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ファミリー向け室内遊園地は「子どもの多い国」で再成長=イオンファンタジー社長 土谷美津子

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2012年9月3日 1時0分

日本における少子化の進行は、子どもをターゲットにする専門店各社に大きな影響を与える。こうした中で新興国への進出に次なる活路を見出すのが、イオンファンタジーだ。同社はショッピングセンター(SC)内を中心にファミリー向け室内遊園地を展開。日本国内の店舗数は300店舗を超す。2008年から直営での海外進出を始め、現在の海外店舗数は中国に9店舗、マレーシアに23店舗。12年5月にはタイに子会社を設立し、今期中の1号店開店をめざしている。

進出の目安は一人当たりGDP5000ドル超

イオンファンタジー代表取締役社長 土谷美津子
イオンファンタジー代表取締役社長 土谷美津子(つちや・みつこ)1963年生まれ。1986年ジャスコ(現イオン)入社。2006年執行役に就任。グループお客様担当、品質管理担当などを経て、08年執行役グループ環境最高責任者に就任。10年より現職。

──マレーシアでは2003年から、イオンマレーシアがフランチャイジーをスタートして、11年までに室内遊園地17店舗を出店。昨年、イオンファンタジーがその事業を買い取るかたちでマレーシアに進出しています。08年には中国にも第1号店をオープンしており、タイへも進出しています。なぜこの3カ国を進出先に選んだのでしょうか。

土谷 アジアへの進出を決めた背景には、日本が少子化する中で当社の事業のさらなる発展を考えたことがあります。進出するに当たっては、すでに発展した地域よりも、今、ちょうど経済発展をしている最中で、子育てや教育に熱心なエリアが魅力的で、当社のこれまでのビジネスモデルが展開できると考えています。

 室内遊園地事業は、衣食が足りて、住む場所にも困らない所でないと需要がありません。一人当たりの国内総生産(GDP)が一定の金額──5000ドルを超えていることが、ひとつの目安です。この目安は、当社の業態の特性から総合スーパー(GMS)や食品スーパー(SM)の進出の目安よりも高めに設定しております。

 当社は今、国内で「知育・体育・保育」を融合した「創育」に取り組んでいます。大学教授の協力を得て、遊びを通して心と頭と体の発達を促すようなソフトの開発を行っており、国内での新たな成長をめざしていますが、随時このモデルも海外に展開します。

──ターゲットとするのはどのような層ですか。

土谷 所得でいえば、中間層です。とくに、高所得者層はねらっていません。ただ、それぞれの国で市場の様子は異なります。

 たとえば中国では、1人の子どもに両親と、その両親(祖父母)など5~6人の大人が付いて、子どもを大事に育てていることが来店される様子からもうかがえます。

 マレーシアとタイ(中国も同様ですが)は女性の就業率が高く共働きが多いのが特徴です。そのため平日は保育所やベビーシッターに子どもを預けていて、唯一子どもと触れ合える週末に当社の店舗に来店される傾向が強いですね。ただ、タイとマレーシアの違いは、マレーシアのほうが1世帯当たりの子どもの数が多いことです。1世帯当たりの子どもの数が4~5人というのはごく普通です。

 また中国では、交通量が多いため、外で子どもを遊ばせるより室内で遊ばせたいという意識が強いと感じます。一方、マレーシアは1年中暑いため、涼しいところで遊ばせられるという理由からも室内遊園地が評価されています。

 このように、それぞれの国の事情は異なりますが、子どもたちの遊び方は大きくは変わりません。身体を思いっきり動かし、人とコミュニケーションを取る中で、いろいろなことを学んでいくものです。

郊外型SCを中心に出店 都市型小型店も開発

──イオンは今後、高い成長力を持つ中国事業に注力していく方針です。イオンファンタジーは中国市場でどのような出店戦略をお持ちですか。

土谷 中国では大人向けのゲームセンターは法規上、外資100%で法人化することは困難です。イオンファンタジー北京は、日本と同様に子どもの健全な育成を基本コンセプトとしており、多くのお客さまにご支持いただき、イオンファンタジーの100%子会社として運営しています。

 出店戦略としては、中国全域の中でもいくつかの地域への集中出店を考えています。ひとつは北京・天津をはじめとする北部地域。そして広州・深圳(シンセン)をはじめとする華南地域です。これはイオンの出店戦略と合致しています。さらにまだ出店していませんが、遼寧省への出店を考えています。

 時間消費型の大型SCの出店が加速している地域は、当社にとって非常に魅力的です。遼寧省瀋陽には現在、大型SCが次々に開発されています。イオンのSCに限定せず、こうしたSC内にも出店し、各エリアで5~10店舗以上のドミナントをつくっていきたいと考えています。

──沿海部の中でも上海は商業施設の開発が目立つエリアです。上海へは出店しないのですか。

土谷 上海中心部は発展し過ぎており、近隣からの来店が中心で、滞在型の施設は難しいと考えています。今まさに大型SCを郊外に開発中の都市が、当社の出店先としては魅力的です。

 親は小さい子どもを時間消費型の大型SCに連れていきたい。そこでカギとなるのはクルマです。

 どの国でも同じですが、小さな子どもを連れて外出するなら、クルマが停められる郊外の大型SCが便利です。中国だけでなくマレーシアやタイでも、女性の就労率が高く、家庭で調理する文化があまりありません。そのため、フードコートが充実していることはSCの集客要件になります。当社はそのようなSCを選んで出店していきます。中国とマレーシアでは、郊外店舗の面積は約300坪で、土日の来店客数は平日の5倍から6倍です。

 一方で、都心の商業施設内にも出店しています。都心の店舗は、面積が100~150坪とコンパクトです。近所に住む小学生ぐらいのお子さまが歩いてやってきますので、平日と土日の客数に差があまりありません。

──一方でマレーシアやタイではどのような出店戦略をとっているのですか。

土谷 マレーシア、タイにおいても、中国と同様にSC内に出店していきます。

 中国でも東南アジアでも子どもに特化した室内遊園地は非常にめずらしい業態です。そのためSCのデベロッパーから非常に多くの出店要請をいただきます。たとえば、中国では今期、約20店の出店を予定しています。そのほとんどがイオングループ以外のSCへの出店です。

 もちろん、イオングループの出店時にはできる限り出していきます。しかし、SMやGMSと比べ規模の小さな専門店としてドミナントを築くためには、たとえばイオンのモールが2カ所できる間に、私たちはその周辺に5店舗程度は出店する必要があります。当社の場合は“箱モノ”があれば、どこへでも出ていける。そういう意味では、早いテンポで出店することが可能ですね。

 中国ではすでにイオンのSCと同じエリアにある他社のSCに出店したケースがあります。しかし、人口密度が非常に高いエリアに出店していますので、一般に想像されるように競合することはありません。

 タイでは地元の大型SCに出店する際に、独自のルート以外に、イオンタイランドがテナントとして入居している商業施設のデベロッパーを紹介してもらうケースもあり、グループ各社とも協力しながら出店しています。

イオンファンタジー

「真似が難しい」ソフトの充実で差別化

──中国、アジアで競合する企業はありますか。

土谷 今のところありません。そもそも日本でも、子どもに特化したファミリー向けの施設はあまりありません。大人、ヤングアダルト向けのアミューズメント施設ではなく、子どもに特化している点が当社の特徴です。

 当社の強みは、遊具が安全で清潔なこと。こうした衛生管理を徹底していることに加えて、ソフトを充実させることで差別化を図ってきました。たとえばオリジナルキャラクターの「ララちゃん」と「イオくん」のショーやイベントは子どもたちに大変な人気です。土日はショーを見るための行列ができるほどです。

