裸々に解説したい。

Juanmonino/istock
Juanmonino/istock

スーパーブランドをスーパーブランドたらしめる「秘伝のタレ」

「日本のアパレルは独特ですよね。商品が欠品したら追加で再投入するそうじゃないですか」「そんな仕事をしていたら、いつまでたってもドタバタ騒ぎはやまないですね」

この発言は、某アパレル業界20年というベテランの口から発せられたと聞いて、あなたは奇異に感じないだろうか。多くを日本のアパレル産業について語ってきた私だが、当然ながら、海外のトップメゾンとよばれるスーパーブランドのコンサルティング経験もそれなりにある。実際、私が商社マン時代、常に「日本と海外のアパレルビジネスの進め方の違いはどれほどなのか」を知りたかった。上記発言は、世界を代表するスーパーブランド(トップメゾン)のジャパンカントリーマネージャとのディスカッションで、彼の口からでてきた言葉だった。

商社、それも繊維部門の人間となれば繊維・テキスタイルのことは何でも知っているように感じている方も多いと思うが、意外にも彼らは外資ブランドだけでなく、日本のアパレル・小売企業のオペレーションの違いさえ多くを知らないことが多い。私も、10年の実務経験があるといえ、そのほとんどを日本のアパレル企業のOEMに使ってきたため、世界のトップ・メゾン、スーパーブランドのオペレーションなどに精通するようになったのは、経営コンサルタントに転身してからだった。

なお私は、職業柄「二次情報」は全く信じていないし、ましてやメディアや素人調査をやって、「知ったように」書いている論考なども信じていない。私はある時期、世界コングロマリットのコンサルティングを数年にわたりやった経験がある。したがって今回お伝えする内容は、すべて一次情報である。

スーパーブランドの裏舞台は固い守秘に守られ、リージョンごとの自由度はほとんどないに等しい。実際、ある著名な日本のトップがグループを退社したのは、この「自由度がないから、ビジネスとしてのダイナミズムを感じられないからだ」といっていたことを思い出す。しかし、その裏には日本人が想像もつかないような「秘伝のタレ」が存在していた。今日は、可能な限りそのことについて語りたい。


検品1つとっても大違い!外資メゾンがみる意外なポイント

外資トップメゾンと日本では、あらゆる部分が異なっている。例えば、今では98%以上が海外生産となっているアパレル製品だが、その検品方法は全く違っていた。私は、外資のメゾンが行う最終検品に立ち会ったことがあるが、彼らはマネキンに完成品を着せ、「格好よいか否か」で最終ジャッジをする。もし、イメージと異なる場合、はじめてメジャーをだして、例えば「身幅を3cmつめましょう」など、修正をくわえてゆく。これに対し、日本のデザイナーと海外の工場に出張にゆくと、必ず彼ら、彼女たちは「メジャー」を出し、「首回り」から、「身丈」、「裄丈」など決められた順番に置き寸で図りにゆく。最後に、確認でマネキンに着せて終了だ。 

「一長一短」ではないかという人もいるかもしれないが、そうだろうか。日本のアパレルのデザイナーは「売れそうか否か」でなく、発注したスペック通りかどうか、数ミリ単位でケチをつけてくる。例えば、ニットのような素材特性や編み方によって全くサイズがかわるような商品にミリ単位の制御は不可能だ。ここにはあうんの呼吸があって、検品工場は商品に蒸気を当てて伸ばしたり引っ張ったりして先上げ検品(全量検品をすることが時間的に不可能なので、抜き打ち検品をする)だけをジャストサイズにする。そんな茶番劇が繰り広げられている。 

売れないときの責任転嫁がしたいからか。あるいは本当に、世にでてもいない商品が(机上の)採寸通りに商品が上がれば 、なぜ売れると心から信じられるのか。彼ら、彼女らの仕事は「サラリーマン仕事」にしか見えず、外資のやり方(全体の雰囲気をみて、採寸通りでなくても格好良ければ、それで押し通す)ほうが理にかなっているように思えた。

トレンドを押さえる、追いつく ではない
トップメゾンが取る戦略とは

AS-photo/istock
外資トップメゾンは流行を自ら作り出す(写真はイメージ、AS-photo/istock)

さらに、決定的なのはトレンドへの対応である。

当時から、トレンドに関する議論はあちこちでなされていたが、大きく流派は二つに分かれていたように思う。「トレンドの先端はパリ、ミラノ、ニューヨークの三大都市であり、そこで紹介されるトレンドの大元を押さえることが、ファッション・ボラティリティ(不確実性)を予想する最善解だ」とばかりに、シーズンになれば徒党を組み、欧州や米国に出張に行く。もう一つは、「ファッションなど変数が多すぎるため予測は困難。ならば、ヒットがわかった段階で、思い切りスピードを上げて生産し商品在庫を十分に積めば良い」という考え方だ。いうまでもなく、後者がQR(クイックレスポンス)に進化し、メジャーになっていった。なぜなら、コレクション(2年前のものになる)はあまりにアブストラクト(抽象的)で、具体的な商品に落とすにはあまりにコンセプチュアルだからだ。

