J.フロント リテイリングがマンション開発!住宅事業は百貨店の新たな経営の柱となるか
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年7月13日 20時55分
百貨店業界において、非商業部門のポートフォリオ拡大による経営安定化の一環として不動産事業に注力する動きがみられる。オフィスビルやコワーキングスペースなどの開発はその一例だ。その中で、大手百貨店グループでいち早く住宅開発に乗り出したのがJ.フロント リテイリング(東京都/好本達也社長)だ。現在、名古屋、横浜など大都市圏で、保有不動産を活用した3件のマンション開発プロジェクトが進行している。同グループにとってはまったくの未知といえる住宅事業。どのようにノウハウを獲得し、住宅開発や管理運営を手がけようとしているのか? 本業とのシナジーはあるのだろうか? 「百貨店発・住宅事業」の最前線を追った。
名古屋・横浜・京都で進む住宅開発
名古屋市中区千代田。中心街・栄に地下鉄で約6分という好アクセスの地区で、大規模賃貸マンションの開発プロジェクトが進行している。プロジェクトを主導するのはJ.フロント リテイリンググループのパルコ(東京都/牧山浩三社長)。1Kから3LDKまで豊富なバリエーションを揃えた205戸のマンションは、2023年9月の入居開始を予定している。
この名古屋市の物件に加え、同グループでは横浜市中区でも賃貸マンションの開発プロジェクトが進行中だ。関内駅から徒歩圏内のエリアで、横浜みなとみらい地区に通勤する若年層の単身者やDINKS (共働きで子供のいない夫婦)の入居を見込む。さらに、京都エリアでもアッパークラスを想定した分譲マンションを計画中だ。
「初めから住宅事業に乗り出そう、と決めていたわけではない。保有不動産の価値を最大化できる用途を検討した結果、商業よりも住宅のほうが周辺エリアのニーズに合致し、周辺のまちづくりにも寄与できると判断した」。J.フロントリテイリング 執行役経営戦略統括部CRE企画部長を兼務するパルコ不動産戦略グループ担当執行役員の平井裕二氏は、住宅事業に参入した理由をこう語る。
SC開発ノウハウを持つパルコに不動産事業を一元化
名古屋のマンション建設予定地は、もともとJ.フロント リテイリンググループのJ.フロント建装が保有する土地だった。横浜市のマンションもかつて横浜松坂屋の事務所があった土地で、コインパーキングなどに暫定利用していた。
同グループが、これらの保有不動産を活用した住宅事業へと大きく舵を切ったきっかけは、2020年9月。グループの不動産事業をパルコに一元化し、保有不動産を同社に移管した。2021年に発表した同グループの中期経営計画では、デベロッパー戦略を重点戦略の一つに位置づけた。「パルコには、ショッピングセンター(SC)の開発・管理運営の実績とノウハウがある。そこにグループの保有不動産を集約することで不動産の価値最大化を図るねらいがある」(平井氏)
パルコ内の不動産戦略グループは、アセットソリューション部、開発部、建築部と、業務ごとに3部門に再編し、不動産事業の強化に向け体制を整えた。
近接する商業施設とのシナジーも模索
とはいえ、百貨店を中心とした小売業のJ.フロント リテイリンググループには、商業開発のノウハウはあっても住宅事業は未知の領域。そこで、3拠点それぞれについて不動産ディベロッパーを事業パートナーに迎え、共同で開発プロジェクトを進める座組をとっている。しかし、「すべてデベロッパーに任せているわけではない。私たちは小売業の目線でプロジェクトを企画し、提案を行っている」と平井氏は強調する。
名古屋のマンションには、居住者どうしやゲストと交流できるラウンジや、コワーキングスペースを設ける。これらは同グループの提案を反映したものだ。また、共用スペースの内装は、パルコのデザインチームが監修し、空間づくりのプロフェッショナルの手によって、ホスピタリティのある内装の設計が行われている。「当社には、百貨店やSC事業を通じて長年培ってきたホスピタリティや接客、空間づくりのノウハウがある。それらは住宅事業においても活かせるものと考えている」(平井氏)
また、本業とのシナジーによって、マンションに付加価値を生みだそうとしている。名古屋エリアには「松坂屋名古屋店」や「名古屋パルコ」、横浜エリアにはショッピングモール「カトレヤプラザ伊勢佐木」と、それぞれのプロジェクトには同グループが運営する商業施設が近接する。それらの商業施設を利用する際の入居者への特典や、デリバリーサービスなども検討しているという。
百貨店業界で進むポートフォリオの非商業化
「全国百貨店売上高概況」(日本百貨店協会)によると、全国の百貨店の2022年4月単月の総売上高は3,778億円。前年同月(3,178億円)に比べて19%増と、新型コロナウイルス禍による打撃から徐々に回復の兆しがみられる。しかし、コロナ禍が本格化する以前の2019年4月(4,488億円)と同程度への回復にはまだ時間がかかりそうだ。
このように主要事業の屋台骨が軋み続ける中で、J.フロント リテイリンググループの他にも、大手百貨店グループが不動産事業を強化し、非商業部門のポートフォリオ拡大によって経営安定化を図る動きが目立っている。高島屋グループの東神開発は、東京・日本橋のオフィスビル開発や、目黒区のマンションを取得するなどオフィス・住宅事業へのシフトを高めている。三越伊勢丹ホールディングスも、2022-2024年度の中期経営計画において、保有不動産の再開発によるまちづくりを事業戦略の一つに位置づけた。
その中にあって、J.フロント リテイリンググループの取り組みは、百貨店が一から住宅開発を手がける稀有な事例といえる。「開発を構想しているエリアはまだある。まずは進行中のプロジェクトでしっかり成果を挙げていきたい」と、平井氏は力を込める。「百貨店発・住宅事業」の試金石として注目したい。
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