中国企業傘下の仏メゾン「ランバン」米国で上場 いまや中国企業に追いつけない理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年12月19日 20時55分
仏の高級ブランドLANVIN(ランバン)率いるLanvin Group(ランバン・グループ)が、米国ニューヨーク市場に上場する。多くの人は知らないだろうが、実は、この仏のハイ・メゾングループの親会社は中国、複星国際グループ(Fosun)が所有しているのだ。今回は、投資会社を使って、一足飛びにブランド構築をする中国企業からわれわれが学べること、そして日本企業の行く末についても占ってみたい。
中国企業は世界市場で急成長をしている
私が、日本のアパレルは、もはや死に体で、ファンドか中国集団に買収攻撃にさらされると言ったのは2年前で、20年前に「中国人の給与は日本人の1/20だから、日本で作るより安価にできる」と商社の南下政策を書籍「ブランドで競争する技術」で論じたのも13年前だった。
驚くことに、今でも「中国など」と高をくくっている日本人が多い。中国シーインに今頃騒いでいるのも「周回遅れ」だ。日本のなんちゃってD2Cなど、いくら繰り返しても無駄。本当のD2Cの破壊力とに気づくべきだ、と私が中国シーインの分析をはじめたのは2年前だ。
その間も、世界のアナリストたちから「中国シーインの弱点は何か」と頻繁に質問されてきた。私は「世界的に拡大するSDGsが彼らのボトルネックだ」と指摘してきた。
しかし、今では、どこもかしこもシーインをSDGsの観点から責め立てている。中にはイチャモンに近い話を誇張するものまである。「安いから悪い。あんな商売をされたら産業が潰れてしまう」というトーンだ。シーインが米国で版権侵害で訴訟されたことを受け(実際はあやまった報道である可能性もあることは前号で証明した)、日本のテレビ番組が鬼の首を取ったかのように報道し、責め立てている。
終いには「ファストファッションは終わった」と欧州委員会が結論づける始末だ。
ファストファッションの何が悪いのか?捨てるのが悪いのならサブスクにすればよいだけだ。色々なファッションを安く楽しみたいという乙女心を、どこかの人民服のようなものに強制的に代えさせる方針など誰も耳を貸さないだろう。実際にシーインは拡大に拡大を繰り返し、すでにユニクロの売上までも抜いているという報道もある。
ファーストリテイリングから何も学ばず死の谷へ
思い出して欲しい。ファーストリテイリングがはじめて原宿に出店したときも、ファッション業界人を中心に多くの日本人が「あんなものはファッションではない」と高をくくり、安物服のレッテルを貼って無視していた。
私はユニクロの強さの秘訣を詳しく『ブランドで競争する技術』に書いたのだが、誰もが斜め読みしかせず、気づけばほとんどの国内アパレルは「完全KO」を食らう始末。今では、補助金無しでは生きていけないほど産業は弱ってしまった。
すべては、バブル時代の古き良き時代に成功体験をした経営者達、そして、ファッションはこうやるのだと、自分のやり方を変えずに若者を道連れにし、死の谷(Death Valley)に向かおうとしている頭の固い人達の責任だ。
世界は日本を完全無視 中国、韓国がファッション大国
中国の複星国際、つまり中国資本までもがJapan passing (日本無視)をおこない、すでに香港に上場したあと、世界に拡大する足がかりはニューヨークに上場した。
そして、とうとう「世界の工場」と揶揄された中国が、2018年(いまから3年前だ)世界のトップメゾンであるランバンを買収し本社までも上海に移している、トップメゾンの仲間入りを果たしたのである。中国がフランスメゾンの仲間入りを果たしたということを日本のアパレル業界人はどれだけ知っているのだろうか?
さらに、同社はシューズのSergio Rossi、豪州のWOLFFORD、米国St John、イタリアの高級紳士服Caruso(私の憧れブランド)さえも傘下に収めている。彼らは、すでに80か国以上、3600人の従業員をかかえ、あらたに200を超える新規出店まで考えている。この中国のスピードこそ、カメのように固まって30年も海外に出ず、あげくの破堤は日本で潰し合いをしているアパレル業界との大きな差なのだ。
おわかりだろうか。今時、日本の「安心」「安全」が中国でブランドになるなどという昔話を今でもやっている勘違いを。日本人は、私の『ブランドで競争する技術』を読んだ上で、「ブランドの作り方を教えろ」という不勉強さ(理解できなかったのだろうか?)だ。
ブランドをつくりたければ、本にも書いてあるように「100年間同じことをやりつづけろ」ということなのだ。そうでなければ、「100年間同じことをやり世界が認めた会社を買えば良い」のである。
中国企業が実行する「この合理的な判断」を、なぜ日本企業はできないのだろうか。思えば、バブル時代、金余りのアパレル企業は自社ビルを買い、ゴルフ場を買った。挙げ句の果てには溜め込んだ金を投資家に還元せよ、とアクティビストに攻撃された企業もあった。こうした彼我の差をみれば、日本の衰退は、日本のアパレルが絶頂期だったDCブームから始まったと考えるべきだ。
投資会社を巻き込み、超絶なスピードで世界化をすすめる秘策
さて、今回のランバン・グループの上場は特別買収目的会社(SPAC)であるプリマベーラ・キャピタル・アクイジションと合併する形で上場した。
このSPACについて簡単に説明しよう。SPACとは、Special Purpose Acquisition Companyの略。SPACは「空箱」と呼ばれ、上場後に、実業を行う企業を買収する。簡単に言えば、事業会社は上場したSPACと合併することで、上場企業に課せられる厳しい審査などをパスし、短時間で上場することができるというわけだ。
今回のケースで言えば、このスキームを活用して、ランバン・グループは難なく上場を果たしたということであり、その後も未公開企業を買収させ、最速でコングロマリットを作ることもできる。
このSPAC方式をつかって買収をする今回の目的は
- 買収スピードの速さ(最速でコングロマリットをつくることができる)
- 上場基準に満たない小さい企業も参加にいれられる
であろう。
いかがだろうか。PLM一本いれるのに2年も議論し、世の中はすでにバリューチェンからD2Cに変わっているにも関わらず、失敗を繰り返している日本企業と、迅速なヴィジョンとスピードを持つ中国企業との違いを。
SPACの組成者であるプリマベーラ・キャピタル・グループは170億ドルを超える資産を運用する世界有数の投資会社である。日本企業は、いまでも「ファンドが怖い」などといって、政府の補助金頼みになっているが、投資会社は、グローバルの常識では最速で世界を席巻する可能性のあるコングロマリットをつくるためのパートナーになりうるということなのだ。
私の所見では、LANVINというブランドをつかって中国発のLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)を作ろうとしているのだろうと思う。これは世界を震撼させるだろう。
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SPACに参加している抜け目ない伊藤忠商事
このランバン・グループには、なんと伊藤忠商事も参画しているようだ。私は、前回の論考でアダストリアが汗を流せば流すほど、ブランドライセンスの元締めである伊藤忠商事に、お金が落ちてくる元締めビジネスの旨みを明らかにした。
仮にブランド力を失った日本企業が世界的ブランドのライセンスを使えば、結局は伊藤忠商事に「チャリン、チャリン」とお金が入ることになる。今回伊藤忠商事のブランドホルダー範囲がどこまでかは分からないが、彼らのこれまでの動きからみて、広大な中国大陸と日本、そして、韓国・台湾までもライセンスを持っている可能性もある。いわゆる有名な伊藤忠商事の「ブラマ」(ブランド・マーケティング)戦略だ。
ただ、大事なのは「それでは、ランバンにそれだけの力があるのか?」という問いだが、それには「YES」と答えられなければならない。
確かに、日本で「LANVIN」の陰は薄いし、私の周りの人間に聞いても「おじさん臭い」という意見が多く、ランバンがLVMHになるわけがないという意見が圧倒的だ。
しかし、私の視点は全く逆だ。ランバン・グループはSrgio Rossiやcarusoなどを買収し、さらに、これからも力がある小さい欧州企業やアメリカ企業を買収してくるだろう。ひょっとしたら、日本のブランド力がある企業にもTOBをしかけてくるかもしれない。伊藤忠商事は、そのときに力を発揮するだろう。
私が新生ランバンだけでなく中国企業やファンドによる日本買いが増える理由は、私たちが想像したことがないスケールで欧州や日本、米国の一流ブランドを買って世界のコングロマリットになる可能性が高いからだ。考えてもらいたい。なんの根拠もなく「オワコン」と揶揄され、株価は低迷し円も安い今、外資企業からみれば日本企業は大バーゲンである。
私は先日、某新聞社との討論で真っ向から対立した。彼らは日本政府はあらゆる政策を取り、政府によって日本企業は国際化するという夢物語を主張した。それに対し、私は、日本政府にはまったく期待できない。日本企業の世界化は、外資企業によってなせられると主張したことを最後に付け加えておこう。
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プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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