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脱駅弁依存、冷凍、店舗戦略…コロナ禍の変化に対応する崎陽軒4代目新社長の挑戦

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年8月10日 20時55分

姫路の駅弁メーカー、まねき食品と崎陽軒のコラボ商品「関西シウマイ弁当」

今年で創業114年目を迎えた崎陽軒(横浜市)は5月、社長が31年ぶりに交代した。野並晃氏が専務から昇格し、前社長で晃氏の父・直文氏が会長に就任した。新橋―横浜に鉄道が開業して150周年の節目に、横浜の名物駅弁「シウマイ弁当」の会社トップが交代したのである。横浜を代表する「ご当地メニュー」もコロナ禍に直面している。生活様式や鉄道利用のあり方が激変する中、創意工夫でピンチをチャンスに変えてきた同社創業以来のDNAを受け継ぐ40歳の新社長は、「真のローカルブランド」を追い求め、新たな一歩を踏み出す。

シウマイで新幹線延伸の福井県を元気に

 7月19日、崎陽軒は福井県と県の魅力発信や認知度アップに関する相互協力協定を締結した。崎陽軒といえば近年、さまざまな企業や団体とコラボ企画を行うことでも知られているが、都道府県との協力協定は初の取り組みだ。県産食材を使った弁当の販売やワークショップを通じ、福井の地元飲食事業者による“ご当地シウマイ”の開発を支えていく。2024年に北陸新幹線が福井・敦賀まで延伸する福井県にとって、県のPRと観光資源の開発は急務だ。当然、崎陽軒側には、福井県民を横浜に誘客し、観光やグルメを楽しんでほしいという思いがある。来年度の福井・敦賀開業に際しては、首都圏での福井県産食材を盛り込んだ弁当、福井の事業者が開発した「ふくいシウマイ」を観光資源化するなど、それぞれが保有するリソースを交流させ発展させるプロジェクトだ。

コロナ禍の真っ只中での船出

 1923(大正12)年5月、匿名組合から合名会社に法人化し初代社長に就いた野並茂吉氏は、発足まもなく関東大震災に見舞われながらも横浜名物としてシウマイを世に送り出した。2代目豊氏は戦後の復興から東海道新幹線開業の激動期を真空パックシウマイの開発で、今につながる崎陽軒ブランドのフレームを確立した。3代目直文氏は新メニューや本店レストランを磨き上げ、多様化、高級化する国民の食に対するニーズに対応してきたほか、製造ラインを間近に見ることができる工場見学ツアーを始めるなど、美味しく食べる以外にもシウマイにはコンテンツとしての可能性があることを示した。

崎陽軒4代目社長の野並晃氏
崎陽軒4代目社長の野並晃氏

 そして4代目に野並晃氏が就任した。慶應義塾大学、キリンビールを経て2007年に入社した。野並氏はコロナ禍の影響を次のように分析する。

 「2020年からのコロナ禍の影響で、弁当はようやくコロナ前の水準を超えてきたが、土産物のシウマイなどは観光客が戻りきっておらず、コロナ禍前の8割ほどの水準。レストラン事業も回復には厳しい状況にある」

 また、原材料の高騰も予断を許さない。

 「原材料費はもろもろ上がっているが、現状は価格をなんとか維持していける状況。今後、価格が安定している材料まで上がってくると値上げせざるを得ない状況になるかもしれない。ただしこれまでも値上げをしたまま据え置きにするのではなく値下げしたこともあり、適正に対応していく」

出店、販売形態を臨機応変に対応

 他の観光、飲食業界と同様、逆風にさらされている崎陽軒だが、これまでも鉄道の発達とともにヒットが約束されていたわけではなく、社会の進歩に取り残されまいと改良に改良を重ね、ブランドを守ってきた歴史がある。

 「お客さまの変化に伴って、提供している商品やサービスも変化していくべきだろうと考えている。いま崎陽軒ができていること、できていないことも冷静に見極めることが大事だ。伝統を守りつつ、会社として必要なものを取り入れ、新しい取り組みにも積極的にチャレンジしていきたい」

商店街の路面店への出店となる竹ノ塚店
コロナ禍で人の流れが変わる中、お客がアクセスしやすい立地としてロードサイドの比重が大きくなった

 コロナ禍は人の流れを一変させた。野並晃氏が社長に就任する前から起きている現象に対し、崎陽軒は商品開発も出店戦略も柔軟に対応している。「巣篭もり需要」に対応する商品として「おうちで駅弁シリーズ」や「おうちでジャンボシウマイ mini」、各種シウマイ・点心類の冷凍便をインターネット経由で購入できるよう、4月にECサイトを拡充リニューアルした。電車や新幹線に乗る人が減ったとしても、冷凍の状態で提供できれば、消費者の自宅にまで駅弁をリーチすることができる。新作を待つファンがいれば商品のシリーズ化が持続する。ECサイトのリニューアルでは、購入額100円ごとに「シウマイル」が付与され、ブロンズからシルバー、ゴールド、2000シウマイルで「マスター」に昇格するというインターネット会員限定の制度も導入した。

 ちなみに、「ジャンボシウマイ」は従来、崎陽軒本店での結婚披露宴で提供されてきたサプライズとお祝いを兼ね備えたメニューで、新郎新婦がケーキ入刀のように巨大シウマイをカットすると中から一口サイズのシウマイがあふれ出るというもの(外側のジャンボシウマイも食べられる)。家庭で、いつもと違った食卓を囲みたいというニーズに対し、ジャンボシウマイを小型化し「昔ながらのシウマイ」22個が現れるように改良した、シウマイ愛と遊び心に満ちたメニューだ。

「おうちで駅弁」を冷凍で、「お客さまの生活圏」で

 実店舗の出店戦略は、不確実な現状を踏まえるとカチッと決められないのが実情のようだ。それでも外出自粛で遠くまで足を運べない消費者に寄り添うように、大勢が行き交うターミナル駅近接の商業施設から「ロードサイト」へとシフトしたことが出店状況からうかがえる。ただし、ロードサイドといっても大型量販店のように幹線道路沿いに出店するのではなく、住宅地から徒歩・自転車で通える商店街の通り沿いの路面店というイメージが実態に近い。半年あまりの間に東京都内で開店したのは浜田山、亀有駅南口、竹ノ塚である。消費者が手を伸ばせば届くエリアに崎陽軒の方から入っていった格好だ。自宅の近くであれば、常温商品に限らず要冷蔵の商品や冷凍の「おうちで駅弁シリーズ」を気兼ねなく買って帰ることができる。

 「もともと崎陽軒をご存じで、多く利用されるお客さまの動きの変化に合わせた結果、このような出店傾向となった。だからといって人の動きが不確定であるため、ターミナル駅から生活圏内のロードサイド一辺倒にしていくわけではない。臨機応変に対応することになるが、販売の軸は実店舗という考えは変わっていない」

「人が動かないなら情報を動かす」 SNSを開始

 野並氏の社長就任直後、崎陽軒は公式twitterを開設した。SNSを使った情報発信は意外にもこれまで行われてこなかった。その必要がなかったからだ。

 「従来は大勢が移動し、人が集う場所に出店しておけば崎陽軒の商品に触れていただけた。しかし、コロナ禍によってお客さまの移動自体が制約を受け、接点の機会が失われてしまった。twitterは情報発信によりお客さまのタッチポイントをつくるツールとして、いまの状況を補う手段の一つになる。人の動きがなかなか望めない今は情報を動かしていく。状況を見極めながら、ほかの発信手段も検討する」

崎陽軒創業100周年の際の一コマ(左から4代目晃氏、2代目豊氏、3代目直文氏)
2008年の創業100周年の際に撮影された2代目豊氏(中央)、3代目直文氏(右)と4代目晃氏の3ショット

コラボ企画続々と

 企業・団体やイベント等とのコラボ商品や企画はSNSを始める前から旺盛に取り組んでいる。姫路駅などで駅弁を販売するまねき食品(兵庫県)との「関西シウマイ弁当」、ジェイアール東海ホテルズとは「崎陽軒×️東海道新幹線 のぞみ30周年記念コラボレーションルーム」、横浜市歴史博物館とは「品川駅仮開業150年記念弁当」と枚挙に暇がない。前出のとおり新幹線延伸に伴う福井県とのコラボメニューの展開も控えている。

 「これまで崎陽軒を知らなかったり、シウマイやお弁当を食べたことがないお客さまに知っていただくきっかけになってくれれば新しい層の開拓にもつながる。崎陽軒ブランドが、コラボのお相手に『面白い』と思っていただけることは、我々にとっての存在価値の一つの指標にもなる。こういった取り組みは継続していきたい」

 こうしたコラボ企画はどちらから話が持ち上がるのか。「崎陽軒から持ちかけることも、先方から持ちかけられることもあるが、どちらかの片思いだけでは成り立たない。コラボありきの関係ではなく、これまでの関係性があった上で成立していることが多い」という。

姫路の駅弁会社とのコラボ商品「関西シウマイ弁当」
姫路の駅弁メーカー、まねき食品とのコラボ商品「関西シウマイ弁当」

4代目のブランドづくり 

 名物といえるものがなかった時代の横浜で生まれたシウマイ。戦後、激動の時代を生き延びてきたシウマイ弁当。野並氏は父・直文氏から「新幹線が速くなるほど駅弁の売上は落ちるという」とかねがね聞かされてきたという。乗車時間が短くなれば駅弁を車内で食べる時間も必然的に短くなる。シウマイ弁当にとって新幹線の開業など鉄道の高速化は、乗客の腹ごしらえだけを商機と捉えていては売上の目減りが確定する恒常的な課題ともいえる。鉄道の高速化とともに歩んだからこそ歴代経営者は、弁当の味はもちろん、包装やしょう油入れのデザインなど細部にいたるまで改良を重ねてきた。

 会長に就任した直文氏は創業100周年に際し「ナショナルブランドをめざしません、真に優れた“ローカルブランド”をめざします」と経営理念を掲げた。

 その薫陶を受けた野並晃氏が4代目に就任した。

 いま、コロナ禍の時代にありながら、要冷蔵・冷凍商品を居ながらにして注文できるECサイトや「ロードサイド」主体の出店を通じて提供し、「崎陽軒ブランド」を着実に消費者に届けるルートを構築している。一方で、ブランドに愛着が湧くような商品や企画、味覚以外の付加価値を備えたソフトづくりとともに、情報発信を通じてお客との接点づくりを拡充させている。

 「常に変化に柔軟に対応することができる企業であり続けたい。会長は『変えるべきものと変えてはいけないものがある』と言っている。変えてはいけないものほど変わりやすく、変えなければいけないものほど変えにくいものだが、ジャッジし続けることが社長の仕事だ」

 社長としては、走り出して間もないが、就任前から蒔いてきた種が結実している面もある。実はそのジャッジに手応えを感じ始めているのかもしれない。

 「売上だけを考えれば、より多くのお客さまが手に取りやすい売場に商品を提供することが正解かもしれないが、この時代の中で何をするべきかを丁寧に検討し、しっかり判断していくことが大切。入社以来10年あまり、さまざまなコラボ商品をきっかけに崎陽軒を知っていただいたお客さまが、新たな客層として支持してくださっている」

 次はどんなコラボが見られるのか。横浜を通るたびに気になってしまう。

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