1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

そごう・西武売却決定でどうなる!?ヨドバシ、フォートレス連合が取り得る4つの打ち手とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年11月14日 20時55分

セブン&アイ・ホールディングスは11月11日、子会社であるそごう・西武の株式全部を、不動産投資ファンド運用会社のFortress Investment Group(フォートレス・インベストメント・グループ)へ譲渡する契約を締結したと発表した。売却額は2000億円を超えるメガディールという報道もある。フォートレスは、ヨドバシカメラの親会社であるヨドバシホールディングスをビジネスパートナーとしてそごう・西武の再生を図るとしているようだ。

フォートレスとは、アメリカの投資運用会社で、経営破綻懸念のある企業の株式や債券などを安価に買取り、価値向上を果たし株価を上げたところで売却する手法を得意とする。今日は、固く守秘にまもられた、この大型ディールの先にある世界を予見し、このフォートレスとヨドバシカメラが、どのように百貨店再建を図るのかを予見してみたい。なお、本分析は多分に私の推測が含まれており、限られた情報と私の過去の経験から得られた完全な類推であることをお断りしたい。企業、事業再生はセンシティブなことが多く、リアルに書けば書くほど内容は生々しさを増してくる。お読みになられ、不快に思われた方にはここで謝罪をしておきたい。

ロピアが入るとされている「京都ヨドバシ」

2021年から水面下で行われてきた売却交渉

 2021年夏、セブン&アイ・ホールディングスは、米国ガソリンスタンド併設型コンビニエンスストア「スピードウェイ」を約2兆3000億円という天文学的金額で買収した。このような大型買収を日本企業が決めることは珍しい。セブン&アイに対して2022年1月、米国アクティビストファンド(株主の中でも、経営改善を強く迫る投資家、「もの言う株主」とも言われる)のバリューアクト・キャピタルが、複数の異なる小売を経営するのでなく、グループの中で最も収益の高いコンビニ事業であるセブンイレブンに集中するよう要求したというのは周知の事実である。

 セブン&アイにはもう一つ、残された仕事があった。それは、ノンコア事業(得意としない事業)を本体から切り離し、可能な限り高値で売却することで、今回の「スピードウェイ」買収資金返済に充てるということだ。思えば、敵対的買収を避けるため、多くの小売企業を傘下に持つコングロマリットカンパニーとなったセブン&アイ・ホールディングスは、アクティビストファンド達からの「コンビニ集中」のプレッシャーに勝てず、もと来た道を逆戻りしたというわけだ。

22年2月期の当期純利益は、セブンイレブン1896億円、そごう・西武が▲88億円イトーヨーカ堂が▲112億円、セブン&アイホールディングスがコンビニ事業に集中すべきことはあきらかだった。

 

河合拓氏の新刊、大好評発売中!「知らなきゃいけないアパレルの話」

アパレルはSDGsに殺される!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤!

西武・そごうの将来はこうなる

西武池袋本店(2022年11月撮影)

 西武・そごうは222月期業績で営業収益4568億円、営業利益▲35億円(212月期は同▲66億円)。当期純利益は、192月期以降の直近4期は順に、+3億円、▲75億円、▲172億円、▲88億円で、普通に考えれば事業価値はほぼゼロだ。加えて、西武・そごうは、22年2月期時点で3000億円を超える有利子負債(長短借入金+リース債務)を抱えている(流動負債と固定負債の合計は約5000億円)。したがって、買い手は、ラフに計算しても、事業価値0+売却額2,000億円+そごう・西武の有利子負債3000=5000億円規模の価値を見いださねば成立しないことになる。

 ここからも、百貨店事業に将来を見いだしているとは考えがたく、百貨店事業の継続はない可能性が高い。

 現在、西武・そごうには約4500人の従業員が働いているというが、彼らはどうなるのか。長年、再生系ファンドと付き合ってきた私が思いつくのはやはりリストラだ。過去、いくつかの再建を手がけてきたが例外はなかった。

 しかし、読売新聞が報じるところによれば、今回はセブン&アイ・ホールディングス内の配置転換とヨドバシカメラが一部を採用することで雇用を守るとしている。

 また、再生の場合、業態は変えないまま一度縮小均衡させ再成長させる。この縮小均衡の時点でリストラをするのだが、今回は百貨店事業を継続するとは思えず、上物(うわもの)は価値ゼロとしても、駅前の好立地に金脈を見いだしたと思われるフォートレスは、この好立地を使って百貨店とは異なる事業を展開するとみるべきだろう。その際、これだけの大きな立地で働く人員をゼロから採用するとは想像しにくく、今回の「リストラはしない」という報道は、あながち100%嘘ではないと思う。

