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閉鎖か、それとも衣替えか……崖っぷち居酒屋チェーンの現在地

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年1月8日 20時55分

kanzilyou/iStock

猛威をふるった新型コロナウイルスも最近は落ち着きを見せ、繁華街や観光地の人出がコロナ禍前の水準に回復してきたという報道もある。では、コロナ禍で最も打撃を受けた業態の1つである居酒屋にお客は戻っているのだろうか。そもそも私たちは、コロナ禍のずっと前から居酒屋から足が遠のいていたのではないだろうか。今回は、酒飲みカルチャーの変遷や大手チェーン各社の業績を見ながら、今後の居酒屋チェーンの戦略について考えてみたい。

kanzilyou/iStock

「飲みニケーション」は過去のものに?

 「送別会」「新年会」「歓迎会」と、コロナ禍以前の職場では、イベントがあるたびに居酒屋を求めて街に繰り出していた。そうしたイベントがなくても、理由をこじつけて飲みに行く人も多かったことだろう。コロナ禍により、そうしたカルチャーはすべて過去形になってしまった。

 コロナ禍収束の兆しが見えても、すっかり定着したリモートワークなどの文化はそう簡単に後戻りはしないだろう。たとえオフィスに出社したとしても、「帰りにちょっと1杯」という雰囲気にはならない。家でゆったり過ごす生活に慣れてしまい、夜遅くまで繁華街を徘徊するのが億劫になってしまったのだ。

 日本生命保険が2021年に実施した意識調査によれば、全体の約6割が「飲みニケーション」を「不要」「どちらかといえば不要」と回答し、「必要」「どちらかといえば必要」と答えた約4割を大きく上回った。コロナ禍以前に実施された同調査では、「必要派」が5割以上に達していたものの、2021年に初めて逆転。今や「飲みニケーション支持派」は少数勢力なのだ。

コロナ禍が居酒屋チェーンを直撃

 こうした「酒飲み文化」の変化は当然、居酒屋チェーンの売上に大きく影響している。居酒屋チェーン大手、ワタミ(東京都)の国内外食事業の売上高は、2020年3月期の469億円から2021年3月期171億円と半分以下に激減。翌2022年3月期は151億円とさらに減収となっている。足元では業績は急回復しているものの、コロナ前に水準は遠い。

 ただ、居酒屋チェーンはコロナ禍前からすでに厳しい状況にあった。ワタミグループが絶頂期にあった2013年3月期、国内外食事業の売上高は740億円もあった。つまり、ワタミの国内外食事業は10年足らずで5分の1近くまで縮小してしまったのである。直近の中間決算(2023年3月期)でも宅食事業は国内外食事業の倍以上の売上高を稼いでおり、今やワタミの柱は宅食事業と言っていい。

 コロナ禍前から落ち込んでいた業績がコロナ禍でさらに悪化。コロナ禍が収束しつつあるなかで以前の水準に戻らない、というのが居酒屋チェーンの現状だ。「庄や」などを運営する大庄(東京都)も、飲食事業の売上高はここ5年間で半分以下(2017年8月期:517億円→2022年8月期:199億円)にシュリンクしている。

そのほかの居酒屋チェーンの戦略は……

 そのほかの居酒屋チェーンの動向を見ていくと、コロワイド(神奈川県)傘下のレインズインターナショナル(神奈川県)は、「牛角(約800店舗)」、「しゃぶしゃぶ温野菜」(約400店舗)、「居酒家 土間土間(約100店舗)」など核となる業態を複数抱えている。

 レインズインターナショナルでは「やきとりセンター」「手作り居酒屋 甘太郎」など居酒屋業態を複数展開しているものの、居酒屋業態の店舗数は全体の14%ほど(FC含む)と少なく、レストラン業態が大多数を占める。マルチブランド戦略がコロナ禍でも業績を下支えしている格好だ。

 一方、鳥貴族ホールディングス(大阪府)は、焼鳥屋業態オンリーで勝負する。右肩上がりで成長してきた業績はコロナ禍で大きく影響を受けたが、2023年7月期にはほぼコロナ前の水準まで回復しそうだ。2022年9月には「やきとり大吉」をフランチャイズ展開するダイキチシステムを完全子会社化することを発表するなど、アフターコロナを見据えたM&A(合併・買収)も推進中だ。

 総合食品グループのJFLAホールディングスは、クレープの「MOMI & TOY’S」、ベーグル専門店の「BAGEL&BAGEL」など非居酒屋の業態を複数展開しており、アルコールをメーンに提供する居酒屋・焼鳥屋系は、国内469店舗中の4分の1に過ぎない。JFLAホールディングスは現在、外食事業の再編を進めており、21年7月に焼鳥・居酒屋「とり鉄」などを、22年7月にはラーメン店の「どさん子」、ミルフィーユかつ専門店の「キムカツ」などを、22年10月には「タコベル」事業を、グループを通じて20%超出資する関係会社である小僧寿しに譲渡している。

消えた「居酒屋の和民」……急激に進む業態転換

 急速に業態転換を進めた代表格がワタミグループだ。ここ数年、ワタミグループでは、業績不振から脱却すべく、業態転換に力を注いできた。

 以前は「和民」「坐・和民」「わたみん家」など「和民」を冠する業態を主力としてきた同社だが、コロナ禍前の2019年3月末時点における国内のグループ店舗数は480で、そのうち「ミライザカ」「三代目鳥メロ」が300近くと圧倒的多数を占め、「和民」「坐・和民」は88店舗にまでその数を減らしていた。

 そしてコロナ禍に突入し、ワタミグループは業態転換をさらに進めていくことになる。コロナ禍でも強い「唐揚げ」「焼肉」に着目し、新しいスタイルの店舗を展開。居酒屋系和民の看板は2021年にその姿を消した。

 急速な業態転換を進めるワタミだが、業績は決して順調とはいえない。一時は200店舗まで拡張した「ミライザカ」はすでに約半分が閉店。焼肉業態の好調に乗って始めた「焼肉の和民」も、店舗数は約30にとどまっている。

 新業態といえば、鳥貴族ホールディングスも新業態「トリキバーガー大井町店」を2021年8月にオープンしているものの、半年以上経過した2022年3月にようやく渋谷に2号店を出店するなどその展開は極めてスローペースだ。

 大庄は、旧業態の「庄や」「日本海庄や」「大庄水産」などは店舗数こそ減っているもののいまだ全体の半数近く(全290店舗中の144店舗)を占める。新業態は「満天酒場」(16店舗)、「ときわ亭」(10店舗)などがあるが展開は限定的だ。大庄は2022年8月期に「庄や」を40店舗、「日本海庄や」「大庄水産」をそれぞれ9店舗閉鎖するなど、店舗撤退の加速させることで苦境を乗り切ろうとしているようだ。

 新業態開発・業態転換は、居酒屋の苦境脱却の決定打となるか。今のところ、居酒屋チェーン再成長に向けた有効な手立てはまだ確立されていない。

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