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歯止めがかからない!円安による原料高に対応する3つの方法

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年6月27日 20時55分

News headlines that say "soaring" in Japanese

円安に歯止めがかからない。過去を振り返れば、円安も円高もアップダウンがあり、その時々に応じてアパレル企業と商社が様々な手を使って乗り切ってきたことは、幾多の連載で書いたとおりだ。しかし、今回の円安は構造的なもので、日本の国力の弱さが背景にあるため何か不測の事態が起きない限り、この円安傾向は止まらないと思われる。今回はこの円安による原料高にいかに対応するかについて解説したい。

y-studio/istock
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生活防衛と資源高でますますファッション衣料は売れなくなる

日本は資源のない国のため、「海外から材料を輸入、日本で加工して輸出する」ことを国策として成長してきた。

特に、アパレル業界は、98%がオフショア生産で、金額ベースでも約80%が海外生産だ。この半年で、1ドル120円から135円まで円の価値は下がり、逆に言えば輸入品の価格は高騰したことになる。

一方、日本人の給与はこの30年、まったく上がっていない。これは報道されていないが、私の周りにも「リストラ」や「減給」にあった人間が山のようにいる。そうなれば、政府がうってきた補助金施策も結局は貯蓄に回り、国民は「生活防衛」に力を入れることになる。結果、ファッション衣料など買っている場合ではない、ということになる。新型コロナウイルスの猛威も落ち着いてきたが、消費者は「服はユニクロでいい」「できるだけお金は貯めておきたい」と考え、ますます服が売れなくなっているわけだ。さて、今日は、こうした経営環境の中、いかにアパレル企業は高騰する海外生産を吸収し、利益に変えるかという点に関して、私の視点を論じたい。

石器時代のマーチャンダイジングを今すぐ辞めよ

衣料品のマーチャンダイジングのセオリーは、初期的には少なく商材を店頭に出し、売れ筋の初速を見ながら追加生産を行って、作りすぎたものは素早く換金するというものだった。これをクイックレスポンス(QR)という。しかし、もはや、このやり方は通用しない。世界で間違ったQRをやり自滅しているのは日本だけだという話は過去幾度もやってきた。

理由は簡単だ。消費者側の視点に立てば直ぐ分かるが、もはや消費者は「定価で服を買わない」からだ。消費者は、「もうすぐ待てばセールになる」と考える。実際、今日時点(6月24日)で、すでに夏物のセールの案内が山のように私をはじめ消費者のもとに来ているのだ。これからが、夏本番なのに、今からセールである。安売りの先には、破滅しかないのはこんなところからでもわかる。したがって、上記に上げたセオリーは、ブランド毀損をおこす。アパレル企業の利益計画は、消化率という大きく動く変数を前提に置かねば、算出できなくなっているのだ。

話はそれだけではない。さらに消費者目線でものごとを見れば、消費者の洋服ダンスの中は服で溢れかえっており、昨今、服を捨てることが「罪」であるという意識が高まっているため、結果的に買い替え需要も長期化し、安価なベーシック衣料、つまりユニクロやワークマンが、ますます売れてくるわけだ。このように、「売れる、売れない」には、明確な理由があり、売れない理由や、在庫が溜まる理由の因果関係を解きほぐさなければ、毎年同じをことを繰り返すことになる。「神頼み」は通用しないのだ。

原価高を克服する方法

djedzura/istock
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このように、止まらぬ原材料の高騰と円安による輸入の高値買いがダブルショックとなり、すでにコスト削減は限界まできており、これ以上コストを引き下げることは、商品品質がますます悪化し、競争力を削ぐ段階にまできているアパレルのビジネスモデルを構造的に理解していない人は、原材料が上がれば売価が上がると考えているようだが、それは間違いだ。ましてや、近視眼的に原価ばかりみていると、販管費の「家賃」がすでに赤字の温床になっていることも気付かなくなるわけだ。

アパレルが、「仕入れすぎ」を辞め、そもそも「売れる力」を超える量の商品を持たないこと。そして、仕入れた商品は、可能な限り定価で販売すれば、理論上、原価高の30%を吸収することが可能なのだ。解説しよう。

アパレルは、企画段階で「企画原価率」というものを設定する。これは、上代が正規価格で売れた場合の原価率であり、いわゆる損益計算書の原価ではない。この企画原価率を仕入れた商品すべてが売ることができれば、企画原価率の逆数が粗利率になるため、百貨店向けアパレルの粗利は80%を超え、ショッピングセンター向けアパレルの粗利も70%台となる。しかし、これに値引きと(上場企業であれば)余剰在庫のライトオフ(損金処理、あるいは、評価減)が加わり、損益計算書の原価は上がるのだ。逆に言えば、値引きをせず、そして、仕入れた商品を売り切ることができれば、あるいは、ライトオフ対象にしなければ、アパレルの原価高を吸収する貯金は20%から30%もあるのだ。つまり、MDの考え方を全く変える必要があるわけだ。以下、私の提言を記載しよう。