 もちろん、いずれ真似をする企業が出てくるでしょう。しかし遊具は真似できるかも知れませんが、ショーなどのソフトはなかなか真似できません。そこに当社の強みがあると考えています。

 現在はこうした衛生管理とお客さまへのホスピタリティの高さをブランド化しているところです。

──郊外店舗は約300坪ということですが、現在のプロトタイプはどのようなイメージでしょうか。

土谷 郊外店舗の場合、全体の3分の1が遊び場です。これは「30分でいくら」というように時間課金制で遊ぶことができるスペースです。残りの3分の2が、乗り物やゲーム機のスペースです。日本では遊び場のほうが、乗り物やゲーム機のスペースと比べると坪効率が悪いのですが、中国やマレーシアでは2つのスペースの坪効率は同じぐらいです。

 乗り物やゲーム機のコーナーは、日本とは運営方法が異なります。

 日本ではゲーム機に直接、貨幣を投入して利用しますが、中国やマレーシアでは代用貨幣の「トークン」を買って、それを投入して遊びます。機械1台1台を集金して回る手間がないので、オペレーション上はそのほうが効率的です。

──中国やアジアでは、日本のゲーム機が人気だと聞きます。国内店舗の中古ゲーム機を再利用するなどの取り組みもありますか。

土谷 これも法規制の問題があり、日本から中国やベトナムへ中古のゲーム機を持ちこむことができません。マレーシアはその規制はありませんので可能ですね。

 日本のゲーム機も相当、入っていますが、ゲーム機すべてを日本と同様にすると遊び方がわからないものもたくさんありますので、現地のゲーム機も導入しています。お客さまの中には日本のゲーム機に詳しい方もおり、不思議と「太鼓の達人」(バンダイナムコ ゲームス)に「新曲が入っていない」と言われることもありますね(笑)。

──遊び場のスペースは日本に比べて坪効率がよいということでした。何が支持されているのでしょうか。

土谷 遊び場のスペースでは、ショーなども開催しています。当社はこれを「エンターテインメント」と呼んでいます。そのエンターテインメントのリーダーが、子どもたちを上手に盛り上げて、一緒にダンスをしたり、旗上げ体操をしたりします。コミュニケーションはもちろん現地語ですが、こうしたダンスの曲の歌詞は日本語のままです。子どもたちは普通にそれを覚えて踊っています。

──エンターテインメントを強化するためには、子どもたちの盛り上げ役となるリーダーの育成がカギになると思います。人材の確保や教育体系についても日本でのノウハウを活用していますか。

土谷 海外でもリーダーには日本と同様の教育を実施しており、社内の資格制度を設けています。もともと子どもとダンスが好きで応募してきているので、モチベーションの高いスタッフばかりですね。

目標は2015年までに中国で100店舗、東南アジアで70店舗

──子ども向けの室内遊園地は、大人向けのゲームセンターと比べると坪当たりの売上高は低くなります。収益構造で日本との違いはありますか。

土谷 そうですね。ただ、デベロッパーからは「SCにファミリー層を集客したいから」という理由で当社に出店要請がきます。そのぶん、家賃条件は比較的よい条件で出店することができています。

 また、中国やマレーシアでは、日本にあるようなクレーンゲームは少なく、「乗り物」が中心となっています。そのため景品の原価がかかりませんので、そのぶん日本よりも利益率が高くなります。

 日本の店よりも売上高自体は低いのですが、設備投資も日本の半分、かつ利益率も高い。そのため早期に投資回収できています。

──2015年までに中国で100店舗、東南アジアで70店舗を計画していますが、今後の出店計画を教えてください。

土谷 2015年までに中国で100店舗、東南アジアで70店舗という目標は、達成できると思います。

 東南アジアではマレーシアとタイ以外にも、今後も積極的に進出していきたいと考えています。単純にGDPからみれば、インドネシアなどは魅力がありますね。

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