一見この二つは、MECE (漏れなく、ダブりなく)であるように見える。しかし、欧米のトップメゾンは違う。彼らは、第三の道を選択しているのである。それは、「ファッションを予想しようとするから迷宮入りする。ならば、格好良いものをこちらから作り、トレンドを牽引してしまえば良いではないか」という考えだ。
つまりクリエーションという作業、つまり01にする作業は、トップメゾンのみが行っているわけだ。あとは、11.5にするとか、いずれにおいてもデータベース・ドリブンによる科学的分析手法が世界の大多数を占める。

 

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伊勢丹と丸井の対照的な戦略の違い

ここで一旦横道にそれて、日本を代表する2つの企業の話をしたい。

今から10年以上も前、私は伊勢丹と同時に丸井の仕事もしていたことがある。
伊勢丹は「自分たちは消費者の半歩先をゆく」というところに異常なこだわりをもっており、逆に、丸井は「お客さまは神様です」とばかりに、徹底して「お客さまの負」を潰していった。この2社は、厳密にはビジネスモデルは違うのだが、極めて対比的で興味深かった。当時、丸井はスーパー・ドリームチームを経営直下に組成し、日本で初めて(世界で初めてかも知れない)今でいうコンフォートシューズの先駆けともいえる「らくちんキレイパンプス」を生み出した。この商品は、丸井のファッションでもなければ機能品でもないポジションに合致し、また、女子大生の就活ブランドとして売れに売れた。私は、この商品を開発するためだけに、一週間女性モノのパンプスを履いて生活し、「女子たるもの、かくも足が痛くても我慢していたのか、むしろこれを解決すれば圧倒的な差別化が手に入る」とブルーオーシャンを見いだした。

一方、伊勢丹との仕事から、悪名高い百貨店の委託消化取引について、私は考え方を大いに変えることになった。伊勢丹に入り込めば入り込むほど、この「返品できる」という安心感が、どれだけ同社の商品在庫に対する恐怖からバイヤーを解放するのかがわかった。その結果バイヤーは「お客さま本位」で考え、行動に移すことができたのである。すべての現象には原因がある、ということだ。

すべてを類型化するのはよいことではないが、多少強引でもアパレル・ビジネスを類型化したくなるのがコンサルタントである。私は、初期的に本質的に差別性のないこのビジネスで頭一つ抜けでるためには、以下のビジネスモデルをスタートポイントにしている。これは、今後10年の戦い方の初期仮説である。もちろん、企業は個別企業ごとにすべて戦略はバラバラで、テーラーメイドはないが類型化された初期仮説は存在する。

  1. 工場は自らブランドを持つD2Cになる
  2. 商社は金融とデジタルクラウドハブとなるSMEs (中小企業)のハブ機能となり、投資を組み合わせる
  3. アパレルや小売は、大企業はバリューチェーン全体の垂直統合による大規模なコスト優位性を、中小企業および個人でさえ 2. に組み込まれ、共通化領域を同じくすることでスケールメリットと特徴を両立することができる

前置きが長くなったが、以降、本国コントロールによる日本やアジアのカントリーリージョンの業務内容について、日本との違いを解説したい。

「うちの倉庫の在庫簿価は某都銀の資産より多い」

さて、外資と日本企業のサプライチェーンの違いを理解していたとはいえ、度肝を抜かれることがあった。もっぱら、ものづくりから店頭配分までを商社に委託している(いた)日本のアパレル企業だったが、財閥系商社以外の商社が自社物流(例えば、三井物産なら商船三井など)をもっていることは珍しかった。その多く、いや、ほとんどが第三者物流だったが、その某メゾン(を日本で展開する会社)は都内の一等地に倉庫を持っていた。私は普通に「なぜ、このような賃料が高い場所に倉庫を持つのか」と社員に聞いたことがあったのだが、その時、彼は、「河合さん、我々の在庫簿価総額は都銀の資産以上もある。そんな在庫を第三者に任せられない」と。なるほど、最もな理屈だ。

また、驚愕すべきは、当時(今から10年以上も前)ここまでデジタル化が進んでいない状況下でも、実棚で違いがあったのは一つの商品のみ。その商品も、最後は見つけることができた」という事実だ。「本来は外部の人間は誰も入れないのですが」と前置き、私は倉庫の奥の奥まで入ったことがあるが、ここでは書けないほど圧巻な景色がそこにあった。商品一つが数億円などというのは当たり前の世界。自分がいかに荒っぽい仕事をしていたかを思い知らされてものだ。

おもしろいのは、アパレルなどのシーズン性が高い商品についてである。日本企業であれば、企業のルールによってライトオフまでの期間は商品によってまちまちだ。この点私は、この商品別価値の残存期間とライトオフルールを厳密にシンクロナイズし、ここにしっかりとした資金調達戦略を掛け合わせれば、企業は山のように収益がでると説いてきた。今でも、その考え方には変わりはない。

 

売れるだけ売れ!
残れば運賃着払いで本国に返品すればOK

Neyya/istock
Neyya/istock

ところが外資トップメゾンは違う。トップメゾンのリージョンがやっているのは、大きく4つに大別される。

  1. 過去の趨勢から見たマーチャンダイジング(MD売上予想
  2. 調達物流とShip back (返品)
  3. 出店、店舗販売員教育
  4. デジタル

 である。例えば、MDという業務があるが、リージョンごとに複数のブランドのまとめ役として、必要なMDと売上計画を各リージョンに設置されたホールディングスがまとめてゆく。ホールディングスは、それをグローバルに送るのだが、グローバルは、これを「参考程度」にしか扱わず、最後は「これだけ売れ」と、トップダウンでShip out (本国からリージョンへ出荷すること)をするわけだ。当然、各リージョンは与えられた商品を消化すべく様々な販売計画を立てるも、在庫が残るときは残るものだ。驚くべきは、こうして残った余剰在庫は Freight collect (飛行機運賃着払い、リージョンへの輸入時に支払った税金による簿価分も含め)、本国が「売り戻し処理」を行ってくれ、リージョンには損失在庫による利益の減少は全く無いわけだ。

したがって、各リージョンのCEO(グループCEOは別かもしれないが)に利益責任がないのである。その企業は、輸入為替も円建てで行っており、「円安だったから」などという言い訳も一切通用しない。

“馬”のマークさえ付ければ競合品の倍の値段で売れる!
その仕組みづくりが本社の仕事

なお、意外に収益貢献をしている事業はお客さまへのアフターフォローである。時計や鞄であれば純正品によるパーツ交換などだ。ここも、国としてマイスター(職人)を尊敬する文化が欧州にあるため、定期的に欧州から技術者が日本を訪れパーツ交換や修理などの技術を教え込む。

平たくいえば、「私(本社)、考える人、あなた(リージョン)、売る人」と分業化が明確化されており、それぞれの組織にミスも少ないし、時間もスローペースで流れているように思う。

ここでわかりやすくするために、一例としてラルフローレンを想像してみて欲しい。もちろん、これは分かりやすさを優先したからであり、完全なフィクションであることは最初にお断りしたい。

各リージョンの商品が多少本国とデザイン上のブレがあっても、「馬のマーク」を左胸に刺繍で織り込んでおけば、世界でプレミアム価格で売れる仕組み作るのである。これこそが本社の仕事の本質だといえる。

これからは質の時代は意味不明なロジック

規模が大きくなれば、(LVMHの営業利益総額はトヨタを抜いた)、グループ内では小さくても、グローバル・ガリバーに勝つことが可能だ。例えば、ブランディングに無知な日本の人と話すると、「ブランド」というものが金で買えると本気で信じている人が多い。しかし、考えてみれば分かるが、ある人が生涯をかけて築いてきた「人との信頼」をブランドだとするなら、そのブランドを確かなものにするためには、やはり「時間」が必要だ。金を積めば「信頼」が買えると考えていることこそが勉強不足なのだ。

私は今から7年ほど前に、これからの企業買収は、垂直統合、水平統合に第三の軸、「ブランド統合」が生まれると日経ビジネスで予言した。トップメゾンは、例えば、イタリアの片田舎の小さい王室御用達企業があったとしても、M&Aにより巨大なコングロマリットにいれ、極めて戦略的かつ優先的に資金をその小さなブランドに配分、例えば「VOGUE」などの一流雑誌のトップページに定期的に掲載することも可能だ。

今、マーケティング戦略といえば、まず広告費を投下し一人あたりのレスポンスレートをだし、客単価 x 離脱までの期間で、回収する形になっている。

だが、ブランドビジネスというのは、ある一定量の大量資金を固定費であるかのごとく、(ブランドになるまで)出し続ける。いわば「原価のような振る舞い」をする。そこにはROAS(投下広告に対するリターン)という概念はないのだ。

ここがわかっていないから、ブランドを持つものはますます強くなるし、持たざるものは人に知られもせずに消える可能性もある。

トップメゾンが絶対に明かさない売上高原価率

さて、このように何年もロジスティクス(物流 x 倉庫)、基幹システムのグローバル展開、店舗教育などをやり、ストレステスト(仮に、計画通りに売上が進んだ場合、バリューチェーン上のどこにボトルネックが顕在化するのか、また、その解決案は何か)をひたすらやってきた私にとって、ブランドビジネスは単純であるといえば単純ではあった。だが、それだけに非常に“Well organized”されているため、経営コンサルタントの役割は「足りない手を貸すこと」になる。そのためこうした仕事は、コンサルファームの中では、あまり人気はなかったようだ。

しかし、オペレーション競争も限界に来ている今、私たちは来るべき「世界化」に向け、そして、「ブランド拡張戦略」による付加価値向上をしてゆくため、参考になる話は山のようにあるはずだ。なおトップメゾンにとって、売上高原価率はトップシークレットとなっており、外部には絶対に明かされない。圧倒的に低い原価率であることは確かだが、そのことに対して、誰も文句を言わないことが、そのブランドの強さを物語っているのである。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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