靴下なのに「履かない」!?逆転の発想と技術で大ヒットした、ナイガイの新商品とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年11月15日 20時56分
創業100年以上の靴下メーカー ナイガイ(東京都/今泉賢治社長)が今夏発売した靴下が、その革新性で注目を集めている。その名も「はかないくつした SU△SiC(スアシック)」。インパクト狙いでなく、本当に履かない独創的な靴下だ。同社で、靴下づくりを30年以上手がける、ものづくりのエキスパート、商品部門技術開発部開発課の遠藤裕治氏に、開発の狙いやポイントを伺った。
ものづくりのエキスパートが明かす開発の狙い
履かないのに「靴下」を名乗る同製品。見た目はインソールそのもので実際、靴のインソール上に装着して使用する。したがって、正真正銘、「履かない」。ただそれならば、インソールでいいではないか…。この疑問に充分に応えるだけの靴下としての機能が、同製品には満載されている。
まずはなぜ、靴下がこんな形状になったのか。商品部門技術開発部開発課の遠藤裕治氏が説明する。「この10年の靴下のトレンドの一つに、靴を裸足で履いているように見せる、丈の短縮化がある。メーカーとしては、できるだけ足を覆う部分を少なくすべく、かかとを含めどんどん浅くしていった。しかしそれだと、どうしても脱げやすくなる。そこで滑り止めなどを装着したのだが、そうすると擦れて痛くなったり、痒くなったりする。だからといって裸足では不快感がある。そこでひらめいたのが、丈を全部取ってしまうというアイデアだった」
つまり、裸足のように見せるために極限まで浅さにこだわっていたアプローチから、覆う部分そのものをなくしてしまおうと発想を転換、靴下自体の形状を大胆に変態したのだ。自身を「開発マニア」という遠藤氏ならではの独創的なアイデアだった。
創業100年が後押しした「逆転の発想」
折りしも、同社は2020年に創業100年を迎え、企業メッセージとして「素足以上に足どり軽く」を掲げ、次の100年を見据えていたタイミング。靴下丈の「短縮化問題」に大胆に切り込んだ同製品は、会社の前向きな姿勢を具現化する意味でも、十分にインパクトがあった。
とはいえ、老舗メーカーとしてのブランド力、培った技術力を活かした製品でなければ、単におもしろいだけで終わってしまう。どうすれば履かずに靴下としての機能を盛り込めるのか。試行錯誤を重ね、完成までに2年を要した。
その結果、編み込み技術で凹凸をつけて滑りにくさを、綿混素材で吸湿力を、抗菌防臭加工素材の使用でニオイ対策を、それぞれ実現。裏面にはグリップ力に優れたシートを採用し、ズレにくくした。もちろん、靴下のように洗濯も可能で、清潔感にもこだわった。
独創性で話題を集め、1日800件以上の注文も
インソールの顔をした靴下。そう言うことがはばかられない、「はかないくつした」の名にふさわしい製品の誕生だった。
発売前には、市場調査を兼ねたクラウドファンディングに出品し、目標額をクリア。そのユニークさから各種メディアにも取り上げられ、ECサイトで1日800件以上の注文が殺到するほどの注目を集めた。
すでに特許も取得、来春には量販店などでの本格販売を予定している。「男性用が欲しい」という声もあることから、ラインナップの拡充も踏まえ、販売体制を確立する。
老舗の技術力を土台に独創性を追求
靴下市場は、アパレル市場同様に機能性への需要が高まっており、各社からユニークな製品が続々と生まれている。
「素足以上に足どり軽く」を掲げる同社は、今後、培った技術力でより快適な靴下を開発することで、市場シェアの拡大を目指す。「靴下の永遠のテーマとして、ずり落ちないようにするという点がある。ゴムを強くすると落ちにくくはなっても締めつけが強くなる。そこは素材や編み方の工夫でまだまだ追求できることはある」と遠藤氏。素足の快適さを補完するような靴下なら、場所や目的を問わず利用シーンも想定され、新たな需要発掘にもつながるだろう。
百貨店が主流販路の同社だが、独創性のある製品なら、新たな販路開拓もしやすくなる。製品に消費者ニーズをすい上げるような機能性があれば、注目されやすく、そうなるとネットでの拡散も期待され、ECでも売りやすくなる。
老舗企業の強さが、ブランド力と技術力にあることはいうまでもない。それを活かしつつ、時流や革新性を踏まえた製品開発ができれば、「ホンモノ」として、一過性に終わらない注目製品を供給できる。
100年以上の歴史におごらず、柔軟な発想で前進を続ける同社の次の1世紀へ向けた、裸足の挑戦が始まった。
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