巣ごもり需要で始まった「おうちお好み焼きブーム」は物価高で止まったのか
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年12月4日 20時55分
コロナ禍は完全な収束を見ずに流行を繰り返しているものの、行動制限は緩和され経済活動も以前の水準に戻りつつある。一方、コロナ禍を契機に在宅ワークなど生活様式に起きた変化をはじめ、化石燃料、農水産物等の価格高騰と円安等による物価の上昇は、国民の消費行動にも影響を与えている。国内にコロナ禍が到来した2020年春以降、巣ごもり需要により「おうちでお好み焼き作り」がブームとなったが、その後の情勢変化で原料メーカーに影響はあったのだろうか。ソース、青のり、ミックス粉の主要メーカーに話を聞くと、三者三様の動きがあった。
「創業100周年」オタフクソースの場合 お好み焼きブームで前年比15%増
お好み焼きに欠かせないソースを製造するオタフクソース(広島市)は大正11(1922)年11月26日に創業、ことし100周年を迎えた。
ソースの製造・販売は戦後の1950年からで、今ではお好み焼き用ソースだけでも10種類以上を展開し、主力の「オタフク お好みソース」をはじめ「大人の辛口」「野菜と果実」「ガーリーカリー」といった特徴的なフレーバーや「塩分50%オフ」、機能性表示食品を取得した「糖類70%オフ」など、多様なアイテムで消費者のニーズに応えている。また、9月には自社サイトに開設していたオンラインショップを楽天市場に完全移行し店頭で棚を確保できない商品も提供しやすくなった。
2020年の巣ごもり需要で、お好みソースに追い風が吹いた。調査会社による消費者パネル調査によると、同年の市販用「オタフク お好みソース」の売上は前年比15%増となった。
“特需”はソースにとどまらない。
「お好み焼き関連商品」として販売している「お好みこだわりセット」も大ヒットし、店頭では欠品が相次いだ。このセットには、山いも入りお好み粉、イカ天をブレンドした天かす、青のりが一袋にまとまっている。消費者はキャベツや生鮮系の具材を買うだけで済む。分量も2人用、4人用と今どきの家族で食べ切れるボリュームだ。
再びお好みソースに戻るが、2021年は前年比こそマイナスだったが、コロナ禍前の水準よりはプラスで推移した。
さまざまな制限が解除され、消費行動も選択の幅が広がったが、2022年に入ると、物価高や円安が進み、消費者にもメーカーにも影を落としている。
ソースの原料であるトマトペーストなどの原料価格と物流費の高騰を受け同社は6月、2015年以来となる価格改定を実施した。家庭用の「オタフク お好みソース」(500g)の希望小売価格(税別)を360円から390円にするなど家庭用60品、業務用232品を5~9%引き上げた。
主要原料であるトマトペーストの価格高騰は世界的な消費量増大に対して異常気象によるトマトの不作、エネルギーなどの価格上昇に加えて円安が追い討ちをかけた。
オタフクソースはトマトペーストを通年で安定的に確保するため、北半球と南半球で産地を分散し安定調達に努めてきた。だが、今は「コストより原料確保が最優先の状況」という。今後は北半球、南半球の産地の調達バランスをとりながら安定調達とコスト維持に努めていく必要が出ている。
「コロナ禍をきっかけに、家庭での消費が伸びた名古屋以東の地域でお好み焼き作りが定着するよう、おいしく簡単に作れるレシピを動画や教室を通じて紹介し広めていきたい」。
あえて特需をスルー 青のり最大手の「正直経営」にネットざわつく
お好み焼きに彩りと風味を添える青のりも特需の恩恵を受けたかといえば、さにあらず。
青のり国内最大手の三島食品(広島市)は2022年が青のり発売「51周年」に当たる。原料となる徳島・吉野川産スジアオノリの収穫量が激減したため、2020年6月に「青のり」の製造を休止していた。
代わりにスジアオノリよりも劣るものの比較的調達しやすかったウスバアオノリなどを用いて「あおのり」として約1年半販売した。パッケージデザインも従来品のブルーではなくグリーンを基調とし、商品名も「かな」表記で区別した。さらに、代用品である「あおのり」のPRや販売拡張をあえて行わない営業戦略を堅持し、スジアオノリが確保できるまで「青のり」の休売を徹底した。
同社は前後してスジアオノリの陸上養殖に取り組み始めていた。高知県室戸市が設置した「室戸海洋資源開発センター」の指定管理者業務を2015年から継続しており、陸上養殖のノウハウを積み上げてきた。2020年からは広島県福山市の走島に自社の養殖施設を設けて自社生産できる体制を構築した。
天然物の収穫も徐々に回復し、自社生産による原料と合わせて生産できる見通しが立ったことから2021年11月に販売を再開したが、外出制限も緩和しており、お好み焼きブームは収束していた。
恩返しのステルス“値下げ”
それでも、休売してまで原材料にこだわった同社のスタンスを、消費者は好意的に受け止めていてSNSでも「いいね」やリツイートが伸びた。
ブームには間に合わなかったが、外的影響を受けずに自社で原材料を調達する体制と消費者の信頼を勝ち取ったのだ。
三島食品は2022年12月末まで「青のり51周年キャンペーン」を実施し、「青のり」の巻き返しを図っている。
「正直な経営をしないと回り回って自分たちに返ってくる」という創業者の行動指針を踏まえた社風が根付いていて「今回もバカ正直にこのようなメッセージをパッケージに書いたところ、たまたまお客様の目に止まり、予想もしない好評、共感をいただきました」(同社広報)。
「青のり」は通常、袋入りタイプの内容量が2.2グラムで希望小売価格が226円(税別)。価格を据え置きでボリュームは3gに増えるという、異例の“ステルス値下げ”を行っているのだ。
「青のり」の休売期間中、同社には励ましの手紙やSNSでの応援が届いた。その恩返しの意味も込めて年内いっぱい「青のり51周年キャンペーン」を続ける。
10月の輸入小麦の政府売渡価格は据え置きも他要因で値上げのミックス粉
家庭でも簡単で便利にお好み焼きが作れるのは、小麦粉に調味料などが加えられたお好み焼き用の「ミックス粉」の存在が大きい。
その主原料である小麦粉は9割を北米などからの輸入に頼っている。
小麦粉の国際価格は、脱コロナに伴う需要増や悪天候による不作の影響を受け、急速に上昇している。国際指標であるハード・レッド・ウインター(米国産硬質小麦)輸出価格は、昨年10月の1トン当たり354ドルから1年で437ドルにまで上昇。さらにこの間、大幅な円安ドル高が進み、想定輸入価格は6割ほど上がったことになる。
わが国の小麦輸入は、国内の小麦農家保護のため国が管理している。アメリカ・カナダ、オーストラリアから政府が一括して5銘柄の小麦を買い上げ、政府が4月期と10月期に売渡価格を決めて国内製粉会社に売り渡している。
したがって国際市況の急騰がダイレクトに伝わらないよう、政府が国内メーカーのクッション役を担っているともいえる。
10月期の政府売渡価格は4月期の価格を適用し、据え置く緊急措置がなされたが、いずれは値上げ分を反映しなければならない。
値上げリスクをカバーする日清製粉ウェルナの商品戦略
「巣ごもり需要」で沸き起こったお好み焼きブーム。
お好み焼きのミックス粉を手掛ける日清製粉ウェルナは今年8月、新商品として「日清 具材を活かすお好み焼粉」(200g、400g)、定番の「日清 お好み焼粉」では従来の500g、800gよりも小さい「300g」をそれぞれ発売した。
シンプルな味わいが特徴の「具材─」はその名の通り、魚介類や肉類などの具材の風味を引き出すほか、焼きそばと合わせる「モダン焼き」に向いているという。
今回のラインアップ刷新で特に注目したいのは、定番として底堅い主力商品「日清 お好み焼粉」のサイズバリエーション追加だ。800g・500gの従来アイテムに、新たに300gをラインナップさせた。
発売理由について同社は「(子どもが小さい家庭でも)1回で使い切れるサイズが欲しいというニーズに応えた」という。
500gは家族4人ならちょうどいいし、800gはもっと大勢でワイワイやるときに使いたいサイズだ。コロナ禍が収束しない中、大人数を集めたホームパーティーもお預けだ。
一方、3人以下の家族構成に対応したサイズはなかった。
家庭用食品で商品戦略を立てるとき、ターゲットとしてまず意識するのが家族構成だ。日本の世帯構成人数は減り続けていて令和2年国勢調査によると、1世帯当たり平均は2.21人。核家族化の進行とともに一貫して減り続けている。かつてボリュームゾーンとされてきた3-4人世帯は3割を切るまでに落ち込んだ。
代わりに増えたのが2人世帯と単身世帯だ(66.1%)。こうした観点からも300gは、家族構成変化に対応した“2人でもお好み焼きを楽める”商品だといえる。
価格改定の影響を最小化するために
コロナ禍での売上はどのように推移したのか。
日清製粉ウェルナによると「巣ごもり生活により、おうち時間で子どもとホットケーキやスポンジケーキ、パン作りにも需要があり、粉全般が好調に推移したが、お好み焼きのミックス粉が特に顕著だった」という。同社の「お好み焼粉」は出荷量ベースでコロナ禍前の2019年と比べて2020年は110~115%で推移し、2021年は前年割れしたものの2019年と比べるとプラスで推移した。
一方、業務用の製品は外食産業全般が落ち込んだ影響で2020年は低調だったが、家庭での消費が伸びたことで「トータルではプラスだった」という。
2022年(4-7月期)は4月の価格改定の影響で前年割れ。この状況を打開するべく新商品を発売し活性化を図っている。
価格改定が家庭でのお好み焼きづくりにどのような影響を与えたのか詳細はつかめないが、同社の分析では「例えば、お好み焼き粉を使っていた人が薄力粉にシフトしたといった動きは確認できないが、豚ロースを使っていたところを豚こま切れに変えた、キャベツの量を減らしモヤシを加えたなどといった具材の節約がみられる」という。
節約マインドの消費者にも訴求するお好み焼きの存在感
100周年を迎えるオタフクソースは多様なニーズに品揃えで細かく応えるとともにECの強化で実店舗を介さずとも消費者に届けるルートを強化する。ミックス粉の日清製粉ウェルナは内容量のバリエーションを見直すことで値ごろ感を保ち、家庭での粉もの消費の持続を図る。三島食品は青のり養殖施設の本格稼働で原材料の安定調達を実現し、ブランド力を向上させている。
消費者である国民の名目賃金が上がっても、物価の上昇速度が速く実質賃金が下がる中、調理が簡単で材料費も節約できるお好み焼きは、まだまだ訴求できる献立として存在感を示している。
ソース、青のりミックス粉のメーカー3者3様の戦略を立てる中、節約マインドの消費者に対し、お好み焼きの値ごろ感や楽しみ方がしっかり浸透すると、ブームは再燃するのかもしれない。
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