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「アパレル業界を殺した」のは余剰在庫

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2019年4月15日 20時0分

既存のビジネスモデルが通用しなくなったアパレル業界。ではその根本的な原因がどこにあるのかと言えば、余剰在庫にある。なぜ、余剰在庫は増えてしまうのだろうか?

余剰在庫が増える、簡単で深刻な理由

 アパレル業界が抱える最大の問題は余剰在庫である。私がこの20年企業再建のためにやってきたことは例外なく在庫との格闘だった。会計に詳しい方は分かると思うが、鮮度品であるアパレル商品は、シーズンが過ぎると二束三文となり、貸借対照表の「資産」から損益計算書の「損失」に計上される。しかし、こうした経理処理をやっている企業は全体で見ればほとんどなく、多くの企業が「資産」として残したままに放置し、現金が回らなくなったところで損金処理し業績が悪化する。帝国データバンクの2016年の調査で、「日本のアパレルの20%は赤字」と発表していたが、正しい会計処理、つまり、鮮度品を正しく評価すれば30%以上に拡大するのではと私は見ている。

 しかし、なぜ、余剰在庫が増えるのか。そのメカニズムは驚くほど単純だ。

 ①少子高齢化と②グローバルSPA(製造小売)企業の競争参入、③ディスカウンターによる平均単価下落の3つにより、私の推定では、アパレルの市場規模は毎年約2%ずつ縮小している。それにも関わらず、個社ごとに昨対比で成長する計画を立て、その非現実的な計画を前提に在庫を仕入れているからだ。

 アパレル業界は、驚くほど競争環境を分析できていない。さすがに、お客さまのことはしっかり見ているが、自社と同じような商品を、競合が自社の80%程度の値段で山のように販売していても気づかずに、追加生産をするぐらいだ。結果、業界全体で30%以上の供給過多となり、これらがクーポンや値引き販売の対象となって叩き売りされている。

 この問題は、縮小する日本市場から海外などに出て行くか、日本に2万社弱あるアパレル企業が情報公開し、共同で生産調整をする以外に理論的に解決しないことになる。アパレル業界では、在庫を先に仕入れて販売するという買約先行取引が一般的で、クルマやパソコンなどで一般化している受注生産(受注してから作る)という概念がない。あっても、いまだに「パーソナルオーダー」などと呼ばれ、贅沢品として認知されている。したがって、市場が縮小すればするほど計画は相対的に強気となり、仕入在庫 (=余剰在庫) が増えてゆくのだ。

 

いま利益を出しているアパレルは2タイプ

 この問題の解決は、産業構造上極めて難しい。

 ある大手企業が「仕入れ額を8割に減らす」という報道がなされた。だが、1社が仕入れ調整しても、産業全体の非効率性は実は何も変わらない。なぜか。アパレル業界はトップのユニクロが20%のシェアを握るが、2位から10社までを合わせても同じ20%のシェアを持つにとどまる。さらに残りの60%に2万社弱もひしめき合う細分化された産業だからである。  

 加えて、日本に参入したファストファッションと呼ばれる外資SPAは、トレンドセッターといってトレンドをどんどん作り上げている。彼らにより4シーズンだった日本のファッション・シーズンは812回転に細分化されてしまった。そのために、シーズン途中で追加生産したり計画を修正するといったQR (Quick Response)と呼ばれる改善手法は、全く効果が出なくなってしまった。

 生産リードタイムをどれだけ短縮しても2-3週間が限度だ。1年が8回転すれば1シーズンが1.5ヶ月となり、初速の計測期間を含めれば、追加生産された商品が投入される時期にはシーズン終了となる。QRの手法では、シーズンに間に合わないのだ。

 一方、あるお店で商品が欠品していたとしても、消費者はそんなことは意識してさえいない。スマホで似た商品をネットで探し、そのまま「ポチ」ってお買い物は終了。欠品と騒いでいるのは企業だけなのだ。

 さて、よくよく分析すると、今利益を出している会社は、以下の2タイプに別れる。

1.ベーシック長期販売型
 できるだけベーシックで複数年度でも損金処理せず販売できるような定番商品の構成比率を高め、鮮度を保つために「商品を変える」のでなく、VMD(ヴィジュアルマーチャンダイジング)などの「見せ方を変える」ことで流行を追いかける手法だ。対照的に、古い成功体験に未だすがっている人達は「商品そのものを最初から企画し直さないと鮮度が保てない」と思い込み、必要以上の生産ロットとやっつけ仕事のクイック生産で商品コスパを悪化させ、かえって余剰在庫を増大させている。

2.トレンドセッター高回転型
 ZARAのようにハイテクを駆使し、超高速で世界中のトレンド情報処理を行って商品生産し「売り切り御免型」で一期一会の商品供給をしている。そもそもセレクトショップは、買い付けが基本だからQRなどやっていない。もし、QRが唯一解なら、売り切り御免型や買取型企業の業績がよい理由が説明できない。

 

 トレンドの変化に対する戦い方は、株式取引と同じだ。グローバルに事業展開をしながらハイテクで情報処理をするプロ投資家型か、株価が上がるまで待つアマチュア投資家型の2択の戦いで、アパレルのトレンドの不確実性との戦い方と全く同じなのだ。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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