SDGsは諸刃の剣 日本のアパレルに突きつけられた戦略的判断とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2023年2月13日 20時55分
さて、私は前週の論考、「サステナファッションは非現実的 アパレル産業がすべき本当のSDGsについて考える」で、日本人が一般的に信じている、あるいは、インテリはすでに知っているが声に出せない事情から黙っている幾つもの本音をあぶり出し、産業界が隠蔽している真実を語った。SDGsは、企業にとってコストであり、企業収益をむしばむ毒薬だからだ。しかし、治療薬がないわけではない。今回は、私が10年間戦ってきた、抜本的な解決策について語りたいと思う。
SDGsはコスト
SDGs巡る5つの大きな大問題とは
改めて前回の話を中心に、日本のアパレル産業のSDGsに関して、私が考える5つの問題点について以下にまとめた。
①SDGs対応は、多くの企業にとってコストであり企業収益をむしばむ毒薬であること
SDGsの対応、およびESG経営は、企業活動にとって「コスト」でしかない。だから、ドナルド・トランプ前大統領は、パリ協定で、中国とのメトリクス(計測方法)に「不公平」と発言し、同協定から脱退した。これは、米国のほうがSDGs対応の負担が相対的に大きく、産業コストを中国以上に背負うという意味である。SDGsがビジネスチャンスなら、なぜ米国が反対するのか。中国新疆綿には反対して輸入禁止をしたのは、本当に人権的観点からなのか。パリ協定からの脱退と比較して、よく考えていただきたい。
②広がるSDGs利権
SDGsの本質は、政府主導によって某コンサル会社、マーケティング会社によってゆがめられ、あたかもサステナ・ファッション(サステナブル:経済活動と環境保全の二つは両立するという考え方)が、次のトレンドだとばかりに、欧州の文化的背景(ア・プリオリに環境保全が第一優先。下記参照)と、日本とのを違いを考慮せず(図1)、サステナファッションを次々と立上げ全滅しているといったら失礼か。しかし、日本でサステナファッションがヒットしたなどという話は聞いたことがない。彼らの殺し文句は、LVMHが、とかGUCCIが、とか、全く我々庶民とは関係ない話しを持ち出すことだ。そうしたハイブランドがスプリンクラー(上から下に影響を与える)効果があると信じている。しかし、日本人がもっと豊かにならなければ、絶対にそんなことは起きない。
③激安 Sheinの店に4000人のZ世代が列をなしたことをみれば、環境コストを消費者は吸収しないこと
日本はOECD諸国の中でもっとも貧しい国になり、二次流通品を上手に利用してファッションを楽しんでいるような現実の姿を曲解し、「ああ、若い世代は環境意識がたかまっているんだ」と間違った見方をし、ファッション業界を全滅に導いている。
④マーケティングデータを信じず、唯我独尊で破滅の道へ
日本が世界に誇る某メーカーは、マーケティングをまともに学んだこともないのに金は腐るほど持っていた。しかし、その金もメチャクチャな投資でどんどん溶けているが、こうなることは2年前から私が論理的かつ、情熱をこめて指摘したのだが、御用学者ならぬ、御用コンサルの援護射撃で、真正面から経営改革を迫ったことに対して「パワハラだ」「極論だ」と言って私をクビにした。おどろくべきは、その御用コンサルは、その事実を理解さえしないという酷い状況にあり、プロフェッショナリズム(例え、クライアントに嫌われてもクライアントのためになることを、ましてや、危機的状況に陥っている場合においては、多少の荒療治をもってしても改革を進めてゆく)をわすれていることだ。
覚えているだろうか、私は昨年春「秋には大きなM&Aが立て続けにおきる」とこの「ダイヤモンド・チェーンストアオンライン」に書いたことを。日本のアパレルの国際競争力のなさ、そして、円安や中国の金余り現象(今は日本の不動産に向かっている)などを総合すれば、そうなることは明らかだった。そんなことは、事実をしらなくともForces at workという手法を使えば容易に予想がつくのだが、考える力を失った者達は、この事件をもって、さあ大変だとあたふたしている。
⑤世界の余った金は日本のアパレルには向かわないこと
その結果、もっともおそれていたことが起こった。それは、繊維・アパレル産業へリスクマネーが回ってこなくなったということだ。コンサル会社は売上至上主義に陥り、過剰診療を繰り返して、いわば便秘の患者に「大変です大手術が必要です」と誤診断でオーバードーズ、必要の無い手術を繰り返し、その全てが的外れとなっている。結果、今後は相当な勝ち筋が見えなければ、もはやアパレル業界にリスクマネーが回ってこないだろうことは明らかだ。これをもって、「安心だ、これでハゲタカににらまれることはない」といっても、資金調達はデットかエクイティの二択しか基本的にはないわけで、借入がマックスまで来た場合、否が応でもファンドに頼むしかない状況になる。ならば、元気なうちに、投資戦略を考えてファンドを利用してやるぐらいの戦略を立てなければ、縮小する日本市場で生き残ることはできないだろう。
日本のアパレルがSDGsに対応する唯一の秘策
つまり、リスクマネーが入ってこないということは、この先、私の目の黒いうちに業界再編が起こらず、紡績業界のように、静かにプレイヤーが日系から外資に変わってゆくという結論になるわけだ。世界の繊維輸出大国だった日本が、今では7兆円に落ち込んだ市場のわずか1.8%程度のシェアしかないこと、そして、50%だったシェアがここまでおちこんだ様を経験値としてしっている人はいないだろう。私は、それを加速させた張本人の一人で(商社の南下政策)、産業は静かになくなった。
そういえば、日本は似たような話ばかりだ。思い出してもらいたい。例えば、日本が非接触技術で世界の先陣を切ったにも関わらず、周回遅れの単なるバーコードで立ち向かったAppleに完敗といえるほど叩きのめされ、いまでは、ガラケーなどと呼ばれる非接触技術搭載の端末は消えてなくなった。半導体もそうだ。自ら人的コスト、社会コストがかかる産業を潰しておきながら、次の産業も育てないまま、せいぜいアニメとAKB48、環境立国ぐらいしかなくなってしまったわけだ。経済をしらない政治家が、生産拠点をもとに戻せとどなっているが、すでにドル円相場は130円程度に回復している。私は、為替などそんなもので、実際日本の輸入と輸出は85兆円で均衡しており、誰かが損をしたら、それと同じぐらい誰かが儲けているし、固定相場制ではないのだから10年というスパンをみれば、歴史が証明しているように円安と円高が交互に繰り返されているのだと書いている。私が「知らなきゃいけないアパレルの話」で書き綴ったように、「産業崩壊の過程」について、事実をベースに金と情報の流れを理解してもらいたい。
日本のアパレルはSDGsにどう対応すべきか?
それでは、日本のアパレル産業はSDGsについてどのように対応すべきか?私が、後生大事に温めておいた、日本と中国を横断する「ビジネスプロセスプロトコル統一政策」をご披露しよう。この産業政策は今でも有効で、実際、米国でDAMA projectとして紹介された。SCMの最終形をCPFR (シーファー:サプライチェーンが完全同期し、相互に計画を練り、相互に予測を立てる全体最適、という概念。Collaborative planning, forecasting and replenishment)といい、私は、これを日本主導でコード統一委員会の管理下でつくりあげ、中国と日本の貿易の架け橋とし、デジタル化を実現するという案で、政府にはイニシアティブをとり、今の人権デューディリジェンスのようにアジアのリーダーシップをとるという提案だ。
この産業政策は、ちょうど8年前に経済産業省に提出され採択された、私にとってはじめての産業戦略論ともいえるもので、丁度、安倍総理の三本目の矢にあたった。日本主導で、コード、プロセス、決裁、アウトソーシングなどのすべての企業間のやりとりが標準化されれば、その破壊力は凄まじい。米国のDAMAの文献はウエブ上から消えてしまったが、たしか数兆円という経済効果を一刻にもたらした。世界に先駆けて、「東アジアから東南アジアにかけての共存共栄の一大経済圏」をつくり、これをデジタル・パッケージにすれば、今、我々が外資のパッケージを使わされている逆の発想で、海外のアパレルに日本基準を遵守させることもできる。日本のコード委員会が、富士通、NEC、NTTなどに事前に方針をおしえておけば、海外のパッケージベンダーはおいつくことも不可能だ。
このように、日本基準のビジネスプロセスプロトコルを統一化できれば、H&Mが簡単に約束を破るようなHigg index などをおしのけ、アジアのリーダーになり、デジタル、PLM、物流のすべてを牛耳ることが可能になるわけだ。
このビジネスプロセスプロトコルを遵守した企業に対しては、暫定八条(いわゆる暫八)、最恵国待遇(途上国の資材や原料をつかって繊維製品を組み立てれば輸入税が免除される)といった、輸入税を5%免除するのである。
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これが「戦略」というものだ!
若い人に言いたいのは、これが「戦略」というものだ、ということだ。もし、批判があればいつでも言ってもらいたい。これ以上の政策は存在しないだろう。ちなみに、この政策は私が30代のころつくったものだったが、まだ無名の私がいくら叫んでも、経産省など夢のまた夢。今なら、個人の名前で会議を開催することだって可能だが、当時の私はまったくの無名で三菱商事にさえ、「書籍もだしてないコンサルとつきあえるか」と門前払いをくらったものだ。私が、売名行為ともいえる露出(今は、節操のない露出は控えている)を繰り返してきたのはこのためだ。これも若い人にきいてもらいたいのだが、「自分じゃ無理だ」と諦める前に、私のように、ならば、と数年掛けて書籍を出し、TVにもでてみろ、といいたい。私はこうやって自分の思いをつらぬいてきたのである。
この産業政策は、あの大前研一氏から絶賛され、「あの連中ならたらい回しにされるだろうが、やってみろ」と応援された。その後、私は彼の私塾で事業戦略論や産業政策論を教えるようになった。こうして、20年前につくった政策は、命を守り12年もかけて経産省に渡されたのだ。
残念なことにこの政策はまだ実現されていない。なぜなら、本政策には予算もついたのだが、私が大病にかかってしまい、この政策を他のコンサル会社に委ねなければならなくなったものの、この政策の意味を理解するシンクタンクやコンサル会社が皆無で、誰も手を挙げなかったからだ。「応募者ゼロ」という信じられない結果となり、そのため、いつしか分科会という形に矮小化され、大手商社達の覇権争いの中でついえてしまったのである。
改めてこの政策のポイントを解説したい。当時中国と日本の調達物流(当時は、オフショア生産は70%だった)が商社によって、ビジネスフローがバラバラにされていた。
発注、海外出荷、国別銀行間決裁ルール、委託加工貿易の資産移転の海外証左、さらに、VMI(在庫発注点を決めて発注書をきらなくともベンダーが決められた量まで商品を出荷する。そのときの在庫の移転をいつにするかは、常にVMIの課題となっている。特に、課題や希少性の高い商品がこれにあたる)のスキームなども盛り込んだ。また、資産移転や決済方法もドル通貨を使わない。もっとも有利なハードカレンシー(外貨決済可能な通貨)で行い、為替の変動を吸収する。
これが、私が20年前に考えた産業戦略である。失礼ながら、誰も着ないようなルイ・ヴィトンやエルメスの話に興じ、「生めよ増やせよ」とかけ声だけの標語をつくっている暇があれば、政策の作り方を学んでいただきたいと、今の担当者に申し上げたいものだ。
このように、デジタルSPA (これも経産省に採択されるも、いつしか曲解され、某大手システム会社が理解できない投資を行っている)や、トウキョウショールームシティー戦略(残念だが、日本という国に絶望し、書籍に書いて後世に残しておこうと考えている)、また、今後、私はオフショアの研究に身をささげたいと思うが、一人でも多くの方が私の考えに賛同してくれることを祈っているだけだ。
プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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