 方法1 商社としっかり取り組み資金の滞留期間を短くする
(キャッシュコンバージョンサイクルを短くする)

今、売れに売れているアパレルの消化率はプロパーで80%を超えている。しかし、多くのアパレルは、頑張っても50%程度だ。ただ、残りの50%の商品価値は、本当にワンシーズンなのか考えてもらいたい。実際、アパレルのMDの中で売れている商品はベーシック衣料に近しいものだろう。アパレル企業の方は、「奥」(在庫) と、品数を混同せず、冷静に分析して頂きたい。

ならば、本当に、それらのライトオフの期間は「ワンシーズン」なのか、3年なのか5年なのかよく見るべきだ。自動的に「ワンシーズン商材はゼロ評価」というのは、古い発想だ。アイテム毎に評価期間を細かく変え、例えば、デニムやブラウス、アンダーウエアのようなものは数年持つべきだし、バッグやアクセサリであれば5年以上は持つべきで、新規仕入は可能な限り少なくしFIFO (First in-first out 先入れ先出し)のルールで販売する商品群を定義する。また、それらの滞留期間の資金は商社に持ってもらい、商社ファイナンスを使うことをお勧めし、支払う口銭に金利を組み込む。直貿で途上国でファイナンスをやるなど、金利差を考えれば正気の沙汰ではない。

原価高を克服する方法はあと2つある。

 

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方法2 中期的にはブランド力を強化する

indigo making studio/istock
indigo making studio/istock

 今回の円安は、構造的なもので、もはや日本でビジネスをやってゆく以上、状況が好転することはないと考えるべきだ。しかし、企業のBS(バランスシート)の現金と棚卸資産を見ると、すべて、3倍の価格で売らねば、あきらかに販管費を賄うだけの現金は不足している。つまり、店じまいすれば、運転資金を毀損する。新型コロナウイルスは、まさに、この「自転車操業」に直撃したわけだ。人が外にでなくなったからではない。だから、換金率をKPIにせざるを得ず、また、交差比率のようなKPI(重要業績評価指標)でキャッシュを増やそうとするわけだ。その考え方をあらため、ブランド維持のために、ある程度の資金をファイナンスし、値引きせず、数シーズン耐えうるようなブランド化を果たすべき現金を持つべきだと私は思う。例えば今は、憧れのメゾンブランド(どことは言わない)でさえ、タイムセールに山のように掲載されているが、本当の定番商品やブランド毀損する恐れのあるような商品はタイムセールにもアウトレットにも出てこない

わかりやすく言えば、LOUIS VUITTONは決して(日本では)セールをやらないということなのだ。だから、みな憧れるし定価で買う。ブランド化には「辛抱」が必要なのだ。

方法3 仕入を半分にし、プロパー消化率を上げる

投入量とプロパー消化率が逆相関することは、実務をやっている人なら直ぐに分かるはずだ。簡単に言えば、売る力以上に大量に仕入れればプロパー消化率は下がるし、逆に欠品がでるぐらい仕入の量を減らせばプロパー消化率は上がる。単純な理屈である。しかし、これは縮小均衡の戦略である。ブランド別の会計では収益率は上がるものの、会社全体で言えば、固定費をまかなうだけの売上がなくなり、リストラを繰り返すことになる。今のアパレルはこの状態になっている。

こうしたとき、よくある間違いは、衣料品の新ブランドを立ち上げることだ。消費者から見れば、目新しいブランドに一定の消費が発生するが、そもそも作っている会社が同じなのだから、数シーズンもすればリストラ前の状況に戻ってしまうわけだ。こうした、縮小均衡施策を避ける方法は、経営学的にいえば、「商材を変える」か「販売エリアを変える」かのいずれかしかないつまり、衣料品以外のビジネスをやるか、日本以外の市場にでてゆくことである。これは、論理的にそうなのだ。

さて、原価が上がれば、売価を上げる、というのは、原価率が常に一定であることが前提である発想だ。私は、その「率」を変える案を提言したい。よく考えてもらいたい。世の中は服で溢れてかえっている。また、圧倒的な競争優位を持つアパレルは限られている。ならば、ここでマーチャンダイジングモデルを根本的に変え、「率」を変化させることで、コスト高を吸収するというのが、私の提案だ。一つの考え方として参考にしていただきたい。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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