脱スーツではなく、スーツ注力で黒字化!青山商事、業績回復引っ張るオーダースーツ戦略とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年8月29日 20時55分
2022年5月に発表された青山商事(広島県/青山理社長)の2022年3月期決算は、売上高が1,659億円と前年(1614億円)から45億円増加。営業利益は21億円と、前年(マイナス144億円)から一転、黒字回復を果たした。
スーツ市場が縮小傾向にある中、紳士服業界の大手各社がスーツの“一本足打法”から脱却し、事業多角化を進めている。青山商事の業績回復の要因もそこにあるのか?と思いきや、実は意外にも、好調を支えているのは本業のビジネスウェア事業だった。しかも、そのカギは「オーダースーツ」にあるという。同年4月にはあの「麻布テーラー」を買収した、青山商事の独自の「オーダースーツ戦略」に迫る。
ビジネスウェア需要に回復の兆し
リモートワークの普及で本業のビジネスウエア事業が伸び悩み、事業の多角化によるポートフォリオ強化を進めている――紳士服業界について、新聞報道などでよく語られるのはこのような論調だ。現にAOKIホールディングスなどは「快活クラブ」に代表されるエンターテイメント事業やウェディング事業など、「非ビジネスウェア」部門が売上の半数近くを占める。
業界最大手の青山商事も、総合リペアサービス事業「ミスターミニット」や「焼肉きんぐ」「エニタイムフィットネス」のフランチャイジー事業など事業多角化を推進している。しかし、いずれも売上に占める割合は1割にも満たない。依然として売上の約7割は本業のビジネスウェア事業である。広報部長の長谷部道丈氏も「あくまで当社の軸足はビジネスウェア事業にある」と強調する。
そのビジネスウェア事業の売上高は、前年の1,098億円から1,132億円へと34億円増加。営業利益は同マイナス157億円からプラス6億円へと、コロナ禍による苦境の中で黒字化を達成した。青山商事の業績回復のけん引役はビジネスウェアだったのだ。
不採算店舗の統廃合や販管費の削減などコスト構造改革の成果もあるが、「ビジネスウェアの需要がようやく回復してきた」と長谷部氏は好調の要因を語る。リモートワークからオフィスワークへの回帰の動きが広まり、ビジネスパーソンの間に「久々にスーツを新調したい」とのニーズが高まっているという。
「コロナ禍でスーツの着用が減っているのは確か。だが、着用する頻度が週5日から2日、3日に減っているのであって、スーツの需要そのものが落ちているわけではない」(長谷部氏)
また、久々にスーツに袖を通すと体型が変わっていて、ボタンやチャックが締まらない……という人も少なくなく、スーツの買い替え需要も業績を押し上げているようだ。
既存店舗を中心としたオーダースーツ戦略が奏功
スーツを中心としたビジネスウェアでは、近年のワークスタイルの変化を見すえて紳士服業界各社が独自色を競い合っている。「ビジカジ」(ビジネスカジュアル)のウェイトを高める企業、健康・スポーツ色を打ち出す企業とさまざまだ。その中で、青山商事が「最も力を入れている」(長谷部氏)と言うのが「オーダースーツ」だ。
「コロナ禍で、対面での打合せや商談が貴重な機会になり『対面だからこそ特別な一着を身につけたい』というニーズが高まっている」(長谷部氏)
もともと、消費者のニーズや嗜好の多様化を背景に、オーダースーツブームはコロナ前の2010年頃から高まりを見せていた。その火付け役は、タンゴヤが2009年に第1号店を出店した「Global Style」だ。「高価で手が届かない」「古くさい」イメージのあったオーダースーツをリーズナブルな価格で体験できるとあって、業界に新風を吹き込んだ。
そのブームに紳士服業界の各社も追随し、「低価格・短納期」を掲げるオーダースーツサービスを続々と展開していった。コナカの「DIFFERENCE」などがその一例だ。
青山商事もその波に乗り、2016年にはオーダースーツブランド「UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S」のサービスを開始。次いで、2019年10月には低価格のエントリーライン「クオリティオーダー・SHITATE(シタテ)」をリリースした。