「西武・そごう再生に向けて」は誤報か?
ヨドバシ出店で不可解な点とは

 しかし、今回報道されている「再生」というのは、誤りではないかというのが私の視点だ。なぜなら、百貨店事業は、それ自体がすでにオーバーストアとなっており、今、いかなる手法を使っても再生・再建する方法はないからだ。あるとすれば、まず百貨店の数を大きく減らし、駅前好立地の高収益百貨店だけをのこして、再建をするのがもっとも合理的だ。実際、百貨店の数は、この10年で250から190店舗に減っている。いくつかの報道によれば、10店舗あるそごう・西武のうち「池袋」「渋谷」「千葉」などの数店舗に将来的にヨドバシカメラが出店するという。

 しかし、池袋、渋谷などはすでに家電大手がしのぎを削っている。ましてや、私がいうまでもないが、家電量販店はいまや「スマホ x Amazon」の組み合わせにより、消費者は平気でスマホを持って家電量販店に入り、「Amazonでポチる前に触ってみよう」という、いわゆる「ショールーム化」している。

 要点は、①今回のディールにおけるファンドのロジックとして目をつけたのは、一等地にあるという不動産価値と考えるのが妥当であるということ。②その上で、問題は、その一等地で何をしようとしているのか、ということである。

 外資ファンドは、かならず緻密な戦略を、戦略コンサルタントをつかって立案する。今回も、戦略コンサルタントをつかって徹底的にあらゆる可能性を調査し、「勝ち筋」をみつけた可能性もある。

 そういう意味では、大胆な秘策がなければ、前述の5000億円+大型内外装の入れ替え費用を回収し、さらにバリューアップをするなど、どのように考えても思いつかない。ただ一つ確定的なのは、フォートレスのパートナーがヨドバシホールディングスなのだから、ヨドバシの資産を活用するのがもっとも手っ取り早いし、そのような取り決めがあったから合意に至ったのだろうということだ。

フォートレス・ヨドバシ連合が取りうる4つの方向性

 したがって、こうした考察から得られる仮説としては、以下が考えられる。

  1. まず、もっとも自然なのは百貨店店業態の中で、もっとも勝ち筋が見える立地に「ヨドバシカメラマルチメディア」を出店するということだ。イメージ想起されるのは、大阪の「ヨドバシカメラマルチメディア梅田」のような業態だ。
  2. 次に、競合がひしめくレッドオーシャン立地の場合だ。フォートレスが得意とする不動産事業で、完全デベロッパーに徹し、人気テナントを入れ、ヨドバシの店舗運営ノウハウをいかして駅ビル店舗を作ることも考えられる。屋号は「ヨドバシカメラマルチメディア」かもしれないが、より都市型ライフスタイル店舗になるはずだ。
  3. 次に、観光立国宣言した日本のインバウンド消費を狙い、ヨドバシカメラのノウハウをいかし、インバウンド需要に特化した業態開発を行うことも考えられる。ただこの業態は、1か2の中に併設されるはずだ。
  4. 1〜3への転換ができない店舗については、オフィス・テナント、ホテルなど、その土地にあった業態転換に転換するだろう。だが、ファンドとはいえ、それほど湯水のように金がでてくるわけではない。大きなリストラを繰り返し、シャビーな店舗でも我慢し続けて1-3が投資フリーキャッシュを生み出すまで耐え忍ぶだろう。覚えておきたいのは、ファンドは、経営破綻が現実のものにならない限り追い金は絶対にださない。

 しかし、再生系ファンドはこうした、いわば、セオリー通りの再建だけを得意としているわけではない。西武・そごうには失礼だが、好立地にありながら閑古鳥が鳴いている赤字店を何年も放置し、不動産価値を含めても極めて安価、一店舗平均で200億円値にまで価値毀損させた。このことは、ファンドから見れば「安いから買っておく」というのは、ありうる話だ。安く買い叩けるため、いわば、何をやっても前よりもましになる、という算段である。こうしたメカニズムも働いているとしたら、ますます、そごう・西武の変貌先は新しい株主でさえも「これから詳細は検討する」という部分があっても不思議ではない。

*11月24日朝5時45分 テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に私、河合拓が出演し、ますます日本で存在感を表してきたShein(シーイン)についての分析をインタビュー形式で語ります。ぜひご覧ください。

 

 

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください