11期連続最高益更新! ワークマンが「高品質×低価格」の究極のトレードオフを両立できる理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年1月26日 20時55分
高品質で低価格――言葉としてはありふれているが、こと実現するとなると、トレードオフの関係にある両者を成立させることは難しい。
しかし、「高品質で低価格」を究極にまで両立させているのが、作業服トップシェアのワークマン(群馬県/小濱英之社長)だ。国内に977店舗(2022年12月末現在)のチェーン店をかまえ、近年では「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」とカジュアル衣料も積極的に展開。全店の売上高は約1566億円(2022年3月末)を誇り、目下11期連続で最高益更新と絶好調だ。
「リペアテック」「フレイムテック」など新開発の素材を続々と打ち出しながら、ダウンジャケットでも5,000円を切る別次元の低価格を実現する、ワークマンの「高品質×低価格」の秘訣はどこにあるのだろうか。
独自技術のヒット商品を続々と開発
生地に穴が空き、羽毛が吹き出してしまう……そんなダウンジャケットの悩みを解消したのが、ワークマンが開発した、穴を自己修復(リペア)する特殊製法をほどこした生地「リペアテック」だ。そのリペアテックを使用した「洗えるフュージョンダウン」が目下大ヒットで、年間50万着を売り上げている。
また、耐熱性のある樹脂の被膜によって火の粉などの飛び火による穴あきを軽減した「フレイムテック」を使用したアウターも、焚火などアウトドアシーンでのニーズをとらえて人気となっている。
その他にも、自身が発する熱を跳ね返して保温性を高める「裏アルミプリント」、電熱ヒーターを内蔵した“着るコタツ”こと「ヒーターベスト」など、ワークマンでは独自技術によって開発したアイテムを続々と打ち出し、そのどれもが飛ぶように売れている。いったい、どれほどのエンジニア人材を集めた研究開発拠点があるのか――と製品開発部長の柏田大輔氏に聞いてみると、「いえ、そんなものはありません」と笑われてしまった。
「素材技術の企画・開発を主導するのは、あくまでワーク衣料、アウトドア衣料、スポーツ衣料をそれぞれ担当する社員。彼らが日ごろから問題意識を持ち、お客さまが何を必要としているか、そのニーズを実現するにはどうすればよいかを常に考え、商品に落とし込んでいる」(柏田氏)
「価格」を先に決め、実現まで粘り続ける“発注力”
これらの新技術を次々に開発しながら、さらに驚くべきはその価格だ。「リペアテック」を使用した2022年モデルのダウンジャケットは3,900円、「フレイムテック」のダウンジャケットは4,900円。もはや「格安」の一言で表現できるレベルを超えた価格設定だ。
なぜ、ここまでの低価格を実現できるのか? 製品開発部マーチャンダイザーの牧野康洋氏は「『売りたい価格』を先に決め、そこからブレないことを原則としている」と語る。
「より多くの方に買ってもらえるにはどうすればよいかをまず考え、市場価格の2分の1、さらには3分の1の価格をまず設定する。その前提で、実現したい商品の開発を進める。一度決めた価格を動かすことはない」(牧野氏)
そのためには「『諦める』ではなく『割り切る』ことが重要」と柏田氏。生地、ボタン、ファスナー、縫製技術など細部まで徹底して見直し、余分なスペックや工程をそぎ落とす。
同時に、低価格を実現するポイントは、“発注力”とも形容すべき、取引するベンダーへの発注の工夫にある。
ワークマンの全チェーン店(直営店・加盟店)は、全国に977店舗(2022年12月末現在)。これはユニクロの国内店舗数(809店舗/2022年10月20日現在)を上回る規模だ。だからこそ、一定量のボリュームを確保して発注することができる。
さらに、ワークマンのアイテムは「最低でも5年間は同じものを作り続ける」(牧野氏)。流行に左右されずロングライフで着られるアイテムなので、ベンダーも長期の取引を確保した上でボリュームディスカウントに応じられるというわけだ。
ワークマンの“発注力”はそれだけにとどまらない。「3社見積り・1社決定」を徹底し、必ず3社以上の取引先を価格・品質両面で競わせた上で、最善の提案をした1社を選定する。加えて、なるべく工場の稼働が低い閑散期をねらって発注する。「各ベンダーとの交渉を重ねながら、極限まで仕入れ原価を抑え、当初設定した低価格を実現するまで粘り続ける」(牧野氏)
それができるのも、創業以来40年以上にわたって築き上げてきたベンダーとの信頼関係があってこそだろう。作業服、と一言で言っても「頭のてっぺんから足のつま先まで」そのアイテム数は膨大な数に上る。それぞれ得意分野を持つベンダーと長期にわたって取引してきたことで、「新しいアイデアを、決めた価格で実現できる」ための最良のベンダーを選び、実現することができるのだ。
「そのためにも、素材に関する勉強は欠かせない。海外の工場にも視察に行くなど常に最新の知識を備え、ベンダーと対等に議論や交渉ができるように努めている」(牧野氏)
アナログな情報収集で「声のする方に、進化する」
2018年に新ブランドの店舗「ワークマンプラス」、2020年には「#ワークマン女子」など新たなショップブランドを展開し、カジュアル衣料としても広く認知されているワークマン。YouTubeなどでも、新作アイテムがさまざまな動画で紹介されている。
カジュアル衣料の市場に進出したのは「東北の港町にある店舗から『冬でも温かい雨ガッパが作れないか』との要望があったのがきっかけ」と柏田氏は振り返る。
その要望を受け、漁港で働く作業員のために綿入りの雨ガッパを開発したところ大ヒットに。冬の防水・防寒ウェアとして全国に展開していった。
それからしばらくして、別の店舗から「明るい色の雨ガッパを作ってほしい」と新たな要望があった。それまでは黒・紺の地味なカラー展開だったので、新たにライムイエローの雨ガッパを販売したところ、これまたヒットとなる。
「どうしてこの明るい色が売れるんだろう?」と柏田氏が店舗を回って店長やスタッフから情報を集めていると、冬にバイクに乗る人が買い求めていることがわかった。
そこで、バイカーを新たなターゲットに、雨ガッパを日常でも着られるレインウエアとしてリニューアル。透湿防水性に優れた素材を採用した防寒レインウエア「イージス」のシリーズ名で販売したところ、バイカーだけでなく多くの人が買い求める超大ヒットとなった。
このエピソードからもうかがえるように、ワークマンでは社員一人ひとりが現場の店舗スタッフや取引先などから常に情報を集め、商品開発に反映している。今日ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)のトレンドから、店頭で顧客の行動データをいかに収集、活用するか、という点に注目が集まっているが、この一連のエピソードから、店舗を回ってのアナログな情報収集力が、ワークマンの「高品質×低価格」の秘訣の一つであることがうかがえる。その姿勢は、同社が掲げる企業理念「声のする方に、進化する」の言葉にも表現されている。
あくまで「作業服」であり「消耗品」
近年では新型コロナウイルス禍によるライフスタイルの変化もあり、大手アパレル、紳士服チェーンなども含めてより軽さや動きやすさを求めた商品開発に大きくシフトしているトレンドがある。その点ではワークマンにとっての競争環境も激化しているように映るが、柏田氏は意外にも「あまり競争している意識はない」と語る。
「当社の製品の軸はあくまで作業服。作業の現場で必要とされるものであり、趣味嗜好品ではなく『消耗品』を扱っている」(柏田氏)
作業現場でのストレスを軽減するためにより軽く、動きやすく、快適な作業服を提供する。汚れたり破れたりと消耗することを想定し、求めやすい価格で提供する。流行を追い過ぎず、すべてのアイテムは最低でも5年間販売し続ける――ワークマンの一連の経営方針は、すべて「作業服」である、というところに帰結するのだ。そう考えると、柏田氏の「他社と競争している意識はない」との発言は決して不遜には聞こえない。
「作業する人のために快適な作業服を提供する、という一点で、ニッチな市場を築き上げてきた。だから、アパレルの他社とぶつかることがない」(柏田氏)
作業服市場ではトップシェアを築き上げてきたが、それに甘んじることなく、消費者の声に耳を澄ませて「高品質×低価格」のトレードオフに挑み続ける。そこに、ワークマンの強みがあるのだろう。
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