本体価格31,900円からの低価格でオーダースーツを体験できるSHITATEの出店にあたって、同社ではあえて独立の店舗を構えず、「洋服の青山」や「THE SUIT COMPANY」など既存店舗の中にインショップ形式で導入する戦略をとった。ねらいとしたのは、「オーダー目的ではないスーツ需要」の獲得だ。
「低価格とはいえ、それでもオーダースーツは多くの人にとってまだ敷居が高いイメージがある。お客さまがいつもの店にスーツを買いに来た流れで、自然にオーダースーツ売り場にご案内できるような導線を意識した」(長谷部氏)
この戦略が奏功し、「SHITATE」はオーダーの潜在ニーズの取り込みに成功。2019年度の103店舗から、2021年度は296店舗へと、導入店舗を徐々に拡大している。
オンライン・オフラインの融合で店舗スペースを効率化
「SHITATE」を含めた青山商事のビジネスウェア事業を陰で支えるのが、2016年から展開する販売システム「デジタル・ラボ」だ。店内にタッチパネル式のデジタルサイネージを設置。全国に700店舗ある「洋服の青山」の店在庫と連動しており、来店した店舗に商品がなくても、他店の在庫を一覧できる。
スーツを購入する際は裾直しなどの直しが入るので、受け取りに再来店するのが通常だ。しかしデジタル・ラボで購入したスーツはオンラインストアの販売ルートに乗るので、裾直しなどをしたスーツは自宅に配送される仕組みになっている。顧客にとっては再来店の手間が不要になり、利便性の向上につながる。
一方、店舗側にとってのメリットは、店内に大量の在庫を置かずに済むのでスペースの有効活用が図れること。スーツ売場を縮小し、その代わりにビジカジやレディースの売場を新設・拡充するなど、各店舗の地域特性に合った売場展開を図ることができる。
「当初は『青山なのにこれしか在庫がないの?』というお客さまの反応が不安視されたが、実際にはそのようなことはなく、逆に『買い物の幅が広がった』と好評を頂いた。今では大規模店舗にも順次導入している」(長谷部氏)
ある地方の大型店舗では、デジタル・ラボの導入によって300坪あった店舗面積を200坪に縮小。残り100坪をフランチャイジー事業のフィットネスジムに改装し、スペース効率を高めることができたという。
麻布テーラーを買収、オーダースーツ戦略に厚み
再び、話題をオーダースーツに戻そう。青山商事では「SHITATE」を導入したオーダースーツ対応店舗を、2022年度内に450店舗に増やす計画を立てている。単価が既成スーツの約1.8倍であるオーダースーツの構成比を高め、さらなる売上向上を図る構えだ。
しかし、オーダースーツの接客対応には、採寸や各スペックの説明など、既成スーツ以上に膨大な商品知識が求められ、販売スタッフの育成に時間がかかる。「スタッフの研修を同時並行で進めながら少しずつ店舗を増やしている状況」(長谷部氏)であり、無理な拡大は行わない方針だ。
これら「UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S」「SHITATE」の青山商事のオーダースーツラインに、強力な“ピース”が加わった。2022年4月に買収した「麻布テーラー」(旧運営企業:エススクエアード)だ。
「高い認知度と、一定の根強い顧客層を持っている麻布テーラーが加わることで、当社にとって空白だった高額ゾーンを強化し、オーダースーツ戦略に厚みを持たせることができる」(長谷部氏)
1964年の東京五輪日本選手団のブレザーを手掛けるなど、長年にわたり培ってきたテーラリングや接客技術を持つ麻布テーラーのノウハウを、グループ内で横展開していくことも今後は期待される。エントリーラインから高級ラインまで、オーダースーツのフルラインをそろえたことで、将来的にはスーツ総売上に占めるオーダースーツの構成比を50パーセントにまで高めるビジョンを描いている。
最大のボリュームゾーンだった「団塊の世代」が続々とリタイアし、加えてコロナ禍も長期化の様相を呈するなど、紳士服業界への逆風は依然として厳しい。しかしながら、ニーズの多様化による新たなビジネスチャンスも生まれている。業界のリーダーである青山商事の挑戦に引き続き注目したい。
「根底にあるのは、当社はあくまで『スーツ屋』であるということ。長年培ってきたスーツの縫製技術を強みに、オーダースーツはもちろん、ビジカジやレディースウェアなど、多様化するビジネスウェアのニーズに応えていきたい」(同